Mr. Crowley by Ozzy Osbourne(1980)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

「Mr. Crowley(ミスター・クロウリー)」は、Ozzy Osbourneのソロデビュー・アルバム『Blizzard of Ozz』(1980年)に収録された楽曲で、ランディ・ローズの妖艶なキーボード・イントロとクラシカルなギターソロが印象的な、重厚かつ耽美的な名曲です。タイトルにある「Mr. Crowley」とは、20世紀初頭の神秘主義者アレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)のこと。彼は魔術、オカルティズム、性的解放主義、自己意志の尊重などで知られ、「最も邪悪な男」とも呼ばれた人物です。

歌詞は、このクロウリーに対する疑問と皮肉、そしてある種の畏敬を込めたものであり、単なるオカルト趣味ではなく、人間の精神性、知識欲、そして宗教・権威からの解放についての探求が込められています。Ozzy Osbourneはこの曲を通して、善悪の境界、信仰と狂気、崇拝と恐怖といった人間の深層心理を探ろうとしているのです。

2. 歌詞のバックグラウンド

1979年、Black Sabbathを解雇されたOzzy Osbourneは、自暴自棄になりながらもソロ活動を開始します。そんな彼を支えたのが、ギタリストのRandy Rhoadsでした。クラシック音楽とハードロックを融合させたRandyの作曲センスと演奏技術は、Ozzyに新たな音楽的方向性をもたらし、デビュー作『Blizzard of Ozz』はソロキャリアの大成功を収めることになります。

「Mr. Crowley」はそのアルバムの中でも最も“ダークで哲学的”な楽曲です。Ozzy自身は熱心な魔術研究家ではありませんが、クロウリーという人物の神秘性と社会的タブーに強く惹かれたと語っており、彼を題材にしたことで楽曲に深みと謎めいた雰囲気が加わっています。

また、当時の音楽業界ではSatanic Panic(サタン的音楽に対する社会的ヒステリー)が巻き起こっており、この曲も一部から「悪魔崇拝」と非難されましたが、実際にはそのような意図ではなく、人間の探究心と精神の迷宮を音楽に投影した芸術作品だと見るべきでしょう。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Mr. Crowley」の印象的な一節と和訳を紹介します。引用元:Musixmatch – Ozzy Osbourne / Mr. Crowley

“Mr. Crowley, what went on in your head?”
「ミスター・クロウリー、あなたの頭の中で何が起こっていたんだ?」

“Oh Mr. Crowley, did you talk to the dead?”
「クロウリー氏よ、本当に死者と話をしていたのか?」

“Your life style to me seemed so tragic / With the thrill of it all
「あなたの生き方は、俺には悲劇にしか思えなかった/でもそこには興奮もあった」

“You fooled all the people with magic / Yeah, you waited on Satan’s call”
「魔術で人々を欺いた/サタンの呼び声を待っていたというのか」

歌詞全体は、クロウリーに問いかける形で進行しますが、その語り口には単なる非難ではなく、「知りたい」という好奇心、「理解したい」という知的探求が感じられます。人間の“闇の側面”に触れようとする姿勢こそが、この曲の核心にあります。

4. 歌詞の考察

「Mr. Crowley」は、一見するとオカルトを題材にしたロックソングですが、実はより深い哲学的テーマを抱えています。Ozzy Osbourneは、アレイスター・クロウリーという存在を通して、“人はなぜ禁忌に惹かれるのか”“信仰とは何か”“知識と狂気の境界はどこにあるのか”といった根源的な問いをリスナーに突きつけています。

また、「Did you talk to the dead?(死者と話をしていたのか?)」という問いは、単なるネクロマンサー的興味ではなく、死と向き合い、それを超えようとする人間の欲望への問いかけでもあります。つまりこれは、神を信じきれない時代における“代替の神秘”への探求を描いた作品とも言えるのです。

音楽的にもこの曲は極めて完成度が高く、ランディ・ローズのバロック風キーボードと流麗なギターソロが、神秘と理性、闇と光のバランスを巧みに表現しています。中世の魔術書を開くかのような構成で、聴く者を深遠な世界へと誘います。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Diary of a Madman” by Ozzy Osbourne
     精神の混乱と狂気を描いたもう一つの哲学的名曲。

  • “Stargazer” by Rainbow
     魔術と権力の幻想をテーマにした壮大な叙事詩。

  • “Revelations” by Iron Maiden
     宗教と人間の本質をテーマにした文学的スピードメタル。

  • “Heaven and Hell” by Black Sabbath
     善と悪、二元論の探求というテーマで共通するクラシック。

  • Child in Time” by Deep Purple
     悲劇的な人間性を神秘的なスローバラードで表現した傑作。

6. 神秘と音楽が交差する場所――ロックが問う「知と闇」

「Mr. Crowley」は、ロックがただの反抗の音楽ではなく、“知的探求”の手段にもなりうることを証明した象徴的な楽曲です。オカルティズムというモチーフを通じて、人間の根源的な問いを掘り下げ、壮大な音楽と共にリスナーを精神の迷宮へと導いてくれる――それがこの曲の最大の魅力です。

そして今もなお、「Mr. Crowley」はオジーのライブで観客を熱狂させる代表曲であり、ロック史における“闇の芸術”の象徴としてその名を刻み続けています。


「Mr. Crowley」は、神秘主義と哲学、そしてロックが融合した唯一無二の叙事詩。禁忌に触れながら、精神の奥底を探る旅へとあなたを誘う――オジー・オズボーンの闇と知の象徴たる名曲です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました