アルバムレビュー：Renegades by Rage Against the Machine

発売日: 2000年12月5日
ジャンル: オルタナティヴ・メタル、ラップ・ロック、カバーアルバム

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
制作の裏側（Behind the Scenes）

概要

『Renegades』は、Rage Against the Machineが2000年に発表したカバーアルバムであり、彼らの音楽的ルーツと政治的信念を再解釈する作品である。

本作は、ヴォーカリストのザック・デ・ラ・ロッチャ脱退直後にリリースされた最後のスタジオアルバムであり、事実上バンドの第一期を締めくくる集大成的意味合いも持つ。

収録曲は、ヒップホップからハードロック、フォーク、ファンクまで多岐にわたり、Bob DylanやMC5、Eric B. & Rakim、Cypress Hill、Minor Threatといった反骨精神に満ちたアーティストの楽曲を、RATM独自のヘヴィかつグルーヴィなアレンジで再構築している。

彼らが選んだのは、単なる音楽的影響源というよりも、イデオロギーの継承者たち。

アメリカの体制批判、ブラックカルチャーの尊重、パンクのDIY精神など、RATMの姿勢を裏打ちする選曲であり、同時に2000年代初頭のアメリカ社会に鋭く切り込むメッセージ性を帯びている。

当時のリスナーにとっては“Rageによる再教育”のようでもあり、政治的に黙することのない姿勢を最後まで貫いた一作といえるだろう。

全曲レビュー

1. Microphone Fiend（Eric B. & Rakim カバー）

原曲のサンプリング感とリリックの鋭さを、重厚なベースとタイトなリフで再現。
ザックの咆哮が、ラキムの冷静なラップを真逆の熱量で再解釈する。
RATMがヒップホップとハードロックの交差点にいることを明示したオープナー。

2. Pistol Grip Pump（Volume 10 カバー）

ファンク色が強いトラックで、グルーヴの太さが際立つ。
ビートとギターの絡みが抜群で、トム・モレロのトーンワークが冴え渡る。
アンダーグラウンド・ヒップホップの持つ暴力的美学を可視化したアレンジ。

3. Kick Out the Jams（MC5 カバー）

デトロイト・ガレージの象徴的曲を、原曲以上に暴力的かつ直線的にブースト。
「motherfucker!」のシャウトも健在で、怒りとカタルシスが爆発する瞬間。
MC5の「反体制性」を再解釈したパンク・スピリットの継承。

4. Renegades of Funk（Afrika Bambaataa カバー）

80年代エレクトロファンクの名曲を、ヘヴィなビートで重厚にリビルド。
歴史的な“レネゲイド（反逆者）”たちの名前が並ぶリリックは、RATMの信条そのもの。
モレロのスクラッチ風ギターワークが、ヒップホップへのリスペクトを体現する。

5. Beautiful World（Devo カバー）

原曲の皮肉を極限まで強調した静かなカバー。
ボーカルはトム・モレロが担当しており、静謐な響きの中に毒が潜む。
唯一の“叙情的”なナンバーで、アルバム全体に陰影を与える。

6. I’m Housin’（EPMD カバー）

リズム感が光るファンク・ロックナンバー。
スラップベースとドラムのグルーヴがリスナーの身体を揺らす。
ヒップホップの流れを汲みながら、ギターの破壊力が主役にもなっている。

7. In My Eyes（Minor Threat カバー）

ハードコア・パンクの原型をそのままに、肉厚な音像でカバー。
スピードと怒りがそのまま鋼鉄のボディを纏ったようなサウンド。
ティーンエイジャーの怒りが、21世紀の壁を突き破る。

8. How I Could Just Kill a Man（Cypress Hill カバー）

B-Realとの共演で話題となったトラック。原曲のサイコ感を維持しつつ、RATM流のヘヴィネスを注入。
ヒップホップとラップ・ロックの境界線が消失する瞬間。
ビートとギターが呼応しながら、都市の暴力性を描き出す。

9. The Ghost of Tom Joad（Bruce Springsteen カバー）

社会派ロックの金字塔を、重苦しいドローンのような音で再解釈。
「怒れる亡霊」としてのトム・ジョードを現代に蘇らせたアレンジ。
不正義への静かな怒りが、爆発の予兆として響く。

10. Down on the Street（The Stooges カバー）

イギー・ポップの野性味を継承しつつ、より緻密な演奏でパンクの本質を再提示。
スネアとギターの応酬が耳を支配する。
原始的な衝動と政治性が一体化した一曲。

11. Street Fighting Man（The Rolling Stones カバー）

オリジナルの浮遊感を捨て、硬質で刺々しいアレンジに変貌。
「革命の音楽」としての本質が、よりラディカルに更新された。
60年代の夢が瓦解した後の現代にこそ響く、RATM流のレクイエム。

総評

『Renegades』は、単なる「カバーアルバム」という言葉では語り尽くせない、思想の継承と再構築をテーマにした音楽的マニフェストである。

自らの活動の終幕にこの作品を選んだことは、RATMの誠実さと徹底した政治性を象徴している。
彼らにとって音楽は“抗議”であり、“教育”であり、“祈り”でもあったのだろう。

選曲は単なる好みではなく、音楽史や社会運動の潮流に対する批評であり、トム・モレロのギターは時にDJのように言葉なき語りを奏でる。
ザックの咆哮は、その過去の声たちに新たな命を与えた。

このアルバムは、RATMの原点をたどる旅であると同時に、聴き手に「ルーツに戻れ」と問いかける。
政治的であれ、文化的であれ、アイデンティティを見失うな、と。

怒りと敬意、分析と直感。
そのすべてが交錯した本作は、RATMという存在が音楽界にもたらした唯一無二のレガシーを証明する一枚である。

制作の裏側（Behind the Scenes）

『Renegades』は、バンドの崩壊を目前に控えた2000年の夏から秋にかけて録音された。
制作は、RATMの長年のパートナーであるBrendan O’Brienが担当し、彼のタイトで迫力あるプロダクションがバンドの鋭角な演奏をさらに研ぎ澄ませている。

各曲の選定はバンド全員で行われ、あえて音楽ジャンルの垣根を越えることを意識していた。
この方針により、ロック、パンク、ヒップホップ、ファンクと多彩なルーツが並ぶ結果となった。

ボーカルのザックは、制作期間中に脱退を発表し、レコーディング終了後すぐにバンドは解散。
そのため、アルバムのリリースと同時にプロモーション活動は行われず、アルバム自体が“遺書”のような位置づけになってしまった。

しかし、それが逆に『Renegades』をより神秘的で重要な作品へと押し上げたのかもしれない。
Rage Against the Machineという「マシーン」の終焉、その最後の咆哮として、このアルバムは深い余韻を残している。