1. 歌詞の概要
「OK」は、James Bluntが2017年にリリースしたアルバム『The Afterlove』に収録された楽曲で、実際には英シンガーソングライターであるPassenger(マイク・ローゼンバーグ)との共作によって生まれた作品である。この曲の中心には、「過去の痛みと向き合いながらも、もう一度前を向こうとする心の葛藤」がある。
語り手は、かつての恋人との別れを引きずりながらも、その想いを解放しようと苦しむ。タイトルの「OK」は、「すべて大丈夫だ」と言い聞かせるようでありながら、その裏には“本当はまだ傷ついている”という感情の複雑な層が存在している。この曲は、愛を失った人々が最終的に癒しにたどり着くまでのプロセスを、美しくもリアルに描き出している。
Bluntの声は、この楽曲の“素直になれない切なさ”と抜群に合致しており、耳にした瞬間に胸を締めつけられるような感情が湧き上がる。恋人との思い出を振り返りながら、「もう平気だ」と自分に言い聞かせる声は、かえってその痛みを強調するようにも響くのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲の作詞作曲にはPassenger(『Let Her Go』で世界的成功を収めたアーティスト)も関与しており、もともとはPassenger自身が歌う予定で制作されていた楽曲だった。しかしJames Bluntがこの曲に惚れ込み、「自分の言葉として歌いたい」と強く希望し、最終的に彼のアルバム『The Afterlove』に収録されることになった。
その背景を知ると、この曲の繊細な言葉選びやメロディの柔らかさは、Passengerの作風とも深く共鳴していることがわかる。そしてBluntの特有の切ない歌声とパーソナルな感情表現が加わることで、より深い共感性を獲得したのだ。
また、この楽曲がリリースされた当時、BluntはSNSなどで自虐的なユーモアを交えながらも、自身の音楽が「感情的すぎる」「泣きすぎてる」といった評価を受けていることを逆手に取り、この曲の“涙が乾いていく過程”をリアルに描くことで、批評家たちにも強くアピールした。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の中で繰り返されるフレーズや、言葉にならない感情を表す部分に、この曲の核心がある。
I really need you, I really need your love right now
今、本当に君が必要なんだ 君の愛が、どうしてもI’m fading fast, not gonna last
僕はどんどん消えていく もう持ちこたえられそうにない
ここでは、恋人と離れた後の“空白の時間”に心が崩れそうになっている様子が描かれており、「助けて」と言えない痛みがにじみ出る。
I’m OK, I’m OK, I’m OK
大丈夫、大丈夫、僕は大丈夫I always say it when I know you’re gone
君がいなくなったとき、いつも口にするんだ
このサビの“I’m OK”というフレーズは、あまりに反復されることで逆に“全然OKじゃない”という本音が際立ってくる。嘘をついてでも心のバランスを保とうとする心理が、切実に響く。
I miss you, I miss you so much
君が恋しい 本当に恋しいんだ
この一言は、曲の終盤で唐突に吐き出されるように現れ、それまで我慢していた感情がついにこぼれ落ちた瞬間として、非常に印象的である。
歌詞の全文はこちら:
James Blunt – OK Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「OK」という言葉は、日常の中で最もよく使われる“感情の仮面”かもしれない。この曲における“OK”も、自己暗示であり、他人への防御であり、時には現実逃避である。Bluntは、この言葉に潜む不安定さと不完全さを非常に巧妙に描き出している。
特に、「相手にもう頼れないけど、心のどこかでまだ求めてしまう」という感情の揺らぎがリアルで、それゆえにこの曲は多くのリスナーにとって“自分の歌”として感じられる。愛を失った直後の“何も変わらない日常”の中で、ただ「大丈夫」と繰り返しながら過ごす――その姿は、多くの人の経験と重なるのではないだろうか。
また、曲の構成自体にも感情の流れが表れている。はじめは淡々と語られるように始まり、徐々に感情が高まり、最後に抑えていた「I miss you」が溢れ出す。その構造は、まるで人が一人きりの夜に感情を押し込めながら過ごし、ふとした瞬間に涙してしまう様子と重なる。
この曲は、「癒し」とは涙を流さなくなることではなく、“涙を流し終えた後”に訪れるものだということを教えてくれる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Let Her Go by Passenger
愛を失ったことを静かに受け入れる過程を描いた名曲。作風が直接つながる。 - All I Want by Kodaline
失恋の痛みを包み込むようなスローバラードで、感情の波を優しく表現する。 - Say You Love Me by Jessie Ware
相手の言葉を欲しながらも、それを言わせることの怖さと葛藤が描かれている。 - Jealous by Labrinth
感情を吐露するようなボーカルが心をえぐるバラード。Bluntと同じ“叫ばない激情”がある。 - Almost Lover by A Fine Frenzy
“もしも”の世界を反芻する失恋の歌。内省的で詩的な描写が秀逸。
6. “大丈夫”という言葉の裏側
「OK」は、James Bluntのキャリアの中でも、とりわけ“内面に語りかける歌”であり、誰かに伝えるというよりも、自分自身に向けてそっと歌っているような作品である。
この曲を聴くと、「大丈夫」と口にしながらも、本当はそうではない自分を思い出させられる。でもそれでいいのだ、とBluntは教えてくれる。「OK」と言いながら泣いてしまっても、それは弱さではなく、人としての自然な反応なのだと。
“感情の居場所”を探しているすべての人にとって、「OK」はその一時的な避難所のような存在になり得る。James Bluntはこの曲を通して、「感情に素直であること」を肯定し、痛みの中にあっても、少しずつ立ち直っていけるという“小さな希望”を提示してくれている。
それは派手ではないけれど、心の奥深くにずっと残り続ける、静かで誠実なラブソングなのだ。
コメント