1. 歌詞の概要
「Look Away」は、Chicagoが1988年にリリースしたアルバム『Chicago 19』に収録され、同年の全米シングルチャート（Billboard Hot 100）で1位を獲得したバラードである。この楽曲は、バンドにとってもキャリア最大級のヒットのひとつであり、1980年代後半という時代の空気を反映したポップ・ロック・バラードとして、今なお多くのリスナーに愛されている。
歌詞が描いているのは、終わってしまった恋を見つめることの苦しさと、その感情をどうにかやり過ごそうとする“切なさと自尊心”の入り混じった心の動きである。タイトルの「Look Away（見ないでくれ）」は、「もし君が誰か他の人といるのを見たら、胸が張り裂けそうだから」という思いの表れであり、未練と誇りが共存する一種の自己防衛としての表現でもある。
これは、未練をひとりで抱えながらも、“強く在ろうとする人間”の姿を描いた、極めて感情的で、しかし静かなバラードである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Look Away」は、ダイアン・ウォーレン（Diane Warren）によって書かれた楽曲であり、Chicagoにとっては外部ソングライターによるヒットとしても知られている。プロデュースはロン・ネヴィソン（Ron Nevison）が手がけており、1980年代後半のラジオ・フレンドリーなバラードの典型とも言える作りになっている。
この楽曲でリード・ボーカルを担当したのは、ピーター・セテラ脱退後に加入したジェイソン・シェフではなく、キーボーディストのビル・チャプリン（Bill Champlin）であり、彼の力強くも繊細な歌声が、楽曲に切実な情感を与えている。
「Look Away」はChicagoにとって3曲目の全米No.1ソングとなり、バンドのキャリアの中でも大きな商業的成功を収めた。興味深いのは、この曲が従来のChicagoが持つ“ブラスロック”の要素を完全に排除し、より一般的なアダルト・コンテンポラリーのバラードに接近している点である。これは賛否両論を呼びつつも、1980年代の新たなChicago像を決定づけた一曲でもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
When you called me up this morning
Told me ‘bout the new love you found
今朝、君が電話をくれて
新しい恋人ができたって話してくれたとき
I said “I’m happy for you”
I’m really happy for you
「よかったね」って言ったよ
本当は、そう言うしかなかったんだ
But if you see me walkin’ by
And the tears are in my eyes
Look away, baby, look away
でも、もし僕が通り過ぎるとき
目に涙を浮かべてたら
見ないでくれ、お願いだから
Don’t look at me
I don’t want you to see me this way
僕を見ないでほしい
君にこんな姿は見られたくないんだ
引用元：Genius Lyrics – Chicago “Look Away”
4. 歌詞の考察
「Look Away」の歌詞は、失恋を描く楽曲の中でも特に“自尊心”と“本心”のせめぎあいを巧みに描いたものとして際立っている。語り手は、元恋人から新しい相手ができたことを知らされても、表面上は冷静に振る舞おうとする。だがその実、心の中では涙があふれそうになっている。だからこそ、「もしそんな自分を見かけたら、見ないでくれ」と願う。
ここには、“強がり”という人間的な感情が深く投影されている。心の中ではまだ彼女のことを想っているのに、それを相手に知られたくない。格好悪いところを見せたくない。だからこそ、恋の終わりの苦しみはさらに増幅される。そうした“言えなかった言葉”や“見せられない感情”が、この楽曲の詩の核心なのである。
また、“I’m happy for you”という言葉が繰り返されることで、言葉と本音のギャップが強調される。「幸せを願ってる」と言いながらも、実際には心が張り裂けそう。そこにあるのは、嘘ではなく、「相手を傷つけたくない」「自分も守りたい」という複雑な思いやりと痛みである。
ビル・チャプリンのボーカルは、この複雑な感情を絶妙に表現している。力強くも、どこか苦しそうなニュアンスを含む声は、“強がりの裏にある崩れそうな心”を見事に描き出しており、リスナーの共感を誘う。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- How Am I Supposed to Live Without You by Michael Bolton
別れた相手を忘れられず、苦しむ心情を描いたソウルフルなバラード。表面的な強さと裏腹の感情が共通。 - Every Rose Has Its Thorn by Poison
別れの切なさと男の弱さをバンド・サウンドで表現したバラード・ロックの名曲。 - Hard to Say I’m Sorry by Chicago
恋人との距離や後悔をテーマにしたバラード。失ったものへの後悔が切々と描かれている。 - I Can’t Make You Love Me by Bonnie Raitt
愛を諦めざるを得ない瞬間の痛みを、静かに、でも深く描いた傑作。
6. “見ないでほしい”という愛の余韻
「Look Away」は、“もう終わったはずの恋”のなかに残る余韻と、それにどう向き合えばいいのかわからない不器用な心を、あくまで繊細かつダイレクトに描いた一曲である。そしてこの“見ないでくれ”という願いは、実は“まだあなたが好きなんだ”という感情の裏返しでもある。
この楽曲には、ヒロイズムもドラマもない。あるのはただ、“誰にでもある未練と強がり”。だからこそ、聴く者は自分の過去の恋を重ねずにはいられない。
また、Chicagoにとってこの曲は“新たなサウンドへの転換点”でありながら、“変わらない人間の心”をしっかりと捉えた作品でもあった。ブラスバンドとしての原点からは距離を置いたサウンドであっても、感情の本質を描く姿勢は一貫している。
「Look Away」は、愛が終わったあとに残る“静かな痛み”を、声とメロディでそっと包み込んでくれるバラードである。目を背けてしまいたい現実と、それでも立ち向かおうとする心の声――それがこの曲の真の響きなのだ。
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