
1. 歌詞の概要
「One for Sorrow」は、イギリスのポップグループStepsが1998年にリリースした代表曲の一つであり、彼らのキャリア初期を象徴する失恋ソングである。タイトルはイギリスに古くから伝わるマザーグースの詩「One for Sorrow, Two for Joy」に由来しており、不吉な兆しや感情の波を予感させるニュアンスを含んでいる。
楽曲は、別れた恋人に対して未練と怒りが入り混じった感情を吐露しながらも、自分の心を守ろうとする繊細な姿勢を描いている。とくに「You’ll never see me fall apart」というラインに象徴されるように、表面的には強がって見せながらも、内面では傷ついたままの心がじっと耐えている様子が印象的である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「One for Sorrow」はStepsにとって3枚目のシングルとしてリリースされ、UKチャートで最高2位を記録したヒット曲である。この曲で彼らは、単なるダンスグループとしてではなく、より感情的でメロディ重視のポップ・グループとしての一面を確立した。
プロデューサーは、ABBAの影響を色濃く受けたピート・ウォーターマン率いるチーム「PWL(Pete Waterman Limited)」であり、そのプロダクションはキラキラしたシンセとドラマティックなメロディラインで構成されている。実際、この曲の雰囲気は「ABBA meets 90s pop」とも言えるもので、切なさと高揚感の絶妙なバランスが特徴となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I wanted your love, but look what it’s done to me
あなたの愛が欲しかった、でも見て、この有様をAll my dreams have come to nothing
私の夢はすべて消え去ってしまったWho would have believed
誰が信じただろうかAll the laughter that we shared would be a memory
あんなに笑い合った日々が、ただの記憶になるなんてI can’t forget the way it used to be
あの頃のことがどうしても忘れられないAnd I can’t hold back the tears
涙をこらえることができないI know I have to face reality
現実に向き合わなきゃいけないことは分かってる
引用元:Genius Lyrics – Steps / One for Sorrow
4. 歌詞の考察
この楽曲の核心は、「受け入れられない別れ」と「感情を抑え込もうとする意志」の間に揺れる心にある。恋人との関係が終わってしまったにも関わらず、日常のあらゆる場面にその面影がよみがえり、現実とのギャップに苦しんでいる——そうした感情が、ひとつひとつの歌詞に織り込まれている。
「One for sorrow, two for joy…」という古い詩に由来するタイトルは、ひとつの別れがもたらす悲しみを象徴している。そこには、数え歌に込められた宿命的なニュアンスも含まれており、ただの失恋ではない、避けられない運命との対峙が読み取れる。
また、歌詞に込められた「強がり」と「壊れそうな脆さ」のコントラストが非常に印象的である。「You’ll never see me fall apart」と断言する一方で、その言葉が強くあればあるほど、実は心が崩れかけていることが伝わってくる。この“見せかけの強さ”こそ、多くのリスナーの共感を呼ぶ所以であろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “My Heart Takes Over” by The Saturdays
別れの瞬間のもろさと、美しいメロディラインがリンクする失恋バラード。 - “Only Love Can Hurt Like This” by Paloma Faith
愛の痛みの真実をドラマティックに描いた楽曲。力強いボーカルが胸を打つ。 - “Dancing On My Own” by Robyn
失恋の寂しさをクラブのフロアで昇華しようとする、現代的なポップの名作。 - “Last Thing on My Mind” by Steps
同じくStepsの楽曲で、軽快なサウンドと裏腹の切ない歌詞が魅力。 - “Someone Like You” by Adele
終わった愛を祝福しながらも心の奥で揺れる想いを歌う、究極の別れの歌。
6. 90年代ポップにおける哀しみの美学
「One for Sorrow」が多くの人の心に残り続けている理由は、この曲が“悲しみ”を否定することなく、むしろそれを美しく昇華している点にある。90年代後半のUKポップには、明るくキャッチーなメロディに重ねる形で、深い感情を表現するという流れがあり、この曲はまさにその代表例と言える。
特に、鮮やかなシンセとアップテンポなリズムに反して、歌詞には終始“静かな涙”のような感情が流れている。そのバランスが絶妙で、聴く者は自然と身体を揺らしながらも、心のどこかがしんとするような感覚に包まれる。
そしてこの楽曲は、Stepsにとって単なるヒットソングではなく、「明るく踊れる悲しみ」という彼らの美学を確立した作品でもあった。今なお多くのファンに愛され、失恋を経験したときにふと口ずさみたくなるような、普遍的な魅力を持つ一曲である。涙を見せないことで自分を守ろうとするその姿勢は、静かに、しかし確かに多くの人の心を支えてきたのだ。
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