
1. 歌詞の概要
「Galaxie」は、Blind Melonが1995年にリリースした2ndアルバム『Soup』のオープニングを飾る楽曲であり、彼らの代表曲「No Rain」とは一線を画す、よりラウドで歪んだサウンド、そして鋭利な感情表現によって注目されたナンバーである。
タイトルの「Galaxie(ギャラクシー)」は、シャノン・フーンが所有していたフォード・ギャラクシーという1960年代の車種を指しているが、同時にそれは“過去の逃避場所”であり、“破壊的な自由”を象徴する存在でもある。楽曲の歌詞は、スピード、衝動、孤独、そして愛への依存と喪失を疾走感のあるメロディとともに吐き出すように展開される。パーソナルな体験を核にしながらも、それが普遍的な“若さの不安と衝動”を描いていることが、本作の大きな魅力のひとつである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Galaxie」は、シャノン・フーンが最も自己破壊的な生活を送っていた時期に生まれた楽曲であり、彼の中にあった“逃げたいという欲望”と“どうしようもない現実への怒り”が露わに反映されている。彼が所有していたフォード・ギャラクシーは、彼にとって“逃避の場所”であり、また“恋人との思い出が染みついた空間”でもあった。
この曲で語られる情景は、ひとりの青年が車に乗り込み、スピードにまかせて何かから逃げ出そうとしているような印象を与える。その「逃げ場所」が“車”という極めて物理的な空間であることが、この楽曲のリアリズムを強調している。Blind Melonはこの曲で、“夢想”ではなく“生々しい現実”を突きつけた。
なお、本作が収録された『Soup』は、当時としては挑戦的なアートロック的要素や実験性を盛り込んだ作品であり、バンドとしての成熟と同時に、フーンの精神的な不安定さも色濃く表れていた。彼の死のわずか2ヶ月前にリリースされたこのアルバムは、彼の最期のメッセージのようにも聴こえる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、印象的なリリックを抜粋し、英語と日本語訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
Is she the speed queen, queen of my vaccine?
「彼女はスピードクイーン
僕のワクチンの女王だったのか?」
Galaxie 500
Ridin’ in my Galaxie
「ギャラクシー500
俺のギャラクシーで走るんだ」
Well I’m buckled up inside
Miracles I’ve seen
「シートベルトは締めた
いくつもの奇跡を見てきた」
ここでは、「Galaxie」が単なる乗り物ではなく、恋人との関係、薬物依存、社会との摩擦といった複数の象徴として機能している。特に“vaccine(ワクチン)”という表現には、彼にとってその恋人が“世界からの免疫”のような存在だったことが暗示されており、それが失われた時の喪失感もまた強調されている。
4. 歌詞の考察
「Galaxie」は、シャノン・フーンの精神世界をもっともダイレクトに映し出した楽曲のひとつである。冒頭からギターが炸裂し、リズムが暴走するように展開されるこの曲は、彼の心の中の焦燥感や衝動性をそのまま音にしたかのようだ。
語り手は、過去の関係、失われた安定、自分がどこかで間違ったと知りながらも、それをどうすることもできないまま、ただ“走る”ことだけにすがっている。そこにあるのは破壊的な自由であり、無責任な放浪でもあるが、同時にそれは“どうにかして正気を保とうとする”試みにも見える。
「Galaxie」は、「No Rain」や「Change」で見られたような穏やかな内省ではなく、もっと荒々しく、混沌としたリアルな生の表現である。それでも、そこに漂う“救いのなさ”は、シャノン・フーンが終始抱えていたテーマであり、結果的にそれが彼の死と不可分の形で結びつくことになる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jesus Christ Pose by Soundgarden
反逆と暴走をテーマにした、グランジの象徴的かつ挑発的な楽曲。 - Comedown by Bush
恋と薬物、落下する感覚をシリアスに描いたミッドテンポのロックナンバー。 - 1979 by The Smashing Pumpkins
若さの輝きと空虚さを、ドライブというモチーフに託して描いた秀作。 - Heart-Shaped Box by Nirvana
愛と毒性の混在をグランジ的表現で描いた楽曲。混沌と感情が同居する。 - Mother’s Milk by Red Hot Chili Peppers
肉体的衝動と感情の複雑さをファンクで解放する、エネルギッシュな一曲。
6. “破壊の中にあった、最後の疾走”
「Galaxie」は、シャノン・フーンという人物の“終わりに向かう音楽”のようでもある。彼がどれほど繊細で、どれほど現実に抗おうとしていたか——そのすべてが、この一曲に封じ込められている。彼にとって、ギャラクシーという車は逃避でもあり、最後の自由の象徴でもあった。そしてその自由は、皮肉にも彼を崩壊へと導いた。
Blind Melonは、「No Rain」のポップな一面だけでは語り尽くせないバンドである。「Galaxie」はその裏側——暗く、混沌としていて、けれどどこか美しい“闇の景色”を映し出す。全速力で走るその轟音のなかで、リスナーはふと、自分の中にも同じような衝動があることに気づくのかもしれない。
「Galaxie」は、若さと混乱、逃避と愛情、そして自滅のあいだで揺れる魂の疾走を刻んだ、Blind Melonならではのロック・アンセムである。その破裂するようなエネルギーと、一瞬の優しさに満ちた視線が、今なお色あせずに鳴り響いている。
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