
1. 歌詞の概要
「Misled」は、Kool & the Gangが1984年にリリースしたアルバム『Emergency』に収録された、エッジの効いたロック寄りのファンク・ナンバーである。
「Misled(誤解された、騙された)」というタイトルが示すように、この曲では恋愛関係において自分が裏切られたという苦々しい感情が描かれている。
これまでのKool & the Gangに多かったポジティブで陽気なラブソングとは異なり、「Misled」では愛の裏側──すなわち誤解、欺き、傷ついたプライド──が赤裸々に描かれており、歌詞全体が“愛の中に潜む危うさ”を浮かび上がらせている。
歌詞の語り手は、相手の行動や言葉に振り回され、真実を知ったときの怒りと悲しみに直面する。それでもなお、彼はその経験を飲み込み、自分自身を取り戻そうとする強さもにじませている。
2. 歌詞のバックグラウンド
1984年のアルバム『Emergency』は、Kool & the Gangのキャリアの中でも最も商業的成功を収めた作品のひとつであり、「Fresh」や「Cherish」といった柔らかなラブソングと並んで、「Misled」のようなタフなナンバーがそのバランスを取っていた。
本曲は、Kool & the Gangがロックやポップ・メタルの影響を取り入れた珍しい試みであり、特にギターリフやドラマチックな展開には、当時流行していたハードロック/AORのエッセンスが色濃く反映されている。
ファンクとロックの融合はスリリングで、J.T.テイラーのボーカルもここでは甘さよりも張り詰めた緊張感を漂わせており、バンドの表現の幅を大きく広げた。
「Misled」は、全米チャートでも高評価を得ており、R&Bチャートはもちろん、ポップスファンやロックリスナーにも受け入れられたクロスオーバーなヒットとなった。これはKool & the Gangが“ファンク一辺倒ではないバンド”であることを証明した重要な一曲でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – Kool & the Gang “Misled”
She has a place in his life
彼女には、彼の人生の中に“居場所”があるHe never made her think twice
彼は一度だって、彼女に疑念を抱かせなかったAs she rises to her apology
彼女は謝罪しようとするけれどAnybody else would surely know
他の誰かなら、すぐに気づいたはずなんだ
この一節では、語り手が恋人の“嘘”に徐々に気づき始めていく過程が描かれている。真実に直面する瞬間の鋭さと、愛に対する“盲目さ”の共存が浮き彫りになる。
You’re gonna be misled
君は間違った道に導かれていくLeft for dead
打ち捨てられ、傷ついたままになるんだ
ここで繰り返される「misled」は、単に“騙された”ではなく、“信じていたものが崩れていく”という崩壊感や虚無感を含んでいる。このサビは、攻撃的でありながらも、裏切られた者の哀しみを強く感じさせる。
4. 歌詞の考察
「Misled」は、Kool & the Gangの中でも極めてユニークな作品である。その歌詞は、愛の甘さではなく、裏切りの痛み、そして信じていたものにすがった自分への自嘲も滲んでいる。
しかし同時に、この曲は被害者として泣き崩れるのではなく、裏切りを乗り越えていこうとする内面の強さも描いている点で印象的だ。
曲全体を貫くのは、“真実が暴かれる瞬間”の感情の爆発であり、それはR&Bやファンクだけではなく、ロックの持つエモーショナルなダイナミズムを通して表現されている。ギターのカッティングやパーカッションの緊張感が、内面的な葛藤を音で具現化しているかのようだ。
Kool & the Gangはこの曲で、“踊れる音楽”から一歩進んで、“感情を揺さぶる音楽”へと踏み込んだ。
恋愛の暗部を真正面から描くことで、彼らは80年代的な“光と影”の表現に挑み、それを成功させている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- What’s Going On by Marvin Gaye
社会的メッセージのある楽曲だが、心の混乱や真実への目覚めという意味で重なる要素がある。 - I Keep Forgettin’ by Michael McDonald
別れを受け入れきれない男の複雑な心情を描いたブルーアイド・ソウルの名曲。 - Who Can It Be Now? by Men at Work
80年代的な不安感や孤立の感覚が共通する、ポップスとニューウェーブの架け橋。 - In the Air Tonight by Phil Collins
重く立ち込めるサウンドと感情の爆発という構造において、「Misled」と深い共鳴を持つ。 - Shout by Tears for Fears
内なる怒りを爆発させる80sロックの代表格。抑圧された感情を解放するという共通性がある。
6. 甘さの裏にある鋭さ:Kool & the Gangの“二面性”の到達点
「Misled」は、Kool & the Gangの柔らかくロマンティックな面とは全く異なる“ダークで鋭い”側面を露わにした一曲である。
それは、愛をただの喜びではなく、誤解と欺き、そして“感情の嵐”として描いた表現の転換でもあった。
この曲が特に注目すべきなのは、サウンドと歌詞の“ズレ”がないことだ。痛みを伴う愛の終わりを、疾走感あるロック的ファンクで包み込み、聴き手にエネルギーとカタルシスをもたらすその手腕は見事である。
「Misled」は、ただ“失恋の歌”なのではない。裏切られた後に自分をどう立て直すか、その心の変化までを描いた作品なのである。
だからこそ、この曲は時に苦く、しかし確かに前を向く力を秘めている。Kool & the Gangがポップスの中で成し得た、もっとも“人間的”な一曲と言えるだろう。
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