Love Lies by Khalid & Normani(2018)楽曲解説

1. 歌詞の概要

Love Lies」は、2018年にKhalidとNormani(元Fifth Harmonyのメンバー)によってリリースされたコラボレーション楽曲であり、映画『Love, Simon』のサウンドトラックに収録された一曲として注目を浴びた。Khalidが当時すでにR&Bシンガーとして確固たる地位を確立していたこと、そしてNormaniFifth Harmonyからソロとして本格的に活動を始めるタイミングで発表された曲であったこともあり、リリース当初から大きな話題を呼んだ。二人のボーカルがそれぞれの個性を保ちつつ絶妙に調和している点や、洗練されたR&B・ポップサウンドが耳に心地よく、公開当時は各種ストリーミングサービスのチャートで上位にランクインし続けたのも印象的である。

曲名の「Love Lies」は直訳すると「愛の嘘」や「愛が横たわる場所」といった二重の含みを感じさせるが、実際の歌詞の内容は「まだはっきりと関係を言葉にすることはできないけれど、お互いに確かな想いがある」という曖昧な段階を丁寧に描いている。相手の真意を知りたい、でも自分の気持ちもどこまで明かしていいのかわからないという、恋愛における駆け引きや遠慮がテーマになっているため、聴く者に「もしかしてこういうことは誰しも経験あるのでは?」と共感を呼ぶ要素を多分に含んでいる。

Khalidの甘く柔らかなヴォーカルと、Normaniの伸びやかでセクシーな歌声が交互に登場し、サビでは二人のハーモニーが重なることで、楽曲全体に深い余韻とエモーショナルな雰囲気が生まれている。リズムやメロディラインはミッドテンポであるものの、ビートに適度な余白があるため、それぞれのボーカルが持つニュアンスが際立ちやすい。ありきたりなデュエット曲とは異なる、同じ空気を共有しているような親密さが醸成されている点も大きな特徴と言えるだろう。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲が初めて世に出たのは、Greg Berlanti監督による青春映画『Love, Simon』のサウンドトラックの一部としてであった。原作小説「Simon vs. the Homo Sapiens Agenda」を基にした同映画は、ゲイの高校生がカミングアウトを通じて自分のアイデンティティを探る物語であり、青春の葛藤や友情、恋愛が大きなテーマになっている。映画全体に流れるエモーショナルなトーンや、多様性を肯定するメッセージが「Love Lies」の歌詞にもぴったりと合致し、公開当初から「この映画の空気感と一体となった名曲」として多くのファンを魅了した。

Khalidは当時すでに「Location」や「Young Dumb & Broke」などのヒット曲を連発しており、特にティーンから20代前半の若者世代を中心に大きな支持を集めていた。一方のNormaniは、Fifth Harmonyのメンバーとして名声を得ていながらも、ソロアーティストとしてはまだ大きな実績が少ない時期であった。しかしグループ時代から際立っていた歌とダンスの才能は多くの人に認められており、ソロアーティストとしてのスタートを華々しく彩る作品を模索していたと言われる。そうした二人の音楽的バックグラウンドや状況が合致し、映画の世界観とも運命的にマッチした結果が、この「Love Lies」であった。

レコーディングに際しては、Khalidが持つR&Bらしい繊細で温かみのある音色と、Normaniの豊かな声量と表現力がどのように融合するかが重要なテーマになったとされる。プロダクションを担当したのはCharlie HandsomeとJamil “Digi” Chammasらであり、彼らはKhalidの「Better」をはじめとする楽曲にも携わっている制作陣である。シンプルなビートと印象的なシンセサウンドが絡み合うことで、ボーカルの魅力が前面に押し出されつつ、決して単調にならないアレンジが実現した。仕上がった曲は、R&Bとポップを融合させたクールさと、青春の儚さを感じさせるメロウな雰囲気が同居する絶妙な一曲となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Love Lies」の歌詞の一部を抜粋し、その日本語訳を掲載する。引用については著作権保護の観点から一部のみとし、完全な歌詞は下記のリンク先を参照してほしい。

引用元: Khalid – Love Lies Lyrics

So baby, tell me where your love lies
今どんな気持ちなのか教えてほしい
Waste the day and spend the night
昼間を無駄に過ごしてもいいから、一緒に夜を越えたい
Underneath the sunrise
朝日が昇るまで、
Show me where your love lies
その想いを見せてほしいんだ

この部分からもわかるように、歌詞の焦点は「相手の気持ちを探ろうとする切実な思い」と「一緒に夜を過ごしたいという甘美な欲望」が同時に描かれている点にある。「Underneath the sunrise」というフレーズには、夜明けまでの限られた時間を共有し、その中で本音を探り合うようなニュアンスが漂っている。恋人同士であっても、あるいはまだ恋愛関係と呼べるかどうかわからない曖昧な段階であっても、互いの真意を確かめたいという気持ちは多くのリスナーに共感を与えるはずだ。

4. 歌詞の考察

「Love Lies」の歌詞全体から読み取れるのは、言葉にしきれない恋心を抱えたまま、相手と近づきたいと願う若者特有の揺れ動く感情である。自分が求めるものは何なのか、そして相手が求めるものと噛み合っているのかどうか――こうした不確かさがあるからこそ、恋愛には独特のスリルと甘美さが伴うと考えることもできる。KhalidとNormaniは、互いにまだ大人になり切れていない繊細な感情をもった主人公の視点を、男女のデュエット形式で描き分けている点が興味深い。

