アルバムレビュー：Other Roads by Boz Scaggs

発売日: 1988年5月3日
ジャンル: AOR、ブルーアイドソウル、ソフトロック

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
ファンや評論家の反応
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概要

『Other Roads』は、ボズ・スキャッグスが1988年に発表した、実に8年ぶりとなるスタジオアルバムである。

前作『Middle Man』（1980年）以来、ボズは一時的に音楽活動から距離を置き、
家族との時間を大切にしながら、自らの音楽性を見つめ直していた。

そうして満を持して発表された本作は、80年代後半特有の洗練されたシンセサウンドを取り入れつつも、
彼の持ち味である温かくソウルフルなボーカルと、成熟した歌心をしっかりと保った仕上がりとなっている。

制作には、ジェフ・ポーカロ、デヴィッド・ペイチ、マーカス・ミラー、ナラダ・マイケル・ウォルデンなど、当時の一流ミュージシャンたちが多数参加。
『Other Roads』は、単なる80年代風AORではない。
時代の空気を吸収しつつも、ボズ・スキャッグスというアーティストの「変わらない本質」が確かに息づく、成熟した大人のためのポップアルバムなのである。

全曲レビュー

1. What’s Number One?

80年代らしいシンセリフが印象的な、軽快なダンスポップナンバー。
現代社会の競争意識を皮肉混じりに歌い上げている。

2. Claudia

アコースティックギターが基調の、優しくロマンティックなミディアムバラード。
「クラウディア」という女性への想いが、穏やかに綴られる。

3. Heart of Mine

アルバム最大のヒット曲となった、スムースなラブバラード。
失った愛への未練と新たな希望を、ボズの円熟した歌声が美しく表現する。

4. Right Out of My Head

ファンキーなベースとシャープなビートが際立つ一曲。
情熱的な恋愛の高揚感を描く、躍動感あふれるアーバンソウルである。

5. I Don’t Hear You

淡々としたトーンで進むクールなミディアムナンバー。
すれ違う心を描いた歌詞が、乾いたサウンドと絶妙にマッチしている。

6. Mental Shakedown

タイトル通り、精神的な混乱と再生をテーマにしたナンバー。
ヘビーなリズムとアグレッシブなヴォーカルが、新境地を感じさせる。

7. Funny

ほのかにラテンのリズムを感じさせる、柔らかな楽曲。
日常の中にある小さな幸福や、ほろ苦い思い出をユーモラスに描く。

8. Passionate Kisses

元々はルシンダ・ウィリアムズの曲だが、ボズ流にアレンジされたカバー。
カジュアルながらも情熱的な愛の告白を、軽やかに歌い上げている。

9. Night of Van Gogh

夜の静けさと芸術家の孤独を重ね合わせた、詩的なバラード。
深い余韻を残すメロディと、ボズのしっとりとした歌唱が印象的だ。

10. Sierra

アルバムのフィナーレを飾る、美しいバラード。
自然への憧憬と心の解放を歌ったリリックが、穏やかに、しかし力強く響く。

総評

『Other Roads』は、80年代後半というきらびやかで時に過剰な時代において、
ボズ・スキャッグスが自らのペースで、静かに、しかし確かな表現を貫いた作品である。

アルバム全体に漂うのは、80年代らしいシンセや打ち込みビートの華やかさではある。
しかし、その芯には一貫して、ボズの”人間らしさ”、”温かさ”が息づいている。

「Heart of Mine」のような普遍的なバラードから、「Night of Van Gogh」のような内省的な楽曲まで、
すべての曲に、人生経験を積んだ者だけが持つ余裕と深みが感じられる。

本作は、単なる「復帰作」以上の意味を持っている。
時代の波に乗るのではなく、あくまで自分の音楽を信じた――
そんなボズ・スキャッグスの静かな矜持が、アルバム全体からにじみ出ているのだ。

ファンや評論家の反応

『Other Roads』はリリース当時、ボズ・スキャッグスの8年ぶりの復帰作として大きな注目を集めた。
シングル「Heart of Mine」はビルボード・アダルト・コンテンポラリーチャートで1位を獲得し、
アルバムも堅実なセールスを記録。

しかし一方で、音楽性の変化――80年代的なシンセサウンドの導入――については賛否が分かれた。
特に初期のブルース志向や『Silk Degrees』期のアーシーなサウンドを愛するファンからは、
「洗練されすぎてしまった」という意見も少なくなかった。

それでも、現在では『Other Roads』は、
ボズ・スキャッグスのキャリアの中で「円熟と変化を受け入れた重要なアルバム」として、
静かに、しかし着実に評価を高めつつある。