発売日: 1998年10月26日
ジャンル: ブリット・ポップ、ポップ・ロック、オルタナティブ・ポップ
概要
『I’ve Been Expecting You』は、英国のポップ・アイコンRobbie Williamsが1998年にリリースした2枚目のスタジオ・アルバムであり、彼の“再起”から“英国ソロ・スターの地位”を決定づけたブレイクスルー作として評価されている。
前作『Life thru a Lens』（1997）では、Take That脱退後のアイデンティティ模索と葛藤が描かれたが、本作ではそれを超えて、より洗練されたサウンドとユーモア、そしてパーソナルな深みが融合している。
プロデューサーは引き続きGuy Chambersが担当し、2人の強力なソングライティング・チームは、ポップ・ロックの王道と英ロックの伝統に根ざしつつも、90年代後半の大衆性と風刺を巧みに織り込んでいる。
シングル「Millennium」はRobbie初のUKチャート1位を獲得し、「No Regrets」や「Strong」も続けてヒット。
このアルバムによって彼は、“ポスト・オアシス世代の国民的スター”としての地位を確立した。
全曲レビュー
1. Strong
冒頭から自己認識と不安が交差するポップ・ロック。
「僕は強く見えるかい？でも実はガラスみたいなんだ」という告白が印象的で、スタジアム級のサウンドと繊細なリリックが対比をなす。
Robbieの人間味が炸裂した名曲。
2. No Regrets
Neil Tennant（Pet Shop Boys）らをゲストに迎えたダークで壮大なバラード。
友情や過去の破綻を振り返るリリックが赤裸々で、Take That時代への決別とも受け取れる。
クラシカルなストリングスが重厚な余韻を残す。
3. Millennium
James Bond風のストリングスが印象的な、アルバム最大のヒット曲。
贅沢さと虚無を抱えた“ミレニアム世代”のアイコンとしての自嘲と、華やかさが交錯。
UKポップ文化を象徴するアンセム。
4. Phoenix from the Flames
再生と自己回復をテーマにしたスロー・バラード。
「僕は灰の中から再び飛び立つ」――Robbieのパーソナルな再出発宣言とも読める。
控えめなアレンジが言葉の力を引き立てる。
5. Win Some Lose Some
愛と挫折をユーモラスに描いた軽快なナンバー。
リフレインの“That’s life”が、肩の力が抜けた人生観を表現。
Robbieのラフでウィットに富んだ魅力が光る。
6. Grace
ミステリアスなアレンジと曖昧な感情が交錯する、アトモスフェリックな中盤曲。
リリックの解釈が開かれており、リスナーの感情に委ねる余白がある。
7. It’s Only Us
当初はサッカーゲーム『FIFA 2000』のテーマとして書き下ろされたポップ・アンセム。
フーリガン的な熱気と共に、集団アイデンティティを祝福する。
アリーナを揺らすようなエネルギーが爆発。
8. Heaven from Here
やさしく、哲学的なラブソング。
「ここが天国みたいになるなら、僕はここで十分だ」と歌い、日常の幸福と信頼の美しさを描く。
Robbieのソフトな面が際立つ。
9. Karma Killer
ダークでグルーヴィーなベースラインが特徴的なロック・チューン。
怒りと復讐をテーマにした攻撃的な曲だが、どこかコミカルなアプローチも感じられる。
「これはRobbieの内なるLiam Gallagher」とも言える曲調。
10. She’s the One
オリジナルはWorld Partyだが、Robbie版がUKチャート1位を獲得。
美しいメロディと誠実な歌唱で、真のバラード歌手としての実力を証明。
ラブソングとしても普遍的な魅力を持つ。
11. Man Machine
テクノ的な要素も取り入れた実験的トラック。
人間と機械の関係をモチーフにしながら、アイデンティティの不安定さを描く。
12. These Dreams
内省的でシンプルなクロージング・ナンバー。
夢と現実の交差を穏やかに、しかし真摯に歌い上げる。
アルバム全体を締めくくるにふさわしい静かな余韻を残す。
総評
『I’ve Been Expecting You』は、Robbie Williamsが“アイドル崩壊後”の自己再生を遂げた、決意と遊び心に満ちた傑作である。
Guy Chambersとのコラボによって生み出された楽曲群は、英国的ウィットと普遍的ポップセンスが絶妙に融合しており、90年代後半のUKポップ・ロックを語るうえで欠かせない一作となった。
“深刻すぎないこと”を長所に変える手腕、そして時折の真摯な内面告白。
Robbie Williamsという存在は、このアルバムによって“バッドボーイ”から“国民的パフォーマー”へと変貌を遂げたのである。
おすすめアルバム（5枚）
- 『Life thru a Lens』 / Robbie Williams（1997）
本作の前作にしてソロデビュー作。再出発の葛藤と希望が交錯。 - 『White Ladder』 / David Gray（1998）
同時代のUKポップスにおける感傷と日常性の美学を共有。 - 『Urban Hymns』 / The Verve（1997）
ロック的スケールと内面の混沌を共に抱える点で共鳴。 - 『Postcards from Heaven』 / Lighthouse Family（1997）
ミレニアム直前のUKポップにおける穏やかでメロディックな系譜。 - 『Sing When You’re Winning』 / Robbie Williams（2000）
次作にしてさらなるエンタメ性と成熟を備えた後継作。
ビジュアルとアートワーク
アルバムのジャケットには、タキシード姿のRobbieがスパイ映画風にカメラを見据えて立っている。
“期待していたよ（I’ve Been Expecting You）”というタイトルにぴったりな諧謔と自己演出の塩梅は、Robbieのキャラクターそのもの。
この一枚は、スターが自らの“役割”を自覚した瞬間の記録でもある。
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