
発売日: 2014年11月21日
ジャンル: ソウル、モータウン、ポップ、カバーアルバム
概要
『From Dublin to Detroit』は、ボーイゾーンが2014年に発表したカバーアルバムであり、
彼らの敬愛する“モータウン・クラシックス”をリスペクトを込めて再構築した企画作である。
アルバムタイトルが示す通り、アイルランド・ダブリン出身のボーイゾーンが、アメリカ・デトロイト発祥のモータウンサウンドに挑むという構成で、
The Supremes、Marvin Gaye、Smokey Robinson、Stevie Wonderといった往年のレジェンドの楽曲が、ボーイゾーン流のポップ・アレンジでよみがえっている。
90年代から2000年代にかけて、甘く繊細なバラードで人気を博してきたボーイゾーンが、あえて“ソウルの王道”に真正面から取り組む姿勢は、
20年以上のキャリアを持つアーティストとしての誠実な挑戦ともいえる。
オリジナル作品ではないため、派手なヒットには結びつかなかったが、
カバーでありながらも“自分たちの声”をどう響かせるかという音楽的熟成が際立つ、
まさに“歌を続ける意味”を問うアルバムとなっている。
全曲レビュー
1. What Becomes of the Brokenhearted
ジミー・ラフィンの哀愁バラードを、丁寧なコーラスワークで再構築。
ローナン・キーティングのリードに絡む柔らかなハーモニーが、静かな情熱を呼び起こす。
2. Tracks of My Tears
スモーキー・ロビンソン&ミラクルズの代表曲。
“涙のあとに残るもの”というリリックが、円熟味を増したボーイゾーンの表現力と深く響き合う。
3. Do You Love Me
The Contoursによるダンスクラシック。軽快なテンポとノリの良さが魅力。
ステージ映えする陽気なアレンジで、アルバムに明るさをもたらす。
4. This Old Heart of Mine
ザ・アイズリー・ブラザーズの名曲を、ポップ寄りにアレンジ。
懐かしさと切なさを併せ持つメロディが、グループの持ち味と好相性。
5. Just My Imagination (Running Away with Me)
テンプテーションズの幻想的なラブソング。
サウンドは控えめに、ヴォーカルを前面に押し出したミニマルな仕上がり。
6. Higher and Higher
ジャッキー・ウィルソンのソウル・アンセム。
エネルギーに満ちた演奏と合唱風のコーラスが、グループの団結力を感じさせる。
7. I’m Doin’ Fine Now
New York Cityの70年代ソウルヒット。
メロディの滑らかさとフックの効いた構成で、聴き手に心地よい余韻を残す。
8. Reach Out I’ll Be There
フォー・トップスの代表作。ダイナミックなビートとドラマティックな歌唱が光る。
ボーイゾーンのバラード色とは対照的な攻めの一曲。
9. You Can’t Hurry Love
シュプリームスのポップ・ソウル。原曲の明るさを損なわず、ボーイゾーンならではの丁寧なボーカルで包み込む。
10. The Tears of a Clown
スモーキー・ロビンソンの皮肉と悲哀が詰まった楽曲。
軽快なアレンジの中に滲む切なさが、アルバムの中で異彩を放つ。
11. Wherever I Lay My Hat (That’s My Home)
マーヴィン・ゲイによる名曲を、しっとりとリメイク。
“自分の場所”というテーマは、キャリアを重ねた彼らの姿と重なる。
総評
『From Dublin to Detroit』は、ボーイゾーンの“ポップ・グループ”としての本領を、
クラシック・ソウルという異なる文脈で試みた意欲作であり、
“自分たちの声で、いかに人の歌を歌うか”という問いに真摯に向き合ったアルバムである。
原曲の再現を目指すというより、あくまで“ボーイゾーンらしさ”をどう滲ませるかに主眼が置かれており、
それゆえにカバーでありながらも強い個性が感じられる。
選曲も多くの人に親しまれたスタンダードで、
“UKのポップグループがソウルの源流を辿る”という文化的な橋渡しとしても、一定の意味を持つ試みだったといえる。
過去を讃えながら、今を生きる──
このアルバムは、ボーイゾーンが“グループとしてのアイデンティティ”を探り続ける旅のひとコマであり、
それが“ダブリンからデトロイトへ”というタイトルに凝縮されている。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『The Circus』
成熟したボーイズグループの再出発。カバーではないが、類似の精神性が宿る。 - Westlife『The Love Album』
ラブソングの名曲カバー集。『From Dublin to Detroit』と同じくクラシックへの敬意が漂う。 - Michael McDonald『Motown』
R&Bシンガーによるモータウン・カバーの決定版。ソウル再解釈の教科書的存在。 - Rod Stewart『Soulbook』
UKポップシンガーによるソウル名曲カバー。年代を超えた同系統のアプローチ。 - Elton John & Leon Russell『The Union』
“ルーツへの回帰”をテーマにしたソウル/ゴスペル調の共演作。精神的に本作と響き合う。
後続作品とのつながり
『From Dublin to Detroit』の次作『Thank You & Goodnight』(2018年)は、ボーイゾーンのラスト・アルバムとなる。
その前段階で本作は、“過去の偉大な楽曲に触れることで自分たちの音楽を再定義する”という内省的プロセスを担っており、
まさに“過去と未来をつなぐ”重要な一作だったと言える。
このアルバムは、声を重ねることの意味、歌い継ぐことの意味を改めて考えさせてくれる、静かで誠実なトリビュート・アルバムである。
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