歌詞には、恋愛の“ごまかし”や“言い訳”を否定するような直接的な表現も含まれており、二人がストレートに互いの気持ちを求め合っている姿が感じられる。ただし、それは必ずしも「すぐに関係をはっきりさせる」という意味ではない。むしろ、お互いまだ踏み込めない境界線を行ったり来たりしながら、本当の愛を確かめたいという意図があるように思われる。恋愛における言葉と沈黙の微妙なバランスが、この曲の核心を担っているとも言えよう。

Khalidがそれまでに発表してきた「Location」や「Young Dumb & Broke」でも強調されていたが、“曖昧さ”や“未熟さ”を肯定するスタンスは、若い世代のリスナーにとって極めてリアルに映るポイントである。NormaniはR&Bグループで培ったパワフルな歌声を少し抑え気味にコントロールしながら、繊細な情感を表現している。このアプローチが、Khalidのジェントルなボーカルとの調和を生み出し、二人の間に生じる“言いそうで言い切れない想い”を、より強く際立たせているのだろう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

「Love Lies」のしっとりとしたR&B感や、甘く切ないデュエットの雰囲気を好むリスナーであれば、他にもいくつかの関連楽曲を楽しめるだろう。たとえばSam SmithNormaniのコラボ曲「Dancing With A Stranger」は、同じく男女のボーカルが交差しながら、夜の空気感を感じさせるエレクトロ・ポップに仕上げられており、「Love Lies」と似た余韻を味わえる。一方、Khalidの楽曲としては「Talk」や「Better」あたりもおすすめで、どちらもメロウでミッドテンポのサウンドと素直な歌詞が魅力的だ。さらには、Normaniのソロ曲「Motivation」はアップテンポなポップナンバーではあるが、彼女の魅力を全面に引き出しており、「Love Lies」から彼女を知った人にとっては新鮮な一面を感じられるだろう。

また、Khalidが参加したBenny Blanco, Halseyとのコラボ曲「Eastside」も、都会的なサウンドと青春の切なさを融合させた一曲として人気が高く、「Love Lies」と同様に“青春時代のリアル”を描くという点で共通点が多い。彼らが得意とする“若さや不安定さを肯定する”メッセージは、恋愛感情や自己探索をテーマにした楽曲と相性が良く、幅広いリスナーに受け入れられている。

6. 特筆すべき事項:映画との相乗効果と二人のキャリアへの影響

「Love Lies」は単なるデュエット曲のヒットにとどまらず、映画『Love, Simon』との相乗効果を通じて、より広い層にその存在をアピールすることに成功した楽曲である。映画自体が10代の少年の恋愛やカミングアウトを繊細に描いた作品であり、LGBTQ+コミュニティや若い世代に温かく迎えられた背景もあって、サウンドトラックの曲に対する注目度が一気に高まった。KhalidとNormaniの歌う「Love Lies」は、まさにその青春の空気感と多様性を肯定するメッセージを音楽で体現し、作品に彩りを添える役割を果たした。

本楽曲の成功によって、Khalidはすでに米音楽シーンで確立していた自身の地位をさらに強固なものとし、NormaniFifth Harmonyを離れてからのソロ活動で大きなインパクトを与えることに成功した。特にNormaniの場合、ダンススキルや力強い歌唱力が際立つグループのイメージを持ちつつ、より繊細で色気のある表現にも適応できるアーティストであることを世に知らしめた。この曲が彼女の名前を一気に世界へアピールした起点となったことは間違いない。

一方で、Khalidは2017年のデビューアルバム『American Teen』から着実にステップを重ね、各種フェスやツアーを成功させる中で、R&Bを基調としながらもポップスやエレクトロ、ヒップホップなどの要素を柔軟に取り入れる姿勢を確立してきた。その柔軟さが「Love Lies」というコラボレーションにおいても存分に発揮され、Normaniとのバランスや楽曲のテーマに違和感なく溶け込んだのである。

もう一つ興味深い点として、二人のボーカルが発する「若さ」や「未来への期待感」が、映画『Love, Simon』の主題と自然にリンクしたことで、聴き手は音楽を通じて作品のテーマをより深く体感できるという効果が生まれた。恋愛における素直な欲望や未熟な部分を肯定しながら、同時に“自分らしさ”を見つめ直す旅を歩む主人公たちの物語が、「Love Lies」のもつ曖昧さと秘められた情熱をさらに際立たせているのだろう。

結局のところ、「Love Lies」がこれほど広く愛され続ける背景には、ジャンルを超えたリスナーが共感できる「揺れ動く恋心」と「相手の本音を知りたい」といった普遍的な願望があるのだと思われる。KhalidとNormaniがそれぞれのキャリアをさらに進めていくうえで、この曲は二人が出会った“原点”として重要な意味を持ち続けるはずだ。映画ファンはもちろん、R&B/ポップ好きの音楽ファンにとっても外せない一曲であり、これからも様々な場面で聴き継がれていくに違いない。

このように「Love Lies」は、KhalidとNormaniという二人のアーティストにとってターニングポイントとなる作品であり、映画との相乗効果によって幅広い支持を獲得した楽曲である。シンプルなビートと美しいメロディに乗せて、互いの感情を探り合う歌詞の世界は普遍的で、繰り返し聴くほどにその深みが増す。夜の静けさの中で、または映画のワンシーンを思い出すような空気感の中で、そっと流してみると改めてその魅力を実感できるだろう。二人の声が重なり合う瞬間の神秘的な響きは、青春の儚さや恋の駆け引きの甘美さを映し出し、聴く者の心をロマンティックな世界へと誘う。もしかすると、それは映画のストーリーが持つメッセージとも相通じる“自分をさらけ出すことの大切さ”を示唆しているのかもしれない。そうした奥行きのある解釈ができるのも、この楽曲の大きな魅力の一つであると言えるだろう。

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