発売日: 2017年
ジャンル: オルタナティヴロック、サイケデリックロック、アートロック
概要
『How Did I Find Myself Here?』は、The Dream Syndicateが2017年にリリースした再結成後初のアルバムであり、実に29年ぶりのスタジオ作品である。
1980年代のアメリカン・アンダーグラウンドにおける重要な一角を担った彼らは、1988年の『Ghost Stories』を最後に沈黙していたが、本作によってついに復活を果たした。
タイトルの「How Did I Find Myself Here?(どうして自分はここにいるんだ?)」には、過去と現在を繋ぐ疑問と驚き、そして音楽を通じた再発見のメッセージが込められている。
中心人物スティーヴ・ウィンを軸に、往年のメンバーであるデニス・ダック(ドラム)、マーク・ウォルトン(ベース)に加え、新たにクリス・カグナー(ギター)が参加。
新旧のバランスが絶妙に融合したサウンドは、かつてのノイジーなギター・ジャムと、より広がりを持ったサイケデリックな音像の両立を実現している。
それは「懐古」ではなく「再創造」であり、バンドの“現在地”を堂々と提示した快作となっている。
全曲レビュー
1. Filter Me Through You
アルバムの幕開けを飾る爽快なギター・ポップ。
1980年代のバンドのエネルギーと、2010年代のサウンドプロダクションが融合した、今作を象徴する軽やかさを持つ。
ウィンの声はより渋く、語りのように響く。
2. Glide
ミッドテンポのサイケデリック・ロック。
「滑空する」というタイトルが示すように、浮遊感のあるギターと反復的なリズムが心地よい。
曲全体がひとつの夢の中を漂うような感触を持つ。
3. Out of My Head
ポップかつシンプルな構成のロックナンバー。
リフの切れ味とコーラスのキャッチーさは、バンドの初期衝動が今なお健在であることを証明している。
4. 80 West
アルバム中でも最もダークで重厚な曲のひとつ。
カリフォルニアの高速道路「I-80」を巡るロード・ソングでありながら、その実体は人生の迷宮を象徴するような内省的ナンバー。
ギターの重層性が印象的。
5. Like Mary
ローラ・カーボン(元オリジナルメンバー)がゲストボーカルとして参加。
デュエット形式で進むこの曲は、80年代の匂いを色濃く残しながら、ノスタルジーにとどまらない説得力を持つ。
二人の声が重なり合う瞬間に、時代の継承と更新が刻まれている。
6. The Circle
円環をテーマにした、構造的でミニマルなナンバー。
ギターのループが神経質なまでに繰り返されることで、曲全体が一種の催眠的なサイクルを生む。
トーキング・ヘッズ的な知的さも感じられる。
7. How Did I Find Myself Here?
タイトル・トラックにして、11分を超える大作。
ゆったりとしたビート、即興的な展開、そしてスティーヴ・ウィンの語りが徐々に深みを増していく構成。
過去と現在、自分と世界、演奏と沈黙の境界が曖昧になるような、瞑想的な作品である。
8. Kendra’s Dream
ローラ・カーボンによる詩的な語りが中心となる実験的ナンバー。
音楽というよりもサウンド・ポエトリーに近い印象で、アルバムの終わりに余韻を残す“夢”として機能している。
総評
『How Did I Find Myself Here?』は、The Dream Syndicateの復活を告げるアルバムであると同時に、「再結成アルバムの理想形」として語られるべき作品である。
それは過去の焼き直しではない。
むしろ、このバンドが今もなお“未知の表現”に対して開かれていること、そして“ノイズと詩情のあいだ”を歩み続けていることの証明である。
長い沈黙を経てもなお、音楽は生きており、語るべき物語があり、そして何より“今ここにいる意味”を問い続ける意思がある——
このアルバムは、その姿勢を静かに、しかし確かに響かせている。
おすすめアルバム(5枚)
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Steve Wynn and the Miracle 3 – Static Transmission (2003)
ウィンのソロキャリアの中でも特にバンド的な熱量を持った作品。 -
The Church – Untitled #23 (2009)
同世代バンドによる晩年の名作。深みとスケールが『How Did I Find Myself Here?』と響き合う。 -
Yo La Tengo – Fade (2013)
内省とメロディの成熟。ドリーム・ポップとロックの間を漂うような作品。 -
Teenage Fanclub – Here (2016)
リユニオン世代の理想形。穏やかで誠実な音作りが共通する。 -
Luna – Rendezvous (2004)
浮遊感あるギター・ロックと都会的な詩情の融合。90s以降のサイケデリック・ロックの隠れた名作。
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