More Than a Feeling by No Mercy（1998）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 特筆すべき事項：ロックの名曲をポップに昇華した意義

1. 歌詞の概要

「More Than a Feeling」は、1998年にNo Mercyが発表した楽曲で、オリジナルは1976年にアメリカのロックバンド、ボストン（Boston）がリリースした同名の名曲である。No Mercyはこの楽曲をラテン・ポップ風にアレンジし、よりダンサブルでエモーショナルな解釈を加えることで、70年代のクラシック・ロックに新たな息吹を吹き込んでいる。

歌詞は過去の恋愛を振り返る内容で、主人公は「More Than a Feeling＝ただの感情以上の何か」に突き動かされて、失われた恋人との記憶に浸っていく。メロディを耳にすることで、その人の面影が浮かび、心が揺さぶられる。その感覚は理性や時間の経過では抑えられない「感情を超えた情動」として描かれている。

No Mercyのバージョンでは、原曲の持つロック的な壮大さを保ちつつも、ラテンリズムを導入することで柔らかな温度感を与えており、原曲とはまた違った「切なさ」や「追憶」のニュアンスが強調されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

本作は、ボストンの1976年のデビューアルバム『Boston』に収録されていた同名曲のカバーである。原曲はアメリカン・ロックの金字塔とも呼ばれ、今なお数多くのリスナーに愛されるスタンダードナンバーである。

No Mercyがこの名曲をカバーした背景には、自分たちの音楽的ルーツや影響源を再解釈し、90年代の新たな文脈で再提示したいという想いがあったと思われる。プロデューサーのフランク・ファリアンは、ポップスにクラシックの要素や歴史性を持ち込むことに長けた人物であり、この選曲にも彼の美学が感じられる。

ボストン版はギターのリフと伸びやかなヴォーカルが特徴的だが、No Mercyのバージョンではその骨格を活かしながらも、リズムやアレンジがより現代的であり、感傷と希望が同時に存在する不思議な浮遊感を演出している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I looked out this morning and the sun was gone
　今朝目を覚ますと、太陽は消えていた

Turned on some music to start my day
　音楽をつけて一日を始めようとしたんだ

I lost myself in a familiar song
　馴染みの曲に身を委ねると

I closed my eyes and I slipped away
　目を閉じて、心はあの頃へと滑り込んでいった

It’s more than a feeling
　これはただの感情じゃないんだ

When I hear that old song they used to play
　あの懐かしい曲が流れると、あの頃の記憶が蘇る

I begin dreaming
　夢の中にいるような気分になる

Till I see Marianne walk away
　マリアンが去っていくあの光景が目に浮かぶ

引用元：Genius Lyrics – Boston / More Than a Feeling

4. 歌詞の考察

この曲が描いているのは、「音楽と記憶」の密接な関係である。あるメロディが過去の情景や感情をありありと呼び起こす――それはまさに、時間を超えて心に刻まれた“感情以上のもの”なのだろう。No Mercyのカバーでは、その記憶の中の情景がより鮮明に、よりエモーショナルに浮かび上がってくる。

「Marianne」という名前で象徴される失われた恋人の姿は、具体的でありながら、誰にとっても何かしらの面影に通じる存在でもある。だからこそ、この楽曲は世代を超えて共感を集める。原曲のファンにとっては新しい解釈として、No Mercyのファンにとっては新しい扉として、この楽曲は存在している。

No Mercy版のアレンジにおいても、ギターのリフやコーラスの持つドラマティックな構造は保たれつつ、より滑らかで洗練されたリズムとアンサンブルが加わっている。それにより、ロックとしての硬質さではなく、回想としての“柔らかさ”が際立つアプローチとなっている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

“Open Arms” by Journey
　失われた愛への再接近をテーマにしたエモーショナル・バラード。
“Heaven” by Bryan Adams
　過去の恋に対する切ない希望を歌い上げた名曲。
“Drive” by The Cars
　静かな哀しみと切なさを伴う80年代の名バラード。
“Always” by Bon Jovi
　永遠に続く愛を誓いながらも、届かぬ距離に苦しむ感情を表現。
“Right Here Waiting” by Richard Marx
　時間と空間を超えて待ち続ける愛の不変性を歌った珠玉の一曲。

6. 特筆すべき事項：ロックの名曲をポップに昇華した意義

「More Than a Feeling」は、クラシック・ロックの名曲という強固なイメージを持ちつつも、No Mercyの手によって90年代の感性で再構築された異色のカバーである。オリジナルがもつ青春性や情熱を保ちながら、ラテンポップのテイストが加わることで、より普遍的な“想い出の力”として描き直されている点が非常に印象的だ。

このアプローチは、“リメイク”という言葉以上の意味を持っている。異なる文化、異なる時代、異なるジャンルをつなぐことで、音楽がどれほど柔軟で豊かな媒介であるかを証明しているのだ。

また、こうした選曲は、No Mercyが単なるダンス・グループではなく、音楽に対して深いリスペクトと多様な表現力を備えたアーティストであることを裏付けている。「More Than a Feeling」は、記憶と情動の結晶であり、音楽の力そのものを証明するような存在と言えるだろう。