
1. 歌詞の概要
「Gimme Three Steps」は、Lynyrd Skynyrd(レーナード・スキナード)が1973年に発表したデビュー・アルバム『(Pronounced ‘Lĕh-‘nérd ‘Skin-‘nérd)』に収録された、軽快なテンポとユーモアに満ちたロックンロール・ナンバーです。バンドの中では「Free Bird」や「Simple Man」のような哲学的で内省的な曲とは異なり、この楽曲は実体験に基づいた逃げ足の早い物語を、スピーディなサザン・ブギーに乗せて展開します。
物語の筋は非常に明快で、語り手がバーで女性に声をかけたところ、彼女の恋人が現れ、怒り狂って銃を突きつけてくるという状況に陥ります。命の危機を感じた語り手は「撃つつもりなら撃てばいいが、その前に3歩だけ下がらせてくれ(Gimme three steps)」と懇願し、その場から逃げ出す…という、まさに“一触即発のコメディ・ウエスタン”のような展開です。
このように、内容はシンプルかつ滑稽でありながら、バンドのストーリーテリング能力の高さと演奏の一体感、南部文化特有のユーモアと危機回避術が凝縮された楽曲として、ファンの間では非常に人気があります。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲の元になったのは、実際にロニー・ヴァン・ザント(Ronnie Van Zant)が若い頃に体験した出来事でした。彼はフロリダ州ジャクソンビルのバーで、見知らぬ女性に軽く話しかけたところ、彼女の恋人が登場し、深刻なトラブルになりかけたというのです。その時の恐怖心を「ちょっとだけ逃げる時間をくれ!」という形で歌に昇華させたのがこの「Gimme Three Steps」でした。
この曲は、南部ロックのなかでも特に「語り口の妙と笑いの感覚」が評価される数少ない作品であり、ロック=怒りや愛の爆発という構図を覆す、肩の力が抜けた魅力を持っています。ギターのゲイリー・ロッシントンとアレン・コリンズによる軽快なリフ、ピアノのホンキートンク風味も、物語の茶目っ気を見事に引き立てています。
また、この曲はライヴでも盛り上がる定番曲のひとつで、スキナードのもう一つの顔――“土臭くて笑える、けど演奏は一級品”なバンド像を確立した楽曲として重要です。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Gimme Three Steps」の代表的な歌詞の一部を抜粋し、日本語訳とともに紹介します。
引用元:Genius Lyrics – Lynyrd Skynyrd “Gimme Three Steps”
I was cutting a rug down at a place called The Jug / With a girl named Linda Lou
“ザ・ジャグ”っていうバーで踊ってたんだ
リンダ・ルーって女の子と一緒にな
When in walked a man with a gun in his hand / And he was looking for you-know-who
そしたら突然、銃を持った男が入ってきて
俺を探してるって雰囲気でさ…
He said, “Hey there fellow, with the hair colored yellow / What you tryin’ to prove?”
「おい、金髪の兄ちゃんよ
何を証明しようってんだ?」
‘Cause that’s my woman there / And I’m a man who cares / And this might be all for you”
「そいつは俺の女なんだぜ
俺はやるときゃやる男だ。お前、今日が命日かもな」
I said, “Excuse me, mister / I didn’t even kiss her / So don’t want no trouble with you
俺は言ったんだ
「すみません、おっさん、キスすらしてません
トラブルはごめんだってば」
And I know you don’t owe me / But I wish you’d let me / Ask one favor from you”
「借りはないのは承知してるけど
頼みごとを一つだけ、聞いてもらえます?」
Won’t you gimme three steps, gimme three steps mister / Gimme three steps towards the door?
どうか俺に3歩だけ…3歩だけ時間をくれません?
ドアに向かって下がるだけでいいから!
このように、語り手は徹底的に“逃げの姿勢”を取りながらも、危機をユーモアに変換する演出力と語りのリズムが際立っています。リスナーもまるで一緒にそのバーに居合わせているかのような臨場感を味わえます。
4. 歌詞の考察
「Gimme Three Steps」は、音楽的にも内容的にも一見ライトな印象を与える楽曲ですが、その根底には**“弱さの肯定”**という大切なテーマが存在しています。ロックミュージックにおける男性像といえば、どこか強く、反抗的で、時に暴力的であることが美徳とされがちですが、この曲はその逆です。
銃を持った男に対し、「俺は悪くないし、関わりたくないだけなんだ。だから頼むから逃げるチャンスをくれ」という語り手の姿勢は、勇敢ではないが誠実であり、ある意味では最も人間的とも言えるのです。
また、舞台となる南部のバーや、名前付きの女性、銃という小道具など、アメリカ南部の文化的な要素もふんだんに盛り込まれており、それがLynyrd Skynyrd特有の“リアルな語り”を支えています。この曲に描かれるのは、英雄ではなく小さな失敗を重ねる等身大の男であり、だからこそ、多くのリスナーの共感を呼んでいるのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “La Grange” by ZZ Top
サザン・ブギーとユーモラスなストーリー展開が魅力の定番曲。演奏の泥臭さも共通。 - “Keep Your Hands to Yourself” by Georgia Satellites
恋愛と結婚観を軽妙に歌うサザン・ロック。語り口のスタイルが「Gimme Three Steps」に近い。 - “The Ballad of Curtis Loew” by Lynyrd Skynyrd
ユーモアを交えながらも郷愁漂う物語を語る楽曲。南部らしさを味わいたいなら必聴。 - “Up Around the Bend” by Creedence Clearwater Revival
明快なギターリフと旅情感。シンプルな構成で聴きやすい一曲。
6. 南部ロックに宿る“笑い”と“語り”の力
Lynyrd Skynyrdといえば、「Free Bird」や「Simple Man」のような魂の深淵に触れる楽曲で知られがちですが、「Gimme Three Steps」はそのイメージを覆すような軽快さと機知に富んだ語り口を持つ作品です。
それは、単なる冗談話ではなく、音楽が持つ“語り”の力を最大限に生かした、南部ロックにおけるリアルなライフストーリーなのです。南部のバーで巻き起こるトラブル、男の必死な逃げ腰、そして笑いに変えるエネルギー。これこそが、Lynyrd Skynyrdというバンドの懐の深さを象徴していると言えるでしょう。
**「Gimme Three Steps」は、音楽とユーモアが見事に融合した、“逃げることだってロックなんだ”と教えてくれる一曲です。勇敢さではなく、誠実さと軽妙さ。そんな“人間臭い勇気”を、サザンロックのビートに乗せて今日も響かせているこの曲は、Skynyrdの真骨頂のひとつであり、彼らの音楽が単なるジャンルではなく、“生き方そのもの”**であることを証明しています。
コメント