発売日: 2022年5月20日
ジャンル: ポップ・ロック、アート・ロック、シンガーソングライター
概要
『Red Green Blue』は、Hansonが結成30周年を記念してリリースしたスタジオ・アルバムであり、三兄弟それぞれが独立して作曲・制作を手がけた三部構成というユニークな試みがなされた意欲作である。
“Red”(テイラー)、“Green”(アイザック)、“Blue”(ザック)という三つの色で象徴されるように、本作はHansonという集合体ではなく、個人の視点と感性に焦点を当てた構成となっており、それぞれのセクションがまるでソロ・ミニアルバムのように独立して存在している。
結成から30年、デビューから25年が経った彼らが、あえて「バンドの個性」を一度分解し、それぞれの作家性と音楽観をありのままに提示したことで、Hansonの“現在地”と“可能性”が立体的に浮かび上がる構造となっている。
このアルバムは、青春の延長ではなく、“成熟した音楽家たちの肖像”であり、三者三様の音楽的美学と人生観を映し出す、多面的なセルフポートレートのような作品なのである。
全曲レビュー
【Red – テイラー・ハンソン編】
Child at Heart
アルバムのリードシングル。美しいピアノの旋律とともに、「心の中の子ども」を失わずに生きることの大切さを歌う、非常にパーソナルな楽曲。
ポップだがどこか哀愁を帯びたコード進行が印象的で、テイラーのソングライターとしての円熟を感じさせる。
Rambling Heart
旅に生きる放浪者の視点から綴られる軽快なロック・ナンバー。
移動することでしか自分を見出せないという孤独と希望の両義性が美しく響く。
Truth
静かなピアノ・バラードで、自己との対話をテーマにしている。
「真実はいつも耳を塞ぎたくなるもの」という歌詞が象徴的。テイラーの内省性が凝縮された一曲。
【Green – アイザック・ハンソン編】
Write You a Song
アコースティック・ギターとストリングスが交差する、クラシカルなラブソング。
低音域の落ち着いたヴォーカルが安心感をもたらし、シンガーソングライターとしての温かみが際立つ。
No Matter the Reason
ブルースの要素が前面に出たナンバーで、人生の不条理と赦しのテーマが語られる。
アイザックらしい“地に足の着いた誠実な歌”が響く。
The Gift of Tears
「涙は弱さではなく、強さの証である」と語る、スピリチュアルなバラード。
静けさの中に力強いメッセージが込められた、珠玉の名曲。
【Blue – ザック・ハンソン編】
Bad
ザックらしいダークで実験的な楽曲。
歪んだギターと不穏なリズムの中に、カタルシスを求めるような焦燥が込められている。Hansonのイメージを大きく超える挑戦的な一曲。
Wake Up
ミニマルなビートに、囁くような歌声が重なる静謐なナンバー。
「目を覚ませ、自分を取り戻せ」という内なる声が、淡々と、しかし鋭く響く。
Don’t Let Me Down
アルバム全体の中で最もグルーヴィなナンバー。ポップ・ファンク的な要素を備えつつ、ザックの変拍子的アプローチが光る。
総評
『Red Green Blue』は、Hansonというバンドの新たな地平を切り拓いた作品である。
従来のグループとしての一体感やハーモニーを主軸に置いた作風ではなく、それぞれのメンバーが“自分の音楽”をありのままに提示するというコンセプトは、デビューから25年を経た彼らだからこそ成立する、大胆かつ誠実なアプローチである。
Redセクション(テイラー)では、ポップ・ソングの中に繊細な感情と叙情が溶け込み、
Greenセクション(アイザック)では、深い人間理解と温かみが光るシンガーソングライター性が際立ち、
Blueセクション(ザック)では、過去のHanson像を打ち壊すような実験性と美学が炸裂する。
このアルバムは“分裂”ではなく、“拡張”である。
Hansonは三人で一つのバンドでありながら、それぞれが強い個性を持つアーティストであるという事実を、音楽で証明した記念碑的作品なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- The Beatles『The White Album』
各メンバーの個性が際立った構成と、幅広い音楽性を示した二枚組作品。『RGB』のルーツ的存在。 - Paul McCartney『Chaos and Creation in the Backyard』
繊細な内省とメロディへのこだわりが、特にテイラーのセクションと共鳴。 - Iron & Wine『The Shepherd’s Dog』
フォークと実験性の融合という意味で、ザックの“Blue”パートに近い空気感を持つ。 - Ben Folds『Songs for Silverman』
ピアノを中心に展開される叙情的ポップで、テイラーの作風に通じる。 - Glen Hansard『Rhythm and Repose』
アイザックのような“誠実な男声”の語りに重なる、心に寄り添うSSW作品。
6. 制作の裏側(Behind the Scenes)
『Red Green Blue』の制作は、2020〜2021年のパンデミック下で進められた。
ライブ活動の中断という制限の中で、Hansonは「それぞれの音楽と真摯に向き合う時間」としてこのアルバムを構想。
三兄弟は各自で作詞作曲を行い、プロデューサーもそれぞれ外部から起用(テイラー=David Garza、アイザック=Jim Scott、ザック=自身)することで、完全に独立した三部構成を実現した。
このアプローチは、解散やソロ活動ではなく、むしろ“多様性あるバンド像”としての新提案であり、コアファンのみならず音楽ファン全体にとっても刺激的な作品となった。
彼らは言う。「音楽はバンドの“共通語”であると同時に、“個人の母語”でもある」と。
『Red Green Blue』は、その両方を見事に両立させた、芸術的で冒険的な一枚である。
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