
発売日: 2006年3月13日
ジャンル: インダストリアル・ロック、ダーク・ウェーブ、オルタナティブ・メタル
鋭く、荒々しく、暗黒の極致へ——Gary Numanのインダストリアル・ロック最終進化形
2006年、Gary NumanはアルバムJaggedをリリースし、90年代から続くインダストリアル・ロック路線の集大成とも言える作品を完成させた。前作Pure(2000年)では、ヘヴィなギターと怒りに満ちたサウンドを押し出していたが、本作ではより洗練され、ダークで壮大な雰囲気を強調している。
タイトルの「Jagged(ギザギザした、鋭い)」が示す通り、本作の音楽はまさに刃物のように鋭く、攻撃的でありながらも、どこか美しさを湛えている。シンセサイザーの浮遊感、重厚なギターリフ、荘厳なコーラス、そしてNumanの冷たくも情熱的なボーカルが絡み合い、まるで終末のサウンドトラックのような世界観を作り上げている。
また、本作ではNine Inch NailsやMarilyn Mansonの影響を受けつつも、Numan自身のシンセポップ時代のエッセンスを再解釈し、よりダークなエレクトロニック・ロックとして昇華している点が特徴的だ。
プロデューサーには、Numanの長年のコラボレーターである**アデ・フェントン(Ade Fenton)**を起用し、サウンドの質感がよりモダンでクリアになった。全体的に、よりグルーヴ感を重視した構成になっており、ヘヴィさの中にも緻密なアレンジが光る作品となっている。
全曲レビュー
1. Pressure
アルバムの幕開けを飾る楽曲で、ダークなイントロから徐々にビートが加速し、圧倒的なサウンドスケープへと突入する。シンセの不穏なメロディと、機械的なリズムが融合し、まるで悪夢の中へ引きずり込まれるような感覚を覚える。
2. Fold
スローテンポでありながらも、荘厳な雰囲気を持つ楽曲。重厚なベースと浮遊感のあるシンセが絡み合い、Numanの囁くようなボーカルが不気味さを際立たせる。 歌詞のテーマは、自己の内面と向き合う葛藤を描いている。
3. Halo
アルバムの中でも特にヘヴィな楽曲のひとつ。ギターのディストーションが強調され、インダストリアル・メタルの要素が色濃く出ている。「Halo(光輪)」というタイトルとは裏腹に、歌詞の内容は神や宗教に対する皮肉が込められている。
4. Slave
ミドルテンポの楽曲で、不穏なコーラスと、リズミカルなシンセが特徴的。 「支配」と「服従」をテーマにした歌詞が、機械的なビートと相まって、一種の狂気を生み出している。
5. In a Dark Place
本作のハイライトのひとつ。シンプルなメロディの中に、圧倒的な絶望感が込められており、Numanのボーカルがこれまでになくエモーショナルに響く。 サウンドはミニマルながらも、ドラマティックな展開が印象的。
6. Haunted
ゴシック・ロック的な要素が強い楽曲。シンセのメロディが幽玄な雰囲気を作り出し、まるで廃墟を彷徨う亡霊のような感覚を抱かせる。 コーラス部分の荘厳な広がりが美しい。
7. Blind
ノイズと静寂が交錯する楽曲。インダストリアルなビートが全体を支えつつ、シンセのディストーションが異様な緊張感を生み出している。
8. Before You Hate It
比較的メロディアスな楽曲で、ヘヴィなリズムとキャッチーなフックが印象的。歌詞は、「何かを憎む前に、その本質を理解しろ」というメッセージが込められており、社会批判的なニュアンスも感じられる。
9. Melt
冷たく沈んだ雰囲気の楽曲。テンポは遅めだが、その分ヘヴィなビートとシンセの層が際立ち、暗黒の中でゆっくりと崩壊していくような印象を与える。
10. Scanner
本作の中で最もアグレッシブな楽曲のひとつ。パーカッシブなビートとシャープなギターが攻撃的な雰囲気を生み出し、まるで戦闘用のマシーンが動き出すかのような疾走感がある。
11. Jagged
アルバムのタイトル曲にして、締めくくりとなる楽曲。ミステリアスなイントロから徐々に壮大なサウンドへと展開し、最終的には圧倒的なクライマックスを迎える。まるで終末の鐘が鳴り響くかのような、荘厳で劇的なフィナーレ。
総評
Jaggedは、Gary Numanのインダストリアル・ロック期の集大成とも言える作品であり、彼のキャリアの中でも最もダークで重厚なアルバムのひとつだ。
本作では、Nine Inch NailsやMarilyn Mansonといったアーティストの影響を受けつつも、Numan独自のシンセ・エレクトロニクスが融合し、よりシネマティックで緻密なサウンドスケープを作り上げている。
また、宗教、支配、自己の葛藤といったテーマが、ヘヴィなサウンドと共に強烈に表現されており、単なるインダストリアル・ロックの枠を超えた、深い芸術性を持つ作品となっている。
このアルバムをもって、Numanはインダストリアル・ロック路線の完成を迎え、以降はよりオルタナティブでエクスペリメンタルなアプローチへと向かっていくことになる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Nine Inch Nails – Year Zero(2007年)
近未来的なインダストリアル・ロックの傑作。Jaggedと共鳴する要素が多い。 - Marilyn Manson – Eat Me, Drink Me(2007年)
ゴシックな要素が強く、Numanのダークな雰囲気と共通する部分が多い。 - Depeche Mode – Delta Machine(2013年)
ダーク・エレクトロの洗練されたサウンドが魅力的。 - Front Line Assembly – Artificial Soldier(2006年)
インダストリアルとエレクトロニックの融合が楽しめる。 - David Bowie – Earthling(1997年)
Numanの影響を感じさせるエレクトロ・ロック作品。
Jaggedは、Numanの音楽的キャリアの中でも特にダークで鋭い作品であり、インダストリアル・ロックの名盤として高く評価されるべきアルバムである。
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