Out of Time by Blur（2003）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 戦争と孤立感が映し出された一曲

1. 歌詞の概要

「Out of Time」はBlurが2003年に発表した7作目のアルバム『Think Tank』のリードシングルであり、デーモン・アルバーンがバンドを新たな方向性へ導いた象徴的な楽曲である。タイトルが示す「Out of Time（時間から外れている）」というフレーズは、時代の流れや社会の現実に取り残された人々、あるいは自分自身の感覚が時代と調和しない感覚を描き出している。歌詞はシンプルで繰り返しが多いが、その中に深い喪失感と孤独が漂う。

「Where’s the love song to set us free?」という問いかけから始まり、愛や救いの歌が存在しない現代への失望が示される。そして繰り返される「You’ve been so busy lately / that you haven’t found the time」という言葉は、日常の忙しさや空虚さに埋もれて本当に大切なものを見失っている現代人の姿を映し出す。全体を通して、静かな切なさと漂流感が滲み出る楽曲である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Out of Time」が生まれた背景には、Blurの大きな転換期がある。2002年、ギタリストのグレアム・コクソンがアルコール依存や人間関係の悪化によりバンドを脱退し、残されたアルバーン、アレックス・ジェームズ、デイヴ・ロウントゥリーの3人で制作が進められた。結果的に『Think Tank』はBlurの中で最も実験的で多文化的なアルバムとなり、ロックよりもエレクトロニカやワールドミュージックの要素が強調される作品となった。

アルバーンはこの時期すでにアフリカ音楽への強い関心を示しており、「Out of Time」にはモロッコの楽器やリズムが取り入れられている。特に録音の一部はモロッコで行われ、現地の音楽家たちとのセッションから得られた要素が曲に溶け込んでいる。この異国情緒が漂う音の質感は、Blurのイギリス的なブリットポップのイメージから大きく逸脱していた。

また、当時はイラク戦争が始まったばかりの時期であり、アルバーン自身が戦争反対の姿勢を強く示していた。歌詞には直接的な政治的メッセージはないが、社会の不安や未来への閉塞感が反映されているとも解釈できる。結果として「Out of Time」は、バンドの私的な転換と時代の大きな変化の両方を象徴する楽曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

（引用元：Genius Lyrics）

Where’s the love song to set us free?
僕たちを解放するラブソングはどこにある？

Too busy to see it
忙しすぎて、それに気づけない

Are we lost out of time?
僕たちは時代から取り残されてしまったのだろうか？

You’ve been so busy lately
君は最近あまりに忙しすぎて

That you haven’t found the time
大切なことに時間を割くことができなかった

To open up your mind
心を開く余裕すら持てなかった

歌詞全体は短く、繰り返しが多い。しかし、その反復こそが「虚無感」「漂流感」を強調しており、アルバーンの儚げな歌声がその意味を補完している。

4. 歌詞の考察

「Out of Time」が描き出すのは、戦争や社会の不安が渦巻く時代における人々の「孤立」と「空白」である。タイトルの「Out of Time」には二重の意味がある。一つは時代から取り残されている感覚、もう一つは文字通り「時間切れ」という終末的なニュアンスである。

特に印象的なのは「Where’s the love song to set us free?」というフレーズである。ここには、音楽や芸術が本来持つ「人を解放する力」への渇望が込められている。だがその後に続く「Too busy to see it」という言葉は、人々が日常の忙しさに追われ、その救いに気づけない現実を突きつける。

また、この楽曲はBlur自身の「新しいフェーズ」を象徴している。グレアム不在の中で、アルバーンはワールドミュージックを取り込み、従来のギターロックから脱却した。歌詞の「out of time」というフレーズは、バンド自身が90年代のブリットポップという「時代」から抜け出し、未来へと進む決意を示しているようにも解釈できる。

つまり、この楽曲は個人と社会の不安を映すと同時に、Blurというバンドの変革を示す寓話でもあるのだ。