
発売日: 1988年9月28日
ジャンル: ヘヴィメタル、ハードロック
概要
『No Rest for the Wicked』は、Ozzy Osbourne が1988年に発表した5作目のアルバムであり、
新ギタリスト “Zakk Wylde” を迎えた最初の作品として、非常に重要な位置を占める。
Randy Rhoads 亡き後の空白を埋め、Jake E. Lee の華麗なメロディアス路線の次に登場したのが
当時わずか21歳の Zakk Wylde。
荒々しく太いピッキング、ブルージーで男臭いトーン、
そして“重量級リフ”を得意とする彼のスタイルは、
Ozzy サウンドに新たな“骨太ヘヴィネス”をもたらした。
アルバムは政治・宗教・人間の闇といった社会的テーマが濃く、
特に楽曲「Miracle Man」は、
当時不祥事を起こしたテレビ伝道師を痛烈に批判するなど、
Ozzy の視点が鋭く刺さる内容となっている。
80年代後半のメタルの豪華さと、
Zakk Wylde の生々しい男気が混ざり合った本作は、
Ozzy Osbourne 第3期の幕開けを告げたタフなアルバムである。
全曲レビュー
1. Miracle Man
テレビ伝道師スキャンダルを皮肉る強烈なオープニング。
Zakk Wylde の分厚いリフとOzzy の鋭い歌唱が完璧に噛み合う。
バンドの“新時代”を告げる一曲。
2. Devil’s Daughter (Holy War)
宗教と個人の闇がテーマ。
リフはヘヴィでタイト、サビの広がりは典型的なOzzy節。
3. Crazy Babies
スピーディでキャッチー。
ミュージックビデオでも有名なハイライト曲で、
Zakk のギターの攻撃性が前面に出ている。
4. Breaking All the Rules
反逆と自由をテーマにしたミッドテンポの“男臭いヘヴィロック”。
コーラスの広がりがクセになる。
5. Bloodbath in Paradise
ダークな物語性を持つ曲。
イントロの不穏なムードから一気に加速する構成が秀逸。
6. Fire in the Sky
長尺でドラマティックなバラード寄りの名曲。
Zakk Wylde の泣きのギターが炸裂し、
アルバムで最も“壮大”なトラックとなっている。
7. Tattooed Dancer
高速メタルナンバー。
ビートの鋭さとギターのテクニカルな勢いが気持ちいい。
8. Demon Alcohol
近年のOzzy作品では珍しいほどストレートな“酒との戦い”がテーマ。
ユーモアと切実さのバランスがおもしろい。
9. Hero
アルバムを締める静かな余韻のバラード風トラック。
Ozzy の弱さと優しさが前に出て、深い味わいを残す。
総評
『No Rest for the Wicked』は、Ozzy Osbourne のキャリアの中でも
もっとも“荒々しく土臭いヘヴィネス”を持った作品だ。
Zakk Wylde の加入によって、
ギターサウンドは先代よりも太く攻撃的に変貌し、
ブルースルーツを感じさせる豪快なソロが次々と炸裂する。
また、歌詞は政治・宗教・スキャンダルといった外的テーマに触れ、
Ozzy の社会的視点が強まったことも見逃せない。
80年代的な華やかさも残しつつ、
すでに90年代へ向かう“重心の低いメタル”の気配がある。
派手でキャッチーだった『The Ultimate Sin』とは対照的に、
本作は 力強く、硬質で、鋭い。
新生Ozzyサウンドの骨格がここで形成されたと言える。
おすすめアルバム(5枚)
- Bark at the Moon / Ozzy Osbourne
Zakk以前のメタルサウンドとの比較に最適。 - No More Tears / Ozzy Osbourne
Zakk Wylde 期の最高峰とも言える成熟した作品。 - Diary of a Madman / Ozzy Osbourne
クラシカルなギター路線との対比が分かりやすい。 - Black Label Society / Sonic Brew
Zakk Wylde のヘヴィネスをさらに深堀りしたい人へ。 - Motörhead / Orgasmatron
土臭く攻撃的な80sヘヴィロックの文脈で相性が良い。
制作の裏側
本作の制作は、新加入のZakk Wylde を中心に
“バンドの音をいかに再構築するか”が最大のテーマだった。
Zakk の荒々しいリフと太いトーンに合わせ、
プロデューサー Roy Thomas Baker(Queenの名プロデューサー)のアプローチは
ギターの存在感を最優先 に調整。
その結果、Ozzy作品の中でも際立って重く分厚いサウンドが完成した。
また「Miracle Man」制作時には、
実際に社会問題(有名伝道師の不祥事)を取り上げたことで
バンド内部でも「攻めすぎでは?」という議論があったが、
Ozzy は“自分が言うべきことは言うべきだ”と譲らず、
その姿勢がアルバム全体の方向性を強く決定づけた。
『No Rest for the Wicked』は、
Ozzy × Zakk Wylde の“新時代の始まり”を告げるタフな名盤である。



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