1. 歌詞の概要
「Holiday(ホリデイ)」は、アメリカ・カンザスシティ出身のエモ/インディーロックバンド、The Get Up Kids(ザ・ゲット・アップ・キッズ)が1999年にリリースした名盤『Something to Write Home About』に収録されたオープニングトラックであり、その疾走感と感情的爆発がバンドの代表的なスタイルを端的に表現している。
この曲では、“ホリデイ=休暇”という言葉が、比喩的に「自由」「距離」「関係性の冷却期間」として使われている。語り手は、相手との関係が感情的に行き詰まりを見せている中で、「すこし離れて冷静になろう」と語りかけている。表面上は落ち着いた提案のように見えるが、その裏には怒り、苛立ち、疲弊、そして寂しさが渦巻いている。
つまり「Holiday」は、恋愛や友情など、密接すぎる関係がもたらす疲労感と、そこから一時的に逃れたいという欲求を爆発的なサウンドに乗せて吐き出す、“感情の逃避行”のような楽曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Holiday」が収録された『Something to Write Home About』は、1990年代後半のエモ・リバイバルを牽引した重要なアルバムのひとつであり、The Get Up Kidsの名声を決定づけた作品である。このアルバムでは、感情の振れ幅をそのままサウンドに変換したような、ストレートで切実な歌詞が多く、その中でも「Holiday」は最もダイナミックで攻撃的な一曲である。
バンドは当時、精力的なツアー活動を続けながらも、若さゆえの人間関係や恋愛の悩みに直面していたとされ、そうしたパーソナルな葛藤が直接的に反映された楽曲となっている。
Matt Pryor(マット・プライアー)の吐き出すようなヴォーカルと、ギターとリズムセクションのタイトで爆発的なアンサンブルが相まって、“言いたいけど言えなかった感情”がそのまま音になったような、痛烈な一曲に仕上がっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Holiday」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。
引用元:Genius Lyrics – Holiday
“Sitting on the front porch of the house I can’t afford”
手が届かない家のポーチに座って
“I don’t wanna be angry no more / You’re just pushing me away”
もう怒りたくないんだ/でも君は僕を突き放してばかりだ
“I’m taking a holiday from all the things we used to say”
君と交わしてた言葉のすべてから、ちょっと離れるよ
“I thought we had an understanding / I guess I didn’t understand”
僕たちは分かり合ってると思ってた/でも勘違いだったみたいだ
“Leave the light on, I’ll never give up”
灯りはつけたままにしておいて/僕は決して諦めないから
語り手は相手との関係を完全に終わらせようとしているのではない。むしろ、「いったん距離を取ることで、もう一度何かを築けるかもしれない」という微かな希望を抱えている。
しかし同時に、「怒りたくないのに怒ってしまう」「理解し合えていると思っていたのに、実は違った」という、失望と混乱がダイレクトに表現されており、その矛盾こそがエモというジャンルの真髄でもある。
4. 歌詞の考察
「Holiday」は、感情の抑えきれなさと、それをいかに処理していいか分からない若者の心情を極めて正直に描いた楽曲である。
語り手は、相手と距離を置きたいとは言いつつも、「Leave the light on(灯りをつけておいて)」という一言に希望を託しており、完全な断絶ではなく、“繋がりの保留”を望んでいる。
この曲では、“理解したつもりでいたのに理解できていなかった”というラインが何度も繰り返される。この繰り返しは、まさに若者が恋愛や人間関係のなかで必ずぶつかる「分かり合えなさ」というリアルな壁を象徴している。相手の気持ちが分からない自分、自分の気持ちがうまく伝わらない相手——そのすれ違いが怒りと疲れ、そして諦めに変わっていくプロセスが、叫ぶような歌声と疾走感のある演奏によって生々しく描かれている。
エモというジャンルは、“大げさすぎるくらいがちょうどいい”と形容されることもあるが、「Holiday」では、その情緒の激しさが全く不自然ではなく、むしろリスナーの心を代弁するようなリアリティを持って響いてくる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Your New Aesthetic” by Jimmy Eat World
短い中に怒りと皮肉が凝縮された、エモ・クラシックの開幕宣言的ナンバー。 - “At Your Funeral” by Saves the Day
裏切られた関係とその後の感情を、鮮烈なサウンドで描いたエモの名曲。 - “Such Great Heights” by The Postal Service
距離と誤解、そしてつながりへの希望をエレクトロ・ポップで表現した傑作。 - “Rocks Tonic Juice Magic” by Saves the Day
恋愛の破綻とその怒りを過激に描く、初期エモの衝撃作。 -
“A Praise Chorus” by Jimmy Eat World
葛藤のなかにある小さな前進と、もう一度信じてみる気持ちを歌った名バラード。
6. 感情を剥き出しにする勇気:90年代エモの核としての一曲
「Holiday」は、エモというジャンルが持つ“感情の純度”と“叫ばずにはいられない心の痛み”を、ストレートに音楽へと昇華させた代表的楽曲である。
一時的な逃避としての“Holiday”は、実際にはただの“冷却期間”ではなく、心を守るための“最後のバリア”であり、その裏にはどうしようもなく不器用な愛情が眠っている。
語り手は、怒りと寂しさ、失望と期待の狭間で揺れながら、「このままでは続けられない」と感じている。だけど、すべてを捨てる勇気もない——だから“灯りはつけたままで”と願う。その中途半端さ、矛盾、揺らぎこそが、青春の真実であり、「Holiday」が胸を打つ最大の理由である。
エモという音楽が、ただ感情を激しく表現するのではなく、“その感情に翻弄される人間”を描くものであることを、この楽曲は完璧に証明している。
それは、たった2分半の間に、壊れかけた関係と、それでも諦めきれない気持ちが濃縮された、“叫びのような祈り”なのだ。
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