発売日: 1980年10月8日
ジャンル: アートロック、ポストパンク、アフロビート
Remain in Lightは、トーキング・ヘッズがアフロビートやファンクのリズムを大胆に取り入れた4枚目のアルバムであり、彼らのキャリアの中でも最も評価の高い作品の一つだ。ブライアン・イーノが再びプロデュースを担当し、彼の影響が色濃く反映されている。複雑なリズム構造や電子音、ポリリズムが特徴的で、リズム主体のサウンドが際立つ。アフリカ音楽からの影響とバンドの知的なアプローチが融合し、革新的でエクスペリメンタルなサウンドスケープを作り出している。このアルバムは、疎外感やアイデンティティ、テクノロジーと人間の関係といったテーマを扱っており、音楽的にも哲学的にもバンドの最も野心的な試みとなった。
各曲ごとの解説:
- Born Under Punches (The Heat Goes On)
アルバムを象徴する複雑なリズム構造とポリリズムがすぐに際立つオープニングトラック。重厚なベースラインとアフロビートのリズムが絡み合い、デヴィッド・バーンの焦燥感に満ちたボーカルが印象的だ。歌詞はアイデンティティの危機や逃れられないプレッシャーを描いており、全編にわたるリズムの奔流がその感覚を増幅している。 - Crosseyed and Painless
ファンキーでエネルギッシュなトラックで、ギターのカッティングとリズムの複雑さが際立つ。バーンはここで、自分自身を見失う感覚や、情報過多による混乱について歌っている。電子音と生楽器の融合が曲全体を支配し、リスナーを没入させる。 - The Great Curve
ポリリズムがさらに強調された楽曲で、力強いギターリフとコーラスが曲にエネルギーを与えている。人間の進化とその限界をテーマにした歌詞が、複雑なリズムに乗せて繰り返され、サウンドとメッセージが一体となっている。 - Once in a Lifetime
アルバムで最も有名な曲であり、トーキング・ヘッズを象徴する名作。シンプルなベースラインと波のように繰り返されるリズムの上に、バーンの語りかけるようなボーカルが展開する。自己を見失い、時間の流れに取り残される感覚を描いた歌詞は、現代社会への鋭い洞察を示しており、リスナーに深い印象を与える。 - Houses in Motion
スローテンポながらもグルーヴ感のあるリズムが特徴的で、ファンクとアフリカ音楽の影響が色濃い。歌詞は動き続ける世界の中で、固定されたアイデンティティを模索することの難しさを描いており、バーンのクールなボーカルがそのテーマを強調している。 - Seen and Not Seen
淡々とした語り口のバーンが、自己改造や外見に対する執着をテーマにした哲学的な内容を歌う。ミニマルなサウンドと繊細なリズムが、内省的な歌詞と相まって、静かに深い余韻を残す曲となっている。 - Listening Wind
テロリズムや植民地主義に対するテーマを扱った楽曲で、メッセージ性の強い内容となっている。ミステリアスで緊張感のあるサウンドが、静かに進行する中で、アフリカ音楽の影響が強く感じられる一曲だ。 - The Overload
アルバムのラストトラックは、スローテンポで重く沈んだサウンドが特徴的。ジョイ・ディヴィジョンからの影響を強く感じさせる暗い楽曲で、終末的な雰囲気が漂う。沈み込むようなベースラインとバーンの低い声が、不安と虚無感を強調している。
アルバム総評:
Remain in Lightは、トーキング・ヘッズが音楽的な実験をさらに進化させ、リズムやテクスチャーを中心に新しいサウンドを模索したアルバムである。アフリカ音楽やファンクの影響を大胆に取り入れつつ、疎外感やアイデンティティの喪失といった現代的なテーマを掘り下げている。特に「Once in a Lifetime」のような曲は、ポップミュージックとしての普遍性と哲学的な深みを兼ね備えた傑作だ。全体として、複雑なリズムやエレクトロニクスを駆使したサウンドが、リスナーに強いインパクトを与え、バンドのキャリアを象徴する重要な作品となっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Fear of Music by Talking Heads
「Remain in Light」の前作であり、ポストパンクやインダストリアルな要素を取り入れた実験的なアルバム。社会的不安や都市生活への鋭い視点がテーマとなっており、アートロックとしてのトーキング・ヘッズの本質が表れている。 - Graceland by Paul Simon
アフリカ音楽を取り入れたもう一つの名作。ポール・サイモンがアフリカのリズムやメロディを融合させた作品で、トーキング・ヘッズのアフロビートへのアプローチと共鳴する部分が多い。 - My Life in the Bush of Ghosts by Brian Eno & David Byrne
デヴィッド・バーンとブライアン・イーノが共作したアルバムで、エレクトロニカやアフリカ音楽、中東の音楽要素を融合させた実験的な作品。サンプリングを多用し、「Remain in Light」の延長線上にあるサウンドを楽しめる。 - The Rhythm of the Saints by Paul Simon
「Graceland」に続くポール・サイモンのアルバムで、より深くアフリカや南米のリズムに踏み込んだ作品。トーキング・ヘッズのリズム重視のアプローチを好むリスナーには非常に魅力的。 - Speaking in Tongues by Talking Heads
トーキング・ヘッズの次作で、よりポップでダンサブルな方向にシフトしたアルバム。「Remain in Light」のリズムへの探求を継承しながらも、ポップさが増した作品で、バンドの進化を楽しめる。
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