発売日: 2024年2月2日
ジャンル: インディーポップ、オルタナティブロック、アートポップ
概要
『How Have You Been?』は、ドイツのインディーポップバンド、Giant Rooksが2024年にリリースしたセカンド・フルアルバムであり、彼らの音楽的成熟とさらなる飛躍を示す作品である。
デビュー作『Rookery』で世界的な注目を集めた彼らは、本作でよりパーソナルな視点と、より洗練されたサウンドスケープを打ち出している。
タイトル『How Have You Been?』は、そのまま聴き手への問いかけであり、パンデミック以降の世界における孤独、再生、そしてつながりへの渇望を、親密なトーンで描いている。
音楽的には、インディーロック/ポップを軸にしながらも、ドリームポップ、エレクトロニカ、フォークといった多様な要素が自然に溶け込み、前作以上に自由で多彩な音の風景を創り上げている。
また、ヴォーカルのフレデリック・リーフェンドの表現力も一層深化し、楽曲ごとに異なる感情の機微を繊細に、時に力強く伝えている。
全曲レビュー
1. For You
優しいピアノのイントロから始まる、穏やかなオープニング。
愛する誰かへの静かな誓いを、暖かいトーンで描き出している。
2. Cold Wars
現代の孤立感と葛藤をテーマにした、力強いインディーポップナンバー。
ダイナミックなビートとエモーショナルなボーカルが、リスナーの胸を打つ。
3. Fight or Flight
逃げるか立ち向かうか――葛藤の瞬間を描いた緊張感のある楽曲。
ギターリフとシンセが交錯するスリリングなサウンドスケープが印象的だ。
4. Pink Skies
青春のきらめきと失われたものへのノスタルジーをテーマにしたドリーミーなポップチューン。
浮遊感のあるサウンドが、遠い記憶を呼び覚ます。
5. Somebody Like You
切ない恋心をストレートに歌い上げるミディアムテンポのバラード。
リーフェンドの繊細な歌声が、楽曲に深い感情を与えている。
6. Bedroom Exile
孤独な夜と心の亡命をテーマにした、静かに滲むようなナンバー。
ミニマルなビートとぼんやりとしたギターが、孤独感を際立たせる。
7. Into Your Arms
救いと安息を求めるラブソング。
きらめくシンセと柔らかなビートが、心地よい包容感を生み出している。
8. New Estate
新しい生活、新しい自分への期待と不安を描いたミッドテンポの楽曲。
希望と躊躇いが交錯するリリックがリアルに響く。
9. The People We’re Becoming
成長と変化をテーマにした、アルバム屈指のエモーショナルなハイライト。
サビでのエモーションの爆発が、聴き手に大きなカタルシスをもたらす。
10. How Have You Been?
アルバムタイトル曲にして、全体を象徴するナンバー。
シンプルなアレンジと誠実なリリックが、聴き手との間に深い対話を生む。
アルバムを通して積み上げてきた感情が、ここで静かに結実する。
総評
『How Have You Been?』は、Giant Rooksが「外へ向かう音楽」から「内面を見つめる音楽」へと自然に歩みを進めた作品である。
彼らはこのアルバムで、個人的な痛みや希望、孤独や連帯といった普遍的なテーマを、驚くほど繊細かつ率直に描き出している。
その表現は決して過剰ではなく、リスナーにそっと寄り添うような優しさに満ちている。
サウンド面でも、前作『Rookery』にあった華やかなポップセンスはそのままに、より奥行きと静けさを持った表現へと深化している。
ギター、ピアノ、シンセ、ビート――すべてが楽曲ごとに最適化され、過剰な装飾に走ることなく、純度の高い感情を伝えるために機能している。
『How Have You Been?』は、過ぎ去った時間を想いながらも、静かに前を向こうとするすべての人に捧げられた、優しくも力強い作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- The 1975『Being Funny in a Foreign Language』
親密さとポップのバランスが見事なインディーポップ作品。 - Sam Fender『Seventeen Going Under』
個人の成長と時代精神を鋭く捉えたロックアルバム。 - Dayglow『People in Motion』
爽やかなメロディと内省的なリリックが光るポップ作品。 - Blossoms『Ribbon Around the Bomb』
洗練されたポップセンスとメランコリックな感情表現。 - Vampire Weekend『Father of the Bride』
豊かな音楽性と軽やかなストーリーテリングの融合。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『How Have You Been?』は、Giant Rooks自身のセルフプロデュースを中心に進められ、一部楽曲では外部プロデューサーも起用されている。
レコーディングは主にベルリンとロサンゼルスで行われ、広がりのあるサウンドと親密なアレンジを両立させることが目指された。
また、歌詞作りにおいては、パンデミック以降に変化した「人と人との距離感」「自己との対話」を意識的に取り込んでおり、個々の楽曲がよりパーソナルな色合いを帯びている。
このような制作姿勢が、『How Have You Been?』に漂う誠実さと優しい希望を支えているのである。
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