アルバムレビュー：Once Again by John Legend

発売日: 2006年10月24日
ジャンル: R&B、ソウル、ジャズ、ポップ

概要

『Once Again』は、John Legendが2006年に発表した2作目のスタジオ・アルバムであり、デビュー作『Get Lifted』によって築かれた“現代のソウルの継承者”としての地位を、より深みのある音楽性で確固たるものにした作品である。

このアルバムでは、ネオ・ソウルからジャズ、レトロ・ポップ、オーケストラ的なアレンジまで、ジャンルを横断しながらも、すべてがLegendの“声”と“ピアノ”に自然と集約されている。
タイトルの「Once Again」は、“再び恋に落ちる”“再び向き合う”“再び問い直す”といった複数の意味を持ち、アルバム全体が“回帰”と“熟成”というテーマで統一されている。

プロデューサー陣にはKanye Westに加えて、will.i.am、Raphael Saadiq、Craig Streetらが参加しており、スタイリッシュでありながらも温かみのあるプロダクションが魅力。
この作品でLegendは、流行に乗るのではなく、むしろ「時代を超える」ことに意識を向けたかのように、じっくりと丁寧に音を紡いでいる。

全曲レビュー

Save Room

アルバムの冒頭を飾るスムースでソウルフルなナンバー。
Bacharach風のコード進行と「恋のために少しだけ心にスペースを残しておいて」というリリックが、軽やかでロマンチックな空気を演出。
オルガンとギターの絡みが、レトロで温かい余韻を生む。

Heaven

will.i.amとの共作によるグルーヴィーなアップテンポ・トラック。
ゴスペル・クワイアのようなコーラスとクラップが絡み合い、「天国のような恋」を現代的に描く。
宗教的なメタファーと官能的な表現が絶妙にバランスしている。

Stereo

自分の内面の“声”と対話するというコンセプトの楽曲。
ステレオの中で響く愛の葛藤というメタファーは、音楽と感情の結びつきを鮮やかに可視化する。
重層的なビートとストリングスの対比が斬新。

Show Me

政治的・精神的なメッセージを含んだ、静かながらも力強いバラード。
「神よ、あなたを見せてほしい」と問いかけるリリックは、信仰と不確かさを抱えた人間の心を映す。
ギターと囁くようなボーカルが、祈りのような雰囲気を作る名曲。

Each Day Gets Better

軽やかなストリングスとパーカッションが心地よい、前向きなラブソング。
「君といることで毎日が良くなっていく」という幸福感がストレートに表現される。
ノスタルジックでソウルフルなポップ。

P.D.A. (We Just Don’t Care)

“公共の場でイチャつこう”という、珍しく遊び心に溢れた一曲。
ジャジーなコードと陽気なリズムが、リリックのウィットを引き立てている。
Legendの軽快な面を堪能できる楽曲。

Slow Dance

70年代のスティーヴィー・ワンダーを思わせる、ファンク・ソウル的アレンジのロマンチックな一曲。
「踊らないか？」とシンプルに誘うスタイルが、むしろ現代的なミニマリズムを感じさせる。
余計な装飾を排したメロウな魅力。

Again

アルバムの中でもっともドラマティックなバラード。
別れと再会を繰り返す恋愛を、繊細なピアノと感情的なボーカルで描き出す。
曲名通り、“また繰り返してしまう”という切なさが滲む。

Maxine

浮気現場を目撃してしまった男の動揺を、ユーモラスに描いたソウル・ナンバー。
「マキシーン、嘘つきだろ！」というフレーズが印象的で、ストーリーテリングとしての面白さも光る。
ギターとホーンが跳ねる、洒脱なファンク調。

Where Did My Baby Go

失った恋人の不在を静かに問いかける、ブルージーなバラード。
「どこに行ってしまったの？」という疑問を、ピアノだけで綴ることによって、深い孤独と余白が生まれている。
Legendの真骨頂である“ピアノと声だけ”の説得力が際立つ。

Maxine’s Interlude

「Maxine」のリフレインをアカペラ的に繰り返す短い間奏。
ジャズやR&Bにおける“インタールード文化”の味わいを現代風に昇華。

Another Again

「Again」の再演とも言える続編的な楽曲。
“またまた繰り返してしまう”愛の矛盾と習慣性を描く。
サウンドはより重厚で、大人の苦さが濃く表現されている。

Coming Home

ツアーから帰る男の気持ちを描いたスローバラード。
恋人や家族に向けた実直な愛情と安堵が伝わる温かい楽曲。
アルバム終盤のやさしい呼吸。

King & Queen

理想的な関係性を「王と女王」にたとえたミディアム・バラード。
対等で尊重しあう関係を、堂々と、しかし誠実に描いている。
シンプルだが現代的なジェンダー観も含んだラブソング。

Out of My Mind（日本盤ボーナストラック）

失恋を受け入れきれずに揺れ動く男心を描くバラード。
アルバムには収録されていないが、テーマ的にも『Once Again』の延長線上にある。

総評

『Once Again』は、John Legendが“ソウルの伝統を守る者”から、“ソウルを進化させる者”へと変貌したアルバムである。
その音楽は、時に古典的で、時に実験的でありながら、一貫して“感情を誠実に音にする”という彼の信条が貫かれている。

特に、「Show Me」や「Again」のように、個人の感情を繊細に描きつつ、社会的・精神的な広がりを持たせる構成力は、シンガーソングライターとしての成熟を示している。
また、「P.D.A.」や「Maxine」のような遊び心は、Legendの人間味を際立たせ、アルバム全体を重くなりすぎず、バランス良く保っている。

この作品は、「今」だけではなく「何度でも」聴かれるべきアルバムであり、まさに“Once Again（もう一度）”の名にふさわしい再訪性と温かさを備えている。