Miriam by Norah Jones（2012）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. ノラ・ジョーンズの“ダークサイド”を示す曲

1. 歌詞の概要

「Miriam」は、ノラ・ジョーンズの5作目『Little Broken Hearts』（2012年）に収録された楽曲である。アルバム全体はデンジャー・マウスことブライアン・バートンをプロデューサーに迎え、従来のジャズやカントリーの要素から一歩踏み込み、よりダークでシネマティックなサウンドを打ち出したことで大きな注目を集めた。本曲もその文脈の中で異彩を放ち、タイトルに冠された女性「Miriam」に語りかける形で、不倫関係と復讐心をめぐる物語が展開される。

歌詞は一見すると穏やかなトーンで歌われるが、その内実は怒りと嫉妬、そして冷徹な復讐心に満ちている。「Miriam」という名を繰り返し呼びかけることで、歌の緊張感は高まり、彼女の裏切りを暴き出すかのような迫力を帯びている。ノラ・ジョーンズの作品の中でも最も暗く、不穏な物語性を持った楽曲の一つだといえる。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Little Broken Hearts』は、ノラが過去のアルバムで見せた柔らかさや癒しのトーンとは異なり、失恋や裏切りをテーマにした濃密な作品である。当時ノラ自身が経験していた恋愛の破局も背景にあったとされ、そこから生まれた強い感情がアルバム全体に流れている。

「Miriam」はその中でも際立って物語的な楽曲であり、主人公は恋人を奪った女性に語りかけながら、次第にその怒りがエスカレートし、最後には暴力的な結末を暗示する。「甘美なメロディに潜む恐怖」という対比がリスナーに強い印象を与え、単なるラブソングの枠を超えたドラマ性を獲得している。

ノラはインタビューで「これは架空の物語だが、作る過程で自分の暗い部分を引き出せた」と語っており、この曲は彼女の音楽家としての幅の広さを示すとともに、従来のイメージを覆す試みであった。プロデューサーのデンジャー・マウスによるミニマルで張り詰めたアレンジが、その緊張感をより一層高めている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元：Norah Jones – Miriam Lyrics | Genius Lyrics

Miriam, that’s such a pretty name
ミリアム、なんて綺麗な名前なんだろう

And I’ll keep saying it until you die
そしてあなたが死ぬまで、その名を呼び続けてあげる

It’s such a beautiful sound
それはとても美しい響き

Lying next to him when the lights go out
灯りが消えたあと、彼の隣に横たわっているあなた

この抜粋からも明らかなように、歌詞は表面的には穏やかな語りかけであるが、その裏には強烈な皮肉と憎悪が込められている。「名前を褒める」という行為が「死ぬまで言い続ける」とつながることで、愛と死、優しさと残酷さが反転する構造が浮かび上がる。

4. 歌詞の考察

「Miriam」は、裏切りと復讐をテーマとした物語性の強い楽曲であり、ノラ・ジョーンズの作品群の中でも特異な位置を占めている。歌詞においては、第三者である「Miriam」に対する直接的な呼びかけが続き、彼女を追い詰めるような心理描写がなされる。この形式は、聴き手にとってまるで小説や映画の一場面を覗き見しているかのような感覚をもたらす。

また、ノラの声の柔らかさが逆説的に恐怖を増幅させている。怒鳴ったり叫んだりするのではなく、あくまで冷静で静かな声で語りかけることで、復讐の決意はより冷酷に響く。この「甘美さと残酷さの同居」は、デンジャー・マウスによるプロダクションとも相まって、シネマティックでスリリングな世界観を生み出している。

楽曲全体を通して、「Miriam」という名前のリフレインが持つ呪術的な効果は圧倒的で、聴き手の記憶に強烈に残る。最終的に語り手がどのような行動を取るのかは明示されていないが、その不確かさがかえって不気味な余韻を残すのだ。