1. 歌詞の概要
「Notorious」は、Duran Duranが1986年にリリースした同名アルバム『Notorious』のリード・シングルであり、それまでのバンドのイメージを大胆に刷新した、ファンク色の強いダンサブルなナンバーである。
この楽曲のテーマは“名声”と“中傷”、そしてそれに対するスタンスだ。タイトルの「Notorious(悪名高い)」という言葉には、単に悪評を意味するだけでなく、“人にどう思われようと自分を貫く”という強い決意が含まれている。
歌詞は、他人からの噂や嫉妬、評判といった社会的な視線にさらされながらも、それに負けることなく、自らの信念を守る姿勢をクールに描いている。
一見すると軽快で都会的なダンスソングのようだが、その奥には、自分を取り巻く雑音や期待へのアンチテーゼが潜んでいる。つまりこれは、“自由に生きるための戦い”の歌なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Notorious」は、Duran Duranが5人組の黄金期を経て、アンディ・テイラー(ギター)とロジャー・テイラー(ドラム)を欠いた3人編成で再出発した時期の作品である。
この人員的変化はバンドにとって大きな転機であり、それに伴って音楽性も変化した。『Notorious』では、従来のシンセポップ的なスタイルから一歩踏み出し、よりソウルフルかつファンク志向のサウンドが打ち出されている。
この変化を導いたのが、プロデューサーのナイル・ロジャース(Chic)である。彼の参加によって、リズムセクションが強化され、グルーヴ感あふれるファンキーなトラックが生まれた。
特に「Notorious」のベースラインとギターのカッティングは、ナイル・ロジャースのスタイルが色濃く反映されたもので、80年代後半のDuran Duranの音楽的再定義を象徴している。
歌詞面でも、これはメディアや周囲の評価に対するバンドのリアルな心境を反映しており、“批判されても、自分たちはやるべきことをやる”というスタンスが明確に表現されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Duran Duran “Notorious”
No-no, notorious
ノーノー、悪名高くてもいいさI can’t read about it
そんな記事、読む気もしないBurns the skin from your eyes
読めば、目が焼けるような思いをするだけさI’ll do fine without it
なくたって、俺はうまくやっていける
この冒頭のラインでは、ゴシップや中傷記事の存在が仄めかされており、それに対する拒否反応と自立した姿勢が語られている。「目が焼ける」という比喩は、その情報の毒性や不快感を直感的に表している。
You own the money
金を持ってるのはお前かもしれないYou control the witness
証言を操作できるのもお前かもしれないI hear your mouth moving
だけど、お前の言葉には中身がないBut my conversation ain’t done
だが、俺の話はまだ終わっちゃいない
ここでは、権力や発言権を持つ者への反抗が描かれている。Duran Duran自身が、業界のしがらみやメディアの声を受け流しながらも、自らの“語るべきこと”を持っているという主張が明確に示されている。
4. 歌詞の考察
「Notorious」は、Duran Duranがポップスターの殻を破り、“大人のアーティスト”として自己定義し直そうとしていた時期の精神が色濃く反映された作品である。
彼らは“アイドル”と“アーティスト”の狭間で揺れていたが、この曲では、外野の声に惑わされず、自分たちのスタイルとサウンドで真価を見せるという決意が感じられる。
“悪名高い”という言葉を自らタイトルに据えることで、それをネガティブなレッテルとしてではなく、“個性”として受け入れる覚悟があるのだ。それはある種の“開き直り”ではあるが、同時に“生き残るための戦略”でもある。
また、ナイル・ロジャースとのコラボによってサウンドが洗練されたことで、歌詞に込められた“反抗”や“気高さ”がより都会的でスタイリッシュに伝わってくる。攻撃性をむき出しにするのではなく、グルーヴに乗せてしなやかに抗う──それが「Notorious」の本質だ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Let’s Dance by David Bowie
ナイル・ロジャースと組んで生まれた、エッジとダンスの融合した名曲。 - Get Lucky by Daft Punk (feat. Pharrell & Nile Rodgers)
ファンクの伝統と現代のクールさが交差する、グルーヴ重視のダンス・トラック。 - Fashion by David Bowie
ファッションとアイデンティティを批評的に描いた、ファンクポップの傑作。 - You Dropped a Bomb on Me by The Gap Band
80年代のファンクとエレクトロの交差点で生まれた名グルーヴ。 -
The Reflex by Duran Duran
複雑な構成と反復が中毒性を生む、彼らの革新的なポップ表現。
6. “悪名”を名乗る美学:Duran Duranの再定義
「Notorious」は、Duran Duranの進化を象徴する一曲であり、“見た目だけのアイドル”というレッテルに自ら終止符を打った宣言とも言える。
彼らはこの曲で、“噂されてもいい、誤解されてもいい、でも本当の俺たちはここにいる”という強烈なメッセージを放っているのだ。
それは、派手なサウンドや美しいルックスの裏にあった“抵抗”であり、“自分の道を貫く勇気”だった。
だからこそ「Notorious」は、軽快で踊れる一曲でありながら、その芯には鋼のような意志が通っている。
悪名は怖くない。むしろそれは、自分らしさの証──この曲は、そんな確信を持つ者たちのための、スタイリッシュな“宣戦布告”なのである。
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