1. 歌詞の概要
「Not That Kind of Girl」は、Vitamin Cのセルフタイトルデビューアルバム『Vitamin C』(1999年)に収録された1曲であり、ティーンポップ全盛期に登場した「自分をしっかり持った女性像」を鮮やかに描いた楽曲である。恋愛や性的関係に対して慎重で、相手に軽く扱われることを拒む姿勢が、明確かつポジティブに示されており、当時の若い女性リスナーにとっては“NO”と言える強さを学ぶ象徴的な楽曲だったとも言える。
そのタイトルが語るように、「私はそういう女の子じゃないのよ」という明確な立場表明が全編にわたり一貫されている。恋愛をしたい気持ちがないわけではないが、相手が真剣でないのなら付き合うつもりはない。相手に合わせて自分を犠牲にしたり、無理に流されて関係を持つようなことはしない――そうした強い意志が、この軽快でキャッチーなポップソングの裏に込められているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Vitamin Cことコリーン・フィッツパトリックは、ティーン向けのポップアイコンであると同時に、過去にオルタナティヴ・ロックバンド「Eve’s Plum」で活動していたというキャリアを持つ稀有な存在である。そのため彼女の音楽は、表面上はキュートでポップな印象ながら、内面にはっきりとしたメッセージ性や主体的な女性像を含んでいる。
この楽曲がリリースされた1999年は、Britney SpearsやChristina Aguileraらが次々とデビューし、女性ポップアーティストが急増していた時代であるが、彼女たちの多くは“セクシーで魅力的な存在”としての側面を強調されることも多かった。そんななか、「Not That Kind of Girl」は、流行に飲まれることなく、恋愛における選択権を女性側が持つことの大切さを堂々と提示していた点で、異色とも言える一曲だった。
プロデュースはJosh Deutschが担当し、耳馴染みのよいメロディとエレクトロニックなアレンジが施されたことで、内容の強さに反して軽やかで踊れるトーンに仕上がっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You think you know me, you don’t know me
わたしのことを分かってるつもり? でもあなたは全然分かってないI’m not the girl that you think I am
あなたが思ってるような女の子じゃないのDon’t try to play me, just can’t sway me
誤魔化そうとしても無駄、そんな手には乗らないわI’m not that kind of girl
私は、そんな簡単な女の子じゃないのよYou can’t control me
わたしは誰にもコントロールされない
引用元:Genius Lyrics – Vitamin C / Not That Kind of Girl
4. 歌詞の考察
この楽曲が持つ最大の特徴は、「自己主張の明瞭さ」と「ポジティブな拒絶」である。ポップミュージックにおいて「愛される」ことは時として「受け身」であることと混同されがちだが、「Not That Kind of Girl」では、その構造を拒み、「私は私でいたい」「あなたの都合で振り回されない」とはっきりと宣言している。
「Not that kind of girl」というフレーズは、相手にとって都合のいい関係にはなりたくないという意思表示であり、同時に「自分の価値を自分で決める」という強い姿勢の表れでもある。これを軽快なポップビートに乗せて歌い上げることで、聴く側にも違和感なくそのメッセージが届くようになっている。
また、この曲は反発ではなく“自己愛”の発露として聴くこともできる。相手を否定するのではなく、自分を大切にするために「NO」と言える強さ。その静かな勇気は、90年代の終わりに生きる若者たち――特に若い女性たちにとって、大きな励ましとなったに違いない。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “No Scrubs” by TLC
いい加減な男性にNOを突きつける、女性主体の強い意思を持ったアンセム。 - “Independent Women Part I” by Destiny’s Child
自立した女性の生き方を肯定する、ポップR&Bの金字塔的存在。 - “Stronger” by Britney Spears
失恋から立ち上がり、自分の足で進む女性の姿を描いた再生の歌。 - “Sk8er Boi” by Avril Lavigne
自分のスタイルを貫くことで“モテ”や評価から自由になる姿を描いた青春パンク。 -
“Just a Girl” by No Doubt
ジェンダーに対する風刺的視点を持ちながらもキャッチーな反骨ポップソング。
6. 自分で自分を定義するということ
「Not That Kind of Girl」は、恋愛や性にまつわる価値観がメディアや社会から強く押しつけられるなかで、それに流されない“主体的な生き方”を肯定する作品である。「あなたが思っているような女の子じゃない」という一節は、単に“清純派”を装う言い訳ではない。むしろそれは、女性が自分のペースで、納得した形で生きることを選ぶ自由を宣言する言葉なのだ。
当時のポップ界には、“誘惑的な女性像”と“控えめな理想像”という二項対立的なイメージが蔓延していたが、そのどちらにも寄らない、この曲のニュートラルな視点は今聴いても先進的である。Vitamin Cは、甘いだけではないポップソングを通じて、自分を守りながらも楽しむという姿勢を提示した。それは、「拒絶」ではなく「選択」の歌――自分で自分を定義し、誰のものにもならないための、小さくも確かな宣言だった。
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