1. 歌詞の概要
「Look Away」は、スコットランドのロック・バンド、Big Countryが1986年にリリースしたサード・アルバム『The Seer』のオープニング・トラックかつリード・シングルであり、UKチャートで第7位を記録した、彼らにとって最大級のヒット曲のひとつである。
本楽曲のテーマは、一言でいえば“逃避”と“断絶”である。「Look Away（目をそらせ）」というタイトルに込められた言葉は、まるで他者との接触や過去の記憶、あるいは罪と向き合うことから背を向けるようにと語りかけるが、実際にはその背後に強い痛みと葛藤が隠されている。
歌詞では、恋愛の裏切り、信頼の喪失、そしてそこからくる自己防衛のような感情がストーリーテリング的に描かれる。主人公は自らが関わった出来事や愛した人に対して、“もう見るな”と訴えるが、それは怒りや冷たさではなく、むしろ傷ついた心の断末魔のようにも聴こえる。
結果的にこの「Look Away」は、個人の内面にある脆さ、誇り、そして絶望の三重奏として響く、Big Countryならではのスケール感と感情の深さを備えたロック・アンセムである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Look Away」が収録された『The Seer』は、Big Countryの3枚目のアルバムであり、プロデューサーにはロビン・ミラー（Sadeなどの作品でも知られる）が起用されている。
このアルバムでは、前2作で築かれた“ケルト的なギターサウンド”を継承しながらも、より洗練されたポップ感覚とドラマティックな構成を取り入れており、「Look Away」はその象徴的な作品である。
歌詞の着想には、古代スコットランドの口承文化や伝承が背景にあるとされるが、物語の構造はむしろ近代的で、逃走者（fugitive）と彼を愛した者、そして追跡者という構図が、映画や文学における“悲劇的英雄”の姿を彷彿とさせる。
楽曲のエネルギーは攻撃的でありながらも、アダムソンのヴォーカルには苦悩と悲哀が滲み出ており、その二面性がこの楽曲を一層深みのあるものにしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的な歌詞の一部を抜粋し、その和訳を添える。
This time will pass and you’ll move on
→ この時間もやがて過ぎていくだろう 君も前に進むだろうI’m here and then I’m gone
→ 僕はここにいて、次の瞬間にはもういないSo look away, look away
→ だから目をそらしてくれ、見ないでくれI’m not the one you knew
→ 僕はもう、君が知っていた僕じゃないThere’s nothing left to say or do
→ もう言葉も、するべきことも残っていない
引用元：Genius Lyrics – Big Country “Look Away”
これらの言葉は、単なる別れの悲しみではなく、失われた自己を受け入れざるを得ない現実への抵抗と、やがてそれを受け入れる諦観の混在を描いている。
4. 歌詞の考察
「Look Away」の歌詞構造は、物語的でありながらも非常にミニマルだ。誰かを愛し、誰かを失い、そしてその記憶が痛すぎるがゆえに“もう目をそらしてくれ”と願う。それは決して無関心ではなく、むしろ深く関わったがゆえの“断絶の必要性”として描かれている。
語り手は、かつての自分とは違う人間になってしまったという感覚を持ち、それによって愛する者に対して“見るな”と語る。これは、愛の否定ではなく、“君の記憶の中の自分”への哀悼であるとも読める。
また「I’m here and then I’m gone」というラインには、スコットランド的な“風のように現れては消える”という伝承的なイメージが重なり、土地と精神、自然と感情が一体化したような詩的広がりを持つ。
音楽的にはエネルギッシュで高揚感があるにもかかわらず、歌詞はむしろ後ろ向きで儚さを帯びており、そのギャップが「Look Away」に独特の哀愁と劇的な深みを与えている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Rain in the Summertime by The Alarm
同時代・同地域のバンドによる、情熱と孤独のアンセム。 - The Unforgettable Fire by U2
詩的で情緒的、かつ爆発的な表現を備えたアルバムからのタイトル曲。 - Somebody by Depeche Mode
愛と孤独の距離感をシンプルに、しかし深く描いたバラード。 -
Wasteland by The Mission
逃避行と内面の葛藤を神話的スケールで描いた、ゴシックロックの名曲。 -
Alive and Kicking by Simple Minds
力強いメロディと切ない詞が響き合う、80年代後期の代表的アンセム。
6. “目をそらす”という選択の意味
「Look Away」という言葉は、一般的には“見ないで”というシンプルな命令形だが、この曲ではもっと多義的な意味を持つ。それは、過去への目線、他者との関係、自己の再定義、そして感情的な生存戦略のひとつである。
スチュアート・アダムソンは、この楽曲を通して、“人と人がどうやって別れていくか”という普遍的な主題を、詩と音の力で描き出した。音楽は疾走しながらも、言葉は置き去りにされた記憶と共にとどまり続ける。まるで風景の中を全速力で駆け抜けながら、ふと振り返って、そしてまた走り出すような――そんな余韻がこの曲にはある。
「Look Away」は、ただのヒット曲ではない。それは別れの痛みを尊重し、記憶を讃え、そして次へと歩み出すための“静かな別れの儀式”なのだ。
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