アルバムレビュー：Moving Waves (Focus II) by Focus

発売日: 1971年10月（オランダ）／1973年（国際リリース）
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ハードロック、クラシカル・ロック

フルートが駆け、ヨーデルが叫ぶ——異形の叙事詩、世界へ飛翔す
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総評
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フルートが駆け、ヨーデルが叫ぶ——異形の叙事詩、世界へ飛翔す

『Moving Waves』（オランダ国外では『Focus II』として知られる）は、オランダのプログレッシブ・ロック・バンド、Focusが1971年に発表したセカンド・アルバムであり、彼らを世界的な知名度へと押し上げた代表作である。
このアルバムは、まさにクラシック、ジャズ、ロック、フォーク、さらにはヨーデルまでが一体化した音楽的冒険の結晶である。

特にオープニングを飾る「Hocus Pocus」は、フルート、スキャット、ギター、そしてヨーデルという破天荒な要素が爆発的に融合した唯一無二の楽曲であり、国際的な大ヒットを記録。
一方で、後半の組曲「Eruption」では、クラシック的な構成美とエネルギッシュなインプロヴィゼーションが見事に調和している。
Focusはこの作品によって、「技巧派インスト・プログレ」の最前線に踊り出たのである。

全曲レビュー

1. Hocus Pocus

ギターリフとヨーデルのインパクトで一躍有名となった、バンド最大のヒット曲。
スラップスティック的な勢いと狂気的なユーモア、そして卓越した演奏技術が同居する。
Jan AkkermanのギターとThijs van Leerの多彩な表現力がぶつかり合う、ロック史に残る奇曲。

2. Le Clochard

アコースティック・ギターの美しいアルペジオによる短いインストゥルメンタル。
“浮浪者”という意味のタイトルにふさわしく、どこか物哀しくも詩的な旋律が印象的。

3. Janis

メロウなフルートと穏やかなコード進行が心地よいバラード風インスト。
60年代のフォークやサイケデリアの余韻を感じさせつつ、Focusならではの端正さを持つ。

4. Moving Waves

タイス・ファン・レールのヴォーカルが入る唯一の楽曲。
哲学的なリリックと静謐なピアノによるモーダルな展開が、短いながら深い余韻を残す。

5. Focus II

シリーズ化される“Focus”インストの第二作。
フルートとギターの流麗なメロディが交錯する、クラシカルな気品を湛えた名品。

6. Eruption

全23分に及ぶ大作組曲。ベートーヴェンやモーツァルト的構造と、ジャズ的インプロヴィゼーションが交錯する一大絵巻。
全15のパートで構成され、古代ギリシア悲劇『オレステイア』を下敷きにしたテーマを持つ。
演奏技術・構成力・表現力のすべてが頂点に達した、Focusというバンドの芸術的到達点である。

総評

『Moving Waves』は、Focusが“単なる技巧派インスト・バンド”ではなく、芸術的な完成度と独自性を併せ持つヨーロッパ・プログレの至宝であることを証明した決定的作品である。
“Hocus Pocus”の衝撃にばかり注目が集まりがちだが、本作の真価は、むしろその後に続く流麗なインストゥルメンタル群と、壮大な組曲「Eruption」にこそ宿っている。

彼らは、クラシック音楽の構造美、ロックの推進力、ジャズの自由、そしてヨーロッパならではの民俗的情緒を見事に融合させた。
その音は、ときに笑いを誘い、ときに心を打ち、ときにただただ圧倒される。

Focusというバンドが“常識の外側”で開いた新しい音楽の地平。
『Moving Waves』は、そこに至る最初の頂点である。