1. 歌詞の概要
「I Guess That’s Why They Call It the Blues」は1983年に発表されたアルバム『Too Low for Zero』からのシングルで、80年代エルトン・ジョンの代表的なバラードである。歌詞は、離れ離れになった恋人への想いをブルースのメタファーで描いており、「君と過ごした愛の日々を思い出しながら、この孤独と悲しみをブルースと呼ぶのだろう」と語る。
ブルースとは単に音楽ジャンルを意味するのではなく、「哀しみ」「憂鬱」という感情の象徴として使われている。つまり、歌詞の主人公は愛の喪失を自らの孤独と悲嘆として受け止め、それを普遍的な感情として歌い上げているのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
作詞はバーニー・トーピンによるもので、彼の特徴である詩的で感情的な言葉選びが随所に表れている。当時のトーピンは離婚や恋愛の喪失を経験しており、その私生活の影響が歌詞に反映されているといわれる。
音楽的には、エルトン・ジョンのピアノを中心に据えたバラードに、バンドの豊かなアンサンブルが重なり、ギタリストのスティーヴィー・レイ・ヴォーンがゲスト参加している点も特筆すべきである。彼のブルージーで伸びやかなギターソロは、楽曲の感情的な深みをさらに増している。
シングルは全米チャートで4位を記録し、エルトンの80年代における代表作として定着した。1970年代の華やかなロック・ポップ期を経て、成熟したアーティストとしての新しい姿を世に示した楽曲であった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元：Genius
“Don’t wish it away, don’t look at it like it’s forever”
「消えてなくなればいいなんて思わないで、これが永遠に続くなんて思わないで」
“Between you and me I could honestly say
That things can only get better”
「君と僕の間では正直に言えるよ
これからはきっと良くなるって」
“And while I’m away, dry all the tears I cry”
「僕が離れている間、僕が流した涙を拭ってくれ」
“I guess that’s why they call it the blues
Time on my hands could be time spent with you”
「だからこれをブルースと呼ぶんだろう
手持ちぶさたなこの時間は、本当なら君と過ごすはずの時間なのだから」
愛の不在による悲しみと、それでも希望を見失わない姿勢が切実に描かれている。
4. 歌詞の考察
「I Guess That’s Why They Call It the Blues」は、愛の喪失をただの悲嘆としてではなく、「ブルース」という普遍的な感情の枠組みに昇華している点が特徴である。主人公は涙と孤独を抱えつつも、同時に「きっと良くなる」と語りかける。その二重性が、歌詞を単なる失恋の歌にとどめず、人生全体における「哀しみと希望の同居」として響かせている。
また、「ブルースを歌う」ということは個人的な苦しみを普遍的に共有する行為でもある。エルトンとトーピンは、この曲で聴き手に「あなたの孤独も、誰かが経験している普遍的な感情なのだ」と伝えているように思える。
エルトンのボーカルは落ち着いていながらも力強く、悲しみを抱えたまま立ち上がるような響きを持つ。そしてスティーヴィー・レイ・ヴォーンのギターソロが加わることで、個人的な痛みが音楽的カタルシスへと変換されているのだ。
（歌詞引用元：Genius Lyrics / © Original Writers）
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Blue Eyes by Elton John
同じく80年代の叙情的バラードで、内省的な魅力を持つ。 - Sorry Seems to Be the Hardest Word by Elton John
愛の崩壊と謝罪の難しさを描いた名曲。 - True Colors by Cyndi Lauper
人間の弱さと希望を繊細に描いたバラード。 - Tears in Heaven by Eric Clapton
喪失と愛の記憶をテーマにした普遍的なバラード。 - Ain’t No Sunshine by Bill Withers
孤独と愛の不在を深く表現したソウルバラード。
6. 80年代エルトンの成熟を示す名曲
「I Guess That’s Why They Call It the Blues」は、1970年代のポップアイコンとしてのエルトン・ジョンから、成熟したシンガーソングライターとしての彼を印象づけた楽曲である。派手さや実験性ではなく、シンプルに人間の感情を深く掘り下げた作品であり、その誠実さが時代を超えて共感を呼んでいる。
ブルース的感情を抱えながらも、それを普遍的なメロディと歌に昇華すること。それこそがエルトン・ジョンの真骨頂であり、この曲はその象徴的存在である。「ブルース」と呼ばれる悲しみを、誰もが抱えながら生きていることを、静かに、しかし力強く語りかける名バラードなのである。
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