Rainbow by Kacey Musgraves(2018)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Rainbow」は、Kacey Musgravesケイシー・マスグレイヴス)が2018年にリリースしたアルバム『Golden Hour』のラストを飾る珠玉のバラードであり、“希望の象徴”としての虹をモチーフに、困難の中にいる人々へ向けた優しく力強いメッセージソングです。アルバム全体が光と影、愛と孤独、過去と未来の交錯をテーマにしていますが、その終曲として「Rainbow」が置かれていることで、聴き手の心に静かな救いと光をもたらしています。

この曲の語り手は、誰か——おそらく大切な人、もしくは“かつての自分自身”——が苦しんでいる姿を見て、「大丈夫、すでに虹は出ているんだよ」と語りかけます。ここに描かれているのは、“今見えていないだけで、希望はすでにある”という優しい真実。その虹は空にだけでなく、心の中にもかかっているというメタファーが、美しいピアノとともに穏やかに響きます。

この楽曲が持つヒーリング的な力は、ジャンルを超えて多くのリスナーの心に寄り添い、「カントリー・ミュージックの枠を越えた」ケイシーの世界的評価をさらに高める要因となりました。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Rainbow」は、ケイシーが祖母のために書いた楽曲であり、もともとは『Pageant Material』(2015年)の制作時に完成していたものの、アルバムには収録されず、“いつかふさわしいタイミングで世に出す”という思いで温められていた作品です。その後、彼女が人生の大きな転換期を迎えた『Golden Hour』の制作中、感情的な核となる楽曲としてこの曲を改めて収録することが決まりました。

ケイシーは、あるインタビューで「この曲は“光を見失った人”のために書いた」と語っています。彼女自身も不安や失恋、アイデンティティの葛藤に直面してきた経験があり、その中で「希望はすでにそこにあるのに、自分では気づけないことがある」という実感が、この曲のメッセージに昇華されています。

また、「Rainbow」はLGBTQ+コミュニティにも広く支持されており、“rainbow”という言葉が象徴する多様性や誇りとも自然に重なり、多くの人々が「この曲に救われた」と語っています。ケイシーはその支持に対して、「どんな人にも、自分をそのまま受け入れられるような音楽を届けたい」と語っており、まさにその理想が形になった楽曲です。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Rainbow」の印象的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳を添えて紹介します。

When it rains, it pours
But you didn’t even notice

雨が降ると、土砂降りになる
でもあなたは、それさえも気づいていなかった

It ain’t always fair
You just have to hold on

人生はいつも公平じゃない
でも、ただ踏ん張っていればいいの

If you could see what I see
You’d be blinded by the colors

私が見ているものをあなたが見られたなら
その色の美しさにきっと目を奪われるはず

There’s always been a rainbow
Hangin’ over your head

いつだって虹は
あなたの頭上にかかっていたのよ

Let go of your umbrella
‘Cause darlin’, I’m just tryin’ to tell ya

もう傘なんて捨ててしまって
ねえ、ただそれを伝えたかったの

That there’s always been a rainbow hangin’ over your head
ずっとずっと、あなたの上には虹がかかっていたってことを

歌詞引用元: Genius – Rainbow

4. 歌詞の考察

「Rainbow」は、その美しくも静かなメロディとともに、歌詞にも深い優しさと哲学が宿っています。特に印象的なのは、「虹は“今”見えなくても、“ずっとそこにあった”」という構造です。これは、“救い”や“希望”が未来にやってくるものではなく、実はすでに存在していて、ただ自分が気づいていないだけだという逆転の発想に基づいています。

たとえば、「You didn’t even notice(あなたは気づいていなかった)」というラインには、絶望に沈んでいるときの人間の視野の狭さと、それを見守る他者の存在が対比的に描かれており、ケイシー自身が誰かの傘をそっと閉じさせようとしているような、やさしい手のぬくもりを感じます。

さらに「Let go of your umbrella(傘を手放して)」というフレーズは、痛みや不安から自分を守ろうとする防御を手放すことで、初めて“美しさ”や“希望”を感じられるというメタファーとして機能しています。雨を避けているうちは、虹もまた見えない。心を開いたその瞬間に、はじめて虹が見える——そんなメッセージが、抑制されたメロディとともに深く染み入ってきます。

この楽曲のすごさは、説教的でも押しつけがましくもなく、あくまで“そっと寄り添う”かたちで聴き手に語りかけるところにあります。語り手は「私はあなたのことを信じている」「あなたの価値は、あなたが思う以上に大きい」と伝えていますが、その表現は決して強要的ではなく、聞く人の心のペースに合わせて静かに語られています。

歌詞引用元: Genius – Rainbow

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • The Joke by Brandi Carlile
    疎外感を抱える人々に向けた力強いバラード。抑圧に耐える者たちへの静かなエールが共通する。

  • All Too Well (10 Minute Version) by Taylor Swift
    感情の繊細なディテールと語り口が際立つバラード。失われたものの中にある美しさという観点で響き合う。

  • You Say by Lauren Daigle
    自信を失いかけた心に語りかけるゴスペル風ポップ。希望と信頼をテーマにした歌詞が「Rainbow」とリンク。

  • A Safe Place to Land by Sara Bareilles feat. John Legend
    不安定な世界の中で誰かの“避難所”でいたいという祈りを込めた曲。寄り添う姿勢が共通。

6. “希望はずっとそこにあった”——癒しと再生のアンセム

「Rainbow」は、ケイシー・マスグレイヴスというアーティストが持つ“観察力”と“優しさ”が最大限に表れた楽曲であり、聴く人それぞれの人生における“静かな癒し”として機能します。ポリティカルな主張でもなく、過剰なロマンスでもなく、ただ“心が疲れたときにそっと聞ける歌”であること。それこそが、この曲が世界中で愛されている理由でしょう。

そして、何よりもこの曲が伝えているのは、「あなたは気づいていないかもしれないけれど、あなたの上にはずっと虹がかかっていた」という真理です。私たちはときに、疲れすぎてその虹に気づけない。でも、だからこそ音楽が必要であり、「Rainbow」はその代表例とも言える一曲なのです。

人生が嵐の中にあると感じるとき、そっとこの曲を聴いてみてください。ケイシー・マスグレイヴスの声が、あなたの傘をそっと閉じてくれるはずです。そしてその瞬間、あなたの心にも、きっと虹がかかっていることに気づけるでしょう。

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