発売日: 2000年7月10日
ジャンル: オルタナティブ・ロック, ブリットポップ
イギリスのロックバンドColdplayが初めて世に送り出したアルバム、Parachutesは、彼らのキャリアの出発点であり、2000年代初頭の音楽シーンにおける象徴的な作品だ。このアルバムは、甘酸っぱくも深いメランコリーに満ちたサウンドで、多くの人々を虜にした。音楽プロデューサーKen Nelsonの手によって、繊細でありながら壮大な音作りが実現され、リードシンガーのクリス・マーティンの柔らかなボーカルがさらにその世界観を引き立てている。このアルバムは、当時のブリットポップから離れ、よりエモーショナルで内省的なトーンを提示することで、Coldplay独自のスタイルを確立していった。
特に印象的なのは、シンプルなギターのリフやメロディーを通して、聴く者に深い安らぎと悲しみをもたらすことだ。まるで静かな夜に寄り添うように、心にじんわりと染み込んでくる。その後のColdplayの大規模なアリーナ・サウンドとは異なり、このアルバムはどこか親密で、リスナーに語りかけるような親しみやすさがある。リリースから20年以上経った今でも、Parachutesはその瑞々しい感性で、多くのリスナーの心に残り続けている。
曲ごとの解説
1. Don’t Panic
アルバム冒頭を飾るこの曲は、軽やかなギターリフが印象的だ。歌詞の中で、「We live in a beautiful world」というフレーズが何度も繰り返され、現実の中にある美しさと希望が感じられる。シンプルなアレンジが、どこか素朴で穏やかな気持ちにさせる一曲。
2. Shiver
初期のColdplayの力強さが現れたこの曲は、リードギターが鮮烈に響き、マーティンの感情的なボーカルが引き立つ。歌詞では、報われない恋愛に対する切実な思いが描かれており、彼の渇望が伝わってくる。「I’m on and I’m on and I’m on」と繰り返される部分が中毒性を生む。
3. Spies
このトラックは暗くミステリアスな雰囲気を持つ。ベースラインとパーカッションが緊張感を生み出し、スパイが隠れるようにひそやかな情景が描かれる。リスナーは次第にその世界観に引き込まれ、アルバムの中でも特にシネマティックな瞬間を提供する。
4. Sparks
穏やかで甘いメロディが特徴のこの曲は、別れた恋人への未練や後悔がにじみ出る。アコースティックギターと控えめなドラムの組み合わせが、静かな夜にぴったりな温かさを感じさせる。
5. Yellow
Coldplayを一躍有名にした代表曲。恋人への感謝と愛がシンプルに描かれ、「Look at the stars, look how they shine for you」というフレーズが印象的。シンプルながらもエモーショナルなギターがこの曲のエネルギーを引き出している。
6. Trouble
ピアノのシンプルな旋律が特徴の一曲。歌詞には後悔や悔恨が込められており、関係における摩擦やすれ違いが浮き彫りにされる。「Oh no, I see, a spider web, and I’m caught in the middle」というラインが印象的で、迷い込んだ感覚が伝わる。
7. Parachutes
わずか46秒の短い曲だが、アルバムのタイトルにふさわしい、浮遊感あるサウンドスケープが美しい。まるでパラシュートでゆっくりと地面に降りていくような感覚を味わえる。
8. High Speed
やや浮遊感のあるギターサウンドが心地よい。人生が高速で進んでいく様子が歌詞で表現され、サウンドもそれに呼応するかのようにスピード感がある。イントロからリスナーを引き込む力がある。
9. We Never Change
日常の些細な幸福や自己への正直さについて歌う、控えめでありながら美しい曲。ミディアムテンポで穏やかな雰囲気があり、まるで静かな自己対話をしているかのようだ。
10. Everything’s Not Lost
アルバムを締めくくる、希望に満ちた楽曲。「Everything’s not lost」というフレーズが繰り返され、人生の困難にもかかわらず前向きに進もうというメッセージが込められている。ゆっくりとしたビルドアップがクライマックスでリスナーの心を掴む。
アルバム総評
Parachutesは、Coldplayがその後のキャリアで築き上げる壮大なスタイルとは異なり、親密で静かな雰囲気が特徴だ。初期のColdplayならではの純粋さと、内面を見つめるリリックが詰まっており、聴くたびに新しい発見がある。楽曲のシンプルさがリスナーに寄り添うような温かさを生み出し、どこか郷愁を誘う。このアルバムは、個々の曲がどれも感情の深淵に触れる美しい作品であり、Coldplayファンにとって特別な位置づけとなるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
電子音とロックの融合が絶妙で、Coldplayのような内省的なリリックが光る。Parachutes同様に深いテーマを持ち、シリアスでメランコリックな雰囲気が共通する。
豊かなメロディラインと、感情に訴えかけるリリックが特徴的な一枚。Coldplayのファンが共鳴しやすい、心に響くアルバムだ。
オルタナティブロックの名盤で、ギターリフやエモーショナルなボーカルが印象的。Coldplayのシンプルで心に訴えかけるサウンドを好むリスナーにおすすめ。
Jeff Buckleyの美しいボーカルと、メランコリックなメロディが冷静さと激情を行き来するアルバム。Coldplayの内省的な側面と重なる部分がある。
- White Ladder by David Gray
アコースティックなサウンドと内省的なリリックが魅力的な一枚。シンプルな楽器編成と心温まるメロディが、Coldplayファンにとって心地よく響くだろう。
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