
1. 歌詞の概要
「Good」は、アメリカ・ルイジアナ州出身のオルタナティブ・ロックバンド、Better Than Ezraが1995年にメジャーデビューアルバム『Deluxe』から放った代表曲であり、バンドにとって最大のヒットとなったナンバーである。ビルボードModern Rock Tracksチャートでは5週連続で1位を獲得し、その名前を一躍オルタナティブ・シーンに轟かせた。
歌詞の表面的な印象は、“別れた後でも君がうまくやっているようでよかった”という落ち着いたトーンに見えるが、その内側には、関係の終焉における皮肉、戸惑い、そして“まだ未練があるのかもしれない”という複雑な感情が静かに沈んでいる。この「よかったね(Good)」という言葉は、実際には“よかったと思おうとしている”自己暗示でもあり、真にポジティブな意味ではないという二重性を帯びている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Better Than Ezraは、80年代末にニューオーリンズで結成されたバンドで、大学キャンパスから人気を集め、次第に南部を中心としたインディー・シーンで注目を浴びていく。インディーズで発表していたアルバム『Deluxe』が大手レーベルElektraによって再リリースされたことにより、全国的なブレイクのきっかけとなった。
「Good」は、その再リリース盤のリードトラックであり、シンプルで耳に残るコード進行、ナスティでくぐもったギターの音色、そしてKevin Griffin(ケヴィン・グリフィン)の少し鼻にかかったような声が特徴的。リリックは彼が実際に経験した恋愛の終わりからインスピレーションを得たもので、当時の“相手の幸福を喜べない自分”に対する苛立ちや自問が込められているとされる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、特に印象的な部分の英語と日本語訳を掲載する(出典:Genius Lyrics):
Looking around the house
Hidden behind the window and the door
「家の中を見回してみる
窓やドアの陰に何かを探すように」
Well maybe I’m just too sure
Or maybe I’m just too frightened by the sound of it
「たぶん僕は確信しすぎてたんだろう
あるいは、この言葉が響くのが怖かっただけかもしれない」
It was good, living with you
「君と過ごした日々は……よかったよ」
この“good”という一言に、言い表せない複雑な感情が詰まっている。未練と納得、回想と皮肉、感謝と後悔。そのどれとも言えない曖昧な感情を、この言葉はすべて抱え込んでいるのだ。
4. 歌詞の考察
「Good」は、まさに90年代オルタナティブ・ロックの美学が詰まった曲である。率直に“悲しい”とも、“まだ好き”とも言わず、ただ「よかった」と言うことで、逆に感情の深さを際立たせている。この“よかったね”という言葉には、「もう手遅れなんだ」と自分に言い聞かせるような自己完結感がある。
また、語り手は相手の“幸せそうな様子”を見て、どこかで安心しながらも、それに取り残される自分をはっきりと認識している。つまりこの曲は、別れた二人の温度差、時間の進み方の違いを浮き彫りにしている。そしてそのズレを埋めようともせず、ただ眺めている。ここに90年代らしい“クールな諦め”の感性が漂っている。
構造としても、歌詞はストーリーを語るというより、“感情の残響”をそのまま言葉にしたような印象を受ける。時間が巻き戻るでもなく、未来へ飛ぶわけでもない。“今ここ”で、立ち尽くす自分をただ描写している。それがこの曲のリアリティであり、共感を呼ぶ理由でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Name by Goo Goo Dolls
失った関係と、名前を呼べない距離感を描いたバラード。 - Inside Out by Eve 6
感情の爆発と自己矛盾を軽妙に描く90年代オルタナの名曲。 - Hey Jealousy by Gin Blossoms
終わった恋と“なぜか嫉妬してしまう”男の不器用な心情が共鳴。 - Found Out About You by Gin Blossoms
別れた後の“知りたくなかったこと”と向き合うナンバー。 - The Freshmen by The Verve Pipe
若さゆえの過ちと痛みを振り返る、陰影の深いバラード。
6. “よかった”の裏にあるもの
「Good」という言葉は、英語において最もシンプルで、最も多義的な表現のひとつである。Better Than Ezraのこの曲が名曲とされる所以は、その“よかった”という一言に、どれだけの未練、諦め、回想、苦笑、そして愛情の残り香を込められるかを見せつけた点にある。
それは聴く人によって“皮肉”にも、“祈り”にも、“自己防衛”にも聞こえる。そしてその多層的な意味を受け入れながらも、最後には“ただの一言”に帰結する——それがこの曲の美しさであり、時代を超えて共感され続ける理由なのだ。
「Good」は、失ったものを言葉で美化せず、感情の濁りや未整理な想いをそのまま提示したリアルな別れの歌である。そしてその“言葉にできないものを、ひとつの言葉で言い切る”という静かな強さが、90年代のオルタナティブ・ロックの中でも群を抜いて輝いている。あなたにとっての「よかった」は、どんな色をしていただろうか?——それを静かに問いかける名曲である。
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