アルバムレビュー：Jyoty’s Request Line Vol 1 by JYOTY

発売日: 2023年12月8日
ジャンル: クラブ・ジャズ、UKガラージ、R&B、グローバル・ベース、ブロークンビーツ

概要
全曲レビュー（主要トラック抜粋）
総評
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概要

『Jyoty’s Request Line: Vol 1』は、ロンドンを拠点に活動するDJ／セレクターJYOTY（ジョーティ）が2023年に発表した初のキュレーション・コンピレーションアルバムであり、彼女の音楽的ルーツとクラブカルチャーに対する深い愛情を刻んだ“音楽的ラジオ番組”のような一枚である。

BBC Radio 1 や Rinse FMなどでも活躍するJYOTYは、パンジャービー系イギリス人としての背景を持ち、UKクラブ・カルチャーに多様性と物語性を持ち込んだ存在として注目されてきた。
このアルバムでは、彼女自身が影響を受けてきたアーティストたちとともに“リクエストライン”＝選曲の対話を行い、ジャズ、ソウル、UKG、アフロビート、ラテン、R&Bなどが自由に行き交う世界が展開されている。

Vol.1と銘打たれているように、これは一つの“始まり”。
クラブを単なる踊り場ではなく、記憶と癒しと会話の場として捉える視点が、この作品をより深く、個人的なものにしている。

全曲レビュー（主要トラック抜粋）

1. Intro (Jyoty’s Request Line)

ラジオ番組風のインタールードから始まり、JYOTYの声とビートが絡み合う。
リスナーに語りかけるような導入で、作品全体の親密さを予告する。

2. “Sugar” (feat. Kojey Radical & Lex Amor)

ロンドンの詩人ラッパーKojey Radicalと、静かな語り口のLex Amorを迎えたスムースなクラブ・ジャズ。
エレガントでありながら、パーソナルな痛みや郷愁がにじむ名曲。

3. “Overtime” (ft. Emmavie)

エマヴィーの艶やかなR&Bボーカルが光るネオ・ソウルトラック。
日常と恋のすれ違いを描いたリリックは、都会的でありながら普遍的な感情を映し出す。

4. “2Step Love”

UKガラージ・リバイバルのスピード感とセンチメンタルなコード進行が絶妙に噛み合う。
クラブでの一瞬のまなざし、通り過ぎる感情を音で捉えたような短編映画的トラック。

5. “Rumours” (ft. Greentea Peng)

サイケデリックでスモーキーなR&B×アフロビート・ミックス。
Greentea Pengのスピリチュアルな存在感が、Jyotyの持つ“夜の語り部”としての立ち位置と見事に呼応する。

6. “No Requests Please”

タイトル通り、“リクエスト不可”としつつも、実は誰かの物語を静かに拾い上げるような感触のトラック。
クラブにおける“無言の対話”を表現したミニマルかつ叙情的な1曲。

7. Outro: The Line Continues

語りと環境音、余白の中に“次へ続く”気配を残すエンディング。
次作への伏線として、見事な余韻をもたらす構成。

総評

『Jyoty’s Request Line: Vol 1』は、クラブ・カルチャーにおける“選曲”という行為の詩性と政治性を同時に提示した、静かなる革新のアルバムである。

ここではBPMやジャンルではなく、人の温度と記憶の重なりが基準として用いられており、トラックリストはまるで1人の深夜の心象風景のようでもある。
そして何より、JYOTYの選び取る音には、言葉にならない感情を言葉のように届ける力がある。

パーティーという一時の熱狂ではなく、その前後にある沈黙や反芻を、音楽として記録した一作。
次作が「Vol.2」として続くのであれば、これはきっと、“夜の物語”の第一章となるだろう。