発売日: 2011年5月3日
ジャンル: インディー・フォーク / バロック・フォーク
Fleet FoxesのセカンドアルバムHelplessness Bluesは、デビュー作からさらに成熟した音楽性と深いテーマを提示した作品である。バンドの象徴ともいえる多層的なハーモニーや自然を感じさせる詩的な歌詞はそのままに、より哲学的で内省的なテーマに踏み込んでいる。個人のアイデンティティ、愛、社会との関係性といった普遍的な問題がアルバム全体を貫いており、リーダーのRobin Pecknoldのソングライティングが大きく進化しているのが分かる。
ProducerのPhil Ekに加え、Fleet Foxesと近い音楽的感性を持つエンジニアJonathan Wilsonがプロダクションを手掛け、音響的にも緻密さが増している。アコースティックギター、マンドリン、フルートなどの伝統的な楽器を駆使したサウンドスケープは、美しくも懐かしい印象を与える。以下に、アルバム全12曲を掘り下げて解説する。
1. Montezuma
アルバムの幕開けを飾る叙情的な一曲。Pecknoldのソロボーカルが静かに始まり、徐々にハーモニーが加わる構成が秀逸。歌詞は若さ、自己犠牲、そして過去への郷愁をテーマにしており、「Oh man what I used to be」と繰り返すラインが胸に迫る。
2. Bedouin Dress
軽快なリズムとアコースティックギターが特徴的な楽曲。バイオリンのメロディがエキゾチックな雰囲気を添えており、旅や新しい発見を象徴している。歌詞には現代社会の虚無感が垣間見える。
3. Sim Sala Bim
静かなアコースティックギターで始まり、中盤で一気に高揚感を生むドラマチックな展開を持つ曲。歌詞には神秘的なイメージや個人的な愛が込められており、サウンドと詩的表現が一体となっている。
4. Battery Kinzie
軽快なテンポとピアノのリフが印象的な楽曲。Pecknoldのボーカルが力強く響き、愛の葛藤や個人のアイデンティティをテーマにした歌詞が、エネルギッシュなアレンジにマッチしている。
5. The Plains / Bitter Dancer
2部構成の楽曲で、冒頭は静かなコーラスとアコースティックギター、後半はダイナミックな展開を見せる。社会との疎外感と人間関係の複雑さを描いた歌詞が印象的。
6. Helplessness Blues
アルバムのタイトル曲で、自己の在り方と他者とのつながりについて深く掘り下げた哲学的な歌詞が特徴。「If I had an orchard…」というラインが美しく繰り返され、希望と疑問が交錯する感情が伝わる。サウンドはシンプルながらも壮大で、アルバムの核となる楽曲。
7. The Cascades
インストゥルメンタルで、美しいギターアレンジが自然の情景を彷彿とさせる。アルバム全体の流れを一息つけるようなトラックで、聴き手に静かな余韻を与える。
8. Lorelai
甘美で郷愁を誘う一曲。軽快なアコースティックギターとノスタルジックなメロディが際立つ。失われた愛と過去の記憶をテーマにした歌詞が心に沁みる。
9. Someone You’d Admire
シンプルなギターとボーカルだけで構成されたミニマルな楽曲。内省的な歌詞がアルバム全体のテーマと呼応し、特に「What’s left for you and me?」というフレーズが深い印象を与える。
10. The Shrine / An Argument
アルバムの中でも最も複雑で挑戦的な楽曲。4部構成で展開され、フリージャズ的なサクソフォンソロが後半に挿入されるなど、実験的な要素が満載。歌詞には葛藤、喪失、希望といった感情が渦巻いており、アルバムのクライマックスを飾る。
11. Blue Spotted Tail
シンプルで牧歌的な楽曲。人間の存在や宇宙への問いかけを歌った哲学的な歌詞が、静謐なアコースティックギターとともに紡がれる。
12. Grown Ocean
アルバムを締めくくる楽曲で、希望に満ちた高揚感が印象的。Pecknoldのボーカルが情感豊かに響き渡り、夢と未来への期待を感じさせる。
アルバム総評
Helplessness Bluesは、Fleet Foxesの音楽的成熟とRobin Pecknoldのソングライティングの進化を見事に表現した作品だ。デビュー作の美しいハーモニーとフォークサウンドを継承しつつ、哲学的な深みや音楽的な実験性が加わり、より壮大で普遍的なメッセージを持つアルバムに仕上がっている。聴き手は、個人と社会の関係性や、人生の意味について静かに考えさせられるだろう。このアルバムは、インディーフォークの金字塔として長く愛されるに違いない。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Fleet Foxes by Fleet Foxes
デビュー作であり、彼らの原点ともいえる作品。美しいハーモニーとフォークサウンドが魅力。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的な歌詞と繊細なアコースティックサウンドが共通し、心に沁みるフォーク作品。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
喪失と再生をテーマにしたアルバムで、詩的な歌詞とミニマルなサウンドが共通点を持つ。
I See You by Rhye
Fleet Foxesの持つ叙情的な要素をR&Bとアンビエントの文脈で展開したような一作。
The Trials of Van Occupanther by Midlake
自然や郷愁をテーマにしたフォークロックアルバムで、Fleet Foxesファンに響く要素が多い。
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