
1. 歌詞の概要
“Ohio” は、1970年にクロスビー、スティルス、ナッシュ & ヤング(CSNY)がリリースした楽曲で、アメリカの政治的・社会的な動揺を象徴するプロテストソングです。この曲は、1970年5月4日にオハイオ州のケント州立大学で発生した「ケント州立大学銃撃事件」 を直接的に描いており、当時のアメリカ社会に大きな衝撃を与えました。
銃撃事件では、ベトナム戦争に反対する学生のデモを鎮圧しようとしたオハイオ州兵が実弾を発砲し、4人の学生が死亡、9人が負傷 しました。ニール・ヤングは、事件を知るや否やこの曲を書き上げ、CSNYのメンバーとともに急遽レコーディングを行いました。そして、事件発生からわずか数週間後の1970年6月にシングルとしてリリースされました。
歌詞は、政府の対応への怒りと、若者が理不尽に命を奪われたことへの悲しみを込めた直接的なメッセージが特徴です。特に、「Four dead in Ohio(オハイオで4人が死んだ)」という繰り返しのフレーズは、この事件の衝撃をダイレクトに伝えています。
2. 歌詞のバックグラウンド
1970年、アメリカ国内ではベトナム戦争への反対運動が激化 していました。リチャード・ニクソン大統領がカンボジア侵攻を発表したことで、全米の大学で学生たちが抗議活動を行っており、その一環としてケント州立大学でもデモが行われていました。
しかし、デモは次第に激しさを増し、オハイオ州兵が出動して抗議活動を鎮圧しようとした結果、実弾射撃に至り、4人の学生が命を落とすという惨事が発生 しました。この事件は全米に衝撃を与え、政府の対応に対する怒りが爆発しました。
ニール・ヤングは、この事件の報道写真(特に、学生のジェフリー・ミラーの遺体のそばで泣き叫ぶ14歳の少女メアリー・アン・ヴェチオの写真)を見て、すぐにギターを手に取り “Ohio” を書いたと言われています。その後、CSNYは急ピッチでレコーディングを行い、事件から1か月も経たないうちにこの曲をリリースするという異例の速さで発表しました。
当時のラジオ局では、この曲が政府批判を含んでいるとして放送禁止にする動きもありましたが、多くの若者にとっては、時代の叫びを代弁するアンセムとして広まりました。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、“Ohio” の印象的な歌詞を一部抜粋し、日本語訳とともに紹介します。
[Verse 1]
“Tin soldiers and Nixon coming”
(ブリキの兵士とニクソンがやってくる)
“We’re finally on our own”
(俺たちはついに一人ぼっちになった)
“This summer I hear the drumming”
(この夏、ドラムの音が聞こえる)
“Four dead in Ohio”
(オハイオで4人が死んだ)
[Verse 2]
“Gotta get down to it”
(俺たちは行動しなければならない)
“Soldiers are cutting us down”
(兵士たちは俺たちを撃ち倒している)
“Should have been done long ago”
(こんなこと、もうずっと前に終わらせるべきだったんだ)
“What if you knew her and found her dead on the ground?”
(もし彼女を知っていたとして、その彼女が地面に横たわっていたらどう思う?)
[Outro]
“Four dead in Ohio”(オハイオで4人が死んだ)
※ 歌詞の引用元: Lyrics.com
4. 歌詞の考察
“Ohio” の歌詞は非常にシンプルでありながら、政府の抑圧と、若者が理不尽に命を奪われた怒りをストレートに表現 しています。
特に、「Tin soldiers and Nixon coming(ブリキの兵士とニクソンがやってくる)」という冒頭のラインは象徴的です。「ブリキの兵士(Tin soldiers)」は、冷酷な兵士や政府の操り人形のような存在を指しており、そこに「ニクソンが来る」というフレーズを組み合わせることで、当時の政権への痛烈な批判を込めています。
さらに、「What if you knew her and found her dead on the ground?(もし彼女を知っていたとして、その彼女が地面に横たわっていたらどう思う?)」というラインは、リスナーに事件の現実を突きつける強烈な問いかけです。これは単なる政治的なスローガンではなく、聴き手に「これはあなたの身近で起こったことかもしれない」と実感させる力を持っています。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
“Ohio” のような社会的メッセージを持つプロテストソングが好きな人には、以下の楽曲もおすすめです。
- “For What It’s Worth” by Buffalo Springfield – ベトナム戦争時代の反戦ソングで、”Ohio” と同じくスティーヴン・スティルスが関わった曲。
- “Blowin’ in the Wind” by Bob Dylan – 社会的な問題に対する問いかけをテーマにしたフォークソング。
- “Fortunate Son” by Creedence Clearwater Revival – 戦争の不平等を批判した名曲。
- “War” by Edwin Starr – 「戦争は何の役にも立たない」という強いメッセージを持つファンクの名曲。
- “Give Peace a Chance” by John Lennon – 反戦運動のアンセムとして広く知られる楽曲。
6. “Ohio” の影響と評価
“Ohio” は、リリース当時から大きな反響を呼び、アメリカのプロテストソングの中でも最も象徴的な楽曲の一つとなりました。事件の悲劇を伝える役割を果たすと同時に、政府への抗議の象徴として多くの人々に影響を与えました。
この曲の影響力は現代においても衰えておらず、戦争や警察の暴力、政治的な抑圧が問題視されるたびに、抗議活動や社会運動の中で再び注目されることがあります。
また、CSNYのメンバーはこの曲を通じて、ミュージシャンが政治的・社会的なメッセージを発信することの重要性を示し、以降の音楽シーンにおけるプロテストソングの在り方にも影響を与えました。
“Ohio” は、単なる反戦歌ではなく、権力による抑圧と、それに抗う若者たちの叫びを象徴する歴史的な楽曲です。そのメッセージは今もなお響き続け、社会的な不公正に対する抗議の声として、多くの人々に受け継がれています。
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