1. 歌詞の概要
「It’s Not Just Me, It’s Everybody」は、Weyes Blood(ワイズ・ブラッド/本名:Natalie Mering)が2022年にリリースしたアルバム『And in the Darkness, Hearts Aglow』の冒頭を飾る楽曲であり、現代に生きる人々が抱える孤独、分断、共感の欠如といったテーマを、壮麗なバロック・ポップの響きとともに描いた“時代の祈り”のような一曲である。
この楽曲では、語り手は自らの孤独や疎外感について語る一方で、それが自分一人の問題ではなく、「It’s not just me, it’s everybody(それは私だけじゃなく、みんなそうなの)」という認識へと至っていく。個人の苦しみを超えて“集団的な感情の孤立”を描き出すという、きわめて普遍的かつ現代的な視座が、この曲の中核を成している。
音楽的には、柔らかなストリングスと穏やかなピアノに乗せて、Weyes Bloodの神々しいまでに透明な歌声が静かに響き渡る。言葉はミニマルでありながら、その一語一語が深く、静かに胸を打つ。この曲はまさに、孤独と共鳴をめぐる“現代の聖歌”である。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、パンデミック以降の時代における**「疎外感と連帯感の交差点」**を意識して制作されたもので、Natalie Mering自身も「みんながバラバラに分断されているように感じるこの時代に、それでも私たちは繋がっているということを歌いたかった」と語っている。
アルバム『And in the Darkness, Hearts Aglow』は、『Titanic Rising』(2019年)に続く“現代的終末三部作”の第2章と位置づけられ、個人の内面だけでなく、社会全体の感情やスピリチュアリティまでも射程に入れた壮大なコンセプトを持っている。そのなかで「It’s Not Just Me, It’s Everybody」は、まるで聖歌隊による序章のように、このアルバム全体の精神的導入部としての役割を果たしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「It’s Not Just Me, It’s Everybody」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
Sitting at this party
このパーティーに座ってるとWondering if anyone knows me
誰かが私のことをわかってくれてるか、考えてしまうReally sees who I am
私という人間を、本当に見てくれてるのかってIt’s not just me, it’s everybody
それは私だけじゃない、きっとみんなそうなんだWe’re all so connected, but we don’t feel together
私たちはこんなにも繋がっているのに、一体感を感じられない
出典:Genius – Weyes Blood “It’s Not Just Me, It’s Everybody”
4. 歌詞の考察
この楽曲における中心的なモチーフは、「つながっているのに孤独」という21世紀の逆説である。語り手は、社交の場に身を置きながらも、自分のことを誰も本当に見ていないという感覚にとらわれる。それはまさに、SNSによって表面的には“つながっている”ものの、本質的な共感や理解に飢えている現代人の姿をそのまま写し取ったような描写だ。
「It’s not just me, it’s everybody(それは私だけじゃない)」というリフレインは、語り手自身の感情を肯定しつつ、それが個人的なものにとどまらず、集合的な疎外感であることに気づく瞬間を象徴している。これは単なる“癒し”ではない。自分の孤独が普遍的なものだと気づくことで生まれる、静かな連帯感——それがこの曲の根底に流れる力強さである。
さらに、「We’re all so connected, but we don’t feel together」というラインでは、デジタル社会の本質的矛盾が浮き彫りになる。物理的には情報を共有できるが、感情は伝わらない。これは現代人が日常的に感じている“透明な壁”のようなものを、詩的かつ静謐な表現で突きつけてくる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Strange Mercy by St. Vincent
個人的な痛みと社会的な疎外が交錯する、現代的バロックポップ。 - Shadow by Chromatics
都市の孤独と、そこに射す一筋の光を静かに描くシンセポップの名作。 - Hope Is a Dangerous Thing for a Woman Like Me to Have – But I Have It by Lana Del Rey
自己肯定と諦めが入り混じる、繊細な内面告白ソング。 - I Know It’s Over by The Smiths
他者と交われない痛みと、それでも生きるという苦さを歌った名バラード。 -
Colorblind by Natalie Imbruglia
感情のすれ違いと個人の無力さを、繊細に描いたメランコリック・ポップ。
6. “孤独はひとりのものではない”——Weyes Bloodが放つ、静かな連帯の讃歌
「It’s Not Just Me, It’s Everybody」は、**現代における孤独の構造と、それをどうやって乗り越えられるかを模索する“精神の問いかけ”**である。Weyes Bloodはこの曲で、「自分が孤独だと感じること」自体が特別ではないことを、やさしく、美しく、そして静かに伝えてくれる。
この曲のすばらしさは、悲しみを否定せず、その悲しみが“みんなのもの”であることに気づかせてくれる点にある。つまりこの楽曲は、孤独の共有という、音楽にしかできない形の癒しを提示する。
もしあなたが、日々の中で理解されていないと感じたり、孤立を覚える瞬間があるなら。この曲は、まるでどこか遠くから届く灯台の光のように、「それはあなただけじゃない」と語りかけてくれるだろう。そしてそのささやかな共鳴が、きっとあなたを少しだけ、強くしてくれる。音楽は、まだ人と人とを繋ぐ力を持っている。それを教えてくれる祈りの歌が、この「It’s Not Just Me, It’s Everybody」なのだ。
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