アルバムレビュー：I’m Still in Love with You by Al Green

発売日: 1972年10月23日
ジャンル: ソウル、サザンソウル、R&B

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
歌詞の深読みと文化的背景
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概要

『I’m Still in Love with You』は、アル・グリーンが1972年に発表した4作目のスタジオアルバムであり、
彼のソウル・アーティストとしての絶対的地位を確立した名盤である。

前年の『Let’s Stay Together』で大成功を収めたグリーンは、
ウィリー・ミッチェルと再びタッグを組み、
Hiスタジオ特有のしなやかで温かみのあるサウンドをさらに洗練。
そこにグリーンの官能的でありながらスピリチュアルなボーカルが重なり、
愛と喜び、孤独と救済を優雅に描き出す世界が完成した。

本作からも「I’m Still in Love with You」「Look What You Done for Me」などのヒットが生まれ、
アル・グリーンは”ソウル・キング”として不動の地位を確立することになる。

全曲レビュー

1. I’m Still in Love with You

タイトル曲にしてアルバムの核。
愛を誓い続けることの美しさと切なさを、
甘いメロディとファルセットで優雅に歌い上げる至高のラブソング。

2. I’m Glad You’re Mine

スロウでファンキーなグルーヴを持つナンバー。
恋人への独占欲と深い愛情が滲む、ミッドナイト・ソウルの真骨頂。

3. Love and Happiness

アルバムのハイライトのひとつ。
ファンク寄りのグルーヴとスピリチュアルなメッセージを併せ持つ、
グリーン屈指の名演。
イントロのギターカッティングから鳥肌もの。

4. What a Wonderful Thing Love Is

しっとりとしたミディアムバラード。
愛という普遍的な奇跡を、柔らかく、しかし深い感情で歌う。

5. Simply Beautiful

たった一つの声と最小限のギター伴奏。
極限までシンプルな構成で、愛の本質をそっと囁くように歌いかける。

6. Oh, Pretty Woman

ロイ・オービソンのカバー。
原曲よりもスロウで粘り気のあるリズムに再構成し、
グリーン独特のセクシャリティを注ぎ込んでいる。

7. For the Good Times

クリス・クリストファーソン作のカントリーバラードを、
ソウルフルに染め上げた秀逸なカバー。
別れの悲しみを、静かに、しかし確かに刻む。

8. Look What You Done for Me

軽快なリズムと甘いメロディが印象的なヒット曲。
恋人への感謝と喜びが溢れ出す、晴れやかな一曲。

9. One of These Good Old Days

アルバムを穏やかに締めくくるバラード。
未来へのささやかな希望と、人生の旅路を歌う、温かな余韻を持つ。

総評

『I’m Still in Love with You』は、アル・グリーンが
“愛を歌うこと”そのものを芸術の域に高めた作品である。

彼のボーカルは、激情に頼らない。
むしろ、静かに、囁くように、しかし圧倒的な深度で感情を伝える。

ウィリー・ミッチェルの控えめで緻密なプロダクションも完璧であり、
メンフィスの温もりと都会的な洗練が、奇跡的なバランスで共存している。

『Let’s Stay Together』が”愛の誓い”だったとすれば、
『I’m Still in Love with You』は”愛の持続”――
時間を経てもなお変わらぬ想いを、
静かに、しかし力強く奏でた作品なのだ。

歌詞の深読みと文化的背景

1972年――アメリカはベトナム戦争の泥沼化、
ウォーターゲート事件への不信感、
そして公民権運動の余波に揺れていた。

そんな時代に、アル・グリーンは
社会を直接的に語ることなく、
**最も個人的で普遍的なテーマ――”愛”**に焦点を当てた。

「Love and Happiness」では、
愛が人生を変え、時に痛みを伴うものであることを認めつつ、
それでも愛に希望を託す。

「Simply Beautiful」では、
言葉を極限まで削ぎ落とし、
愛することの奇跡を、ただ静かに肯定する。

『I’m Still in Love with You』は、
不安な時代にあって、
“愛だけは信じてもいい”――
そんな静かな祈りを込めたアルバムなのである。