1. 歌詞の概要
「Ordinary Man」は、2020年にリリースされたオジー・オズボーンのアルバム『Ordinary Man』のタイトル曲であり、エルトン・ジョンをゲストに迎えたデュエット曲としても注目を集めた。これまで「プリンス・オブ・ダークネス」として悪魔的・神話的イメージに包まれてきたオジーが、この曲では一転して、等身大の「ひとりの人間」としての弱さや不安を歌い上げているのが特徴である。タイトルが示す通り「普通の男」であることを望みつつも、波乱に満ちた人生と死への恐れを率直に吐露する。歌詞には後悔、恐怖、そして名声の虚しさが込められており、オジーのキャリアの中でも最も内省的で感傷的な楽曲となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Ordinary Man』は、オジーが70歳を超えてから発表したアルバムであり、彼のキャリアと人生を総括するような作品である。2019年には重度の健康問題やパーキンソン病の診断を公表し、死を強く意識する時期にあった。その背景が、この楽曲に刻まれた「死の恐怖」と「生の受容」というテーマに直結している。
楽曲制作には、エルトン・ジョンのほか、ガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガン(ベース)、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(ドラム)、そしてスラッシュ(ギター)といった豪華な面々が参加。クラシック・ロックの叙情とヘヴィメタルのダークさが交錯するサウンドに仕上がっている。オジーにとって「伝説」や「悪魔的存在」という仮面を外し、「普通の男」としての願いを語った本作は、彼のキャリアの集大成とも言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Ordinary Man」から印象的な一節である。
引用元: Ozzy Osbourne – Ordinary Man Lyrics | Genius
I don’t wanna die an ordinary man
俺はただの男として死にたくはない
Many times I lost control
何度も自分を見失い
They tried to kill my rock and roll
奴らは俺のロックンロールを殺そうとした
But it survives
だが、それでも生き残った
このフレーズは、オジーが「普通の男として死にたくない」と言いながらも、同時に「伝説」として残り続けたいという矛盾を抱えた心情を象徴している。
4. 歌詞の考察
「Ordinary Man」は、オジーのキャリアを総括する“自伝的バラード”と呼べる楽曲である。これまでのオジーは「悪魔」「狂気」「破滅」といった象徴的なイメージを背負い、リスナーに強烈な印象を与えてきた。しかしこの曲では、その仮面を外し、自分が「ただの人間」であることを告白している。
歌詞には「I don’t wanna die an ordinary man(ただの男として死にたくない)」という強い言葉が繰り返されるが、そこには「伝説として生き続けたい」というアーティストとしての欲望と、「人間としての弱さと孤独」という相反する感情が混在している。彼は「ロックンロールを殺そうとした奴らがいても、自分の音楽は生き残った」と歌い、自らの歩みを誇りにしつつも、その裏に潜む孤独や不安を吐露しているのである。
エルトン・ジョンとのデュエットは、この曲にさらなる深みを与えている。両者ともに時代を超えて音楽史に名を刻んできた存在であり、70歳を過ぎた今もなお生き残ったこと自体が「奇跡」だといえる。その二人が「普通の男」というテーマを歌うことは、単なる個人の歌ではなく、音楽界全体における“生き証人の声”として響いてくるのだ。
また、この曲の抒情的なメロディは、オジーがこれまで培ってきたダークな世界観と対比的であり、より人間味を際立たせている。これまで「死」や「破滅」を舞台装置のように扱ってきたオジーが、初めて真正面から「自らの死」を歌った点において、非常に特別な位置を占める楽曲なのである。
(歌詞引用元: Genius Lyrics, 上記リンク参照)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Mama, I’m Coming Home by Ozzy Osbourne
愛する者への帰還を歌う感傷的なバラードで、「Ordinary Man」と同じ人間的側面を持つ。 - See You on the Other Side by Ozzy Osbourne
死と再会をテーマにした叙情的な楽曲で、オジーの内省的な一面が濃厚に表れる。 - November Rain by Guns N’ Roses
壮大なバラードで、人生の儚さや愛を描く点で共鳴する。 - Knockin’ on Heaven’s Door by Bob Dylan(またはGuns N’ Roses版)
死を意識しつつも普遍的なテーマを歌い上げる楽曲として、「Ordinary Man」と通じる。 - Imagine by John Lennon
未来への希望と普遍的な人間性を歌った曲で、オジーの「Dreamer」や「Ordinary Man」と共鳴する。
6. 特筆すべき事項:オジーの人生と死生観の転換点
『Ordinary Man』は、オジー・オズボーンのキャリアにおける「告白」であり「遺言」とも言える作品であった。アルバム発表当時、彼はパーキンソン病の診断を受け、健康問題に直面していた。そんな状況で歌われる「普通の男として死にたくない」という言葉は、単なるフレーズではなく、人生の真実そのものなのである。
長年「悪魔」「狂気」といった象徴的存在であり続けたオジーが、老境に差しかかって「自分はただの人間だ」と語ること。それは、彼が築き上げてきた伝説を裏返し、人間の本質的な弱さを受け入れる行為である。
『Ordinary Man』は、単なるアルバムの一曲ではなく、オジーの音楽人生そのものを凝縮した歌であり、リスナーにとっても「生きること」と「死を見つめること」の意味を問いかける深い作品なのだ。
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