1. 歌詞の概要
「Freaking Out the Neighborhood」は、マック・デマルコが2012年にリリースしたセカンド・アルバム『2』に収録されている楽曲であり、そのなかでも特にポップでキャッチーなメロディを持つ一曲である。日本語に訳せば「近所をビビらせている」といった意味になるこのタイトルが示すように、曲の主人公は周囲の人々から“はみ出し者”として見られている人物である。
しかし、歌詞全体に漂うのは反省や後悔よりも、むしろ柔らかくユーモラスな謝意である。主人公は「ちょっと騒がしくてごめんね」「でも僕は僕でこうやって生きてるんだ」と語る。とりわけ、両親や家族といった“内なる共同体”への感謝と申し訳なさがにじむ一方で、自分らしさを否定しない態度が、ある種の成熟と優しさを感じさせる。
この曲は、「型破りな生き方」と「親への敬意」という相反するテーマを共存させており、マック・デマルコ特有の人懐っこい音像と、スラックで飄々とした人間観察眼が絶妙に交錯する佳作である。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲は、マック・デマルコがライブでの過激なパフォーマンスや奔放な発言によって、一部のリスナーやメディアから“問題児”とみなされるようになった頃に書かれたとされる。実際、彼の親族、特に母親からも「もう少し落ち着いたほうがいい」といった忠告があったという。そこで彼は、その思いに応えるように、やや照れ臭くもユーモラスな謝罪の歌としてこの曲を綴ったのだ。
「Freaking Out the Neighborhood」は、そうした“家族に向けたラブレター”のような性格を持ちながら、同時に「世間の目」に対する軽やかなカウンターでもある。彼は自分の行動に責任を持ちつつも、世間や常識に対して完全には屈しない。その“ゆるさ”が、マック・デマルコの美学なのである。
音楽的には、60年代のガレージロックやサーフ・ポップの影響を感じさせる軽快なギターリフと、彼ならではのローファイで乾いた音像が特徴であり、そのポップさはライブでも常に盛り上がる鉄板曲として支持されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、歌詞の印象的な一節を抜粋し、英語と日本語訳を併記する。
Sorry mama, there are times I get carried away
ごめんよ、ママ ときどき羽目を外しすぎるんだPlease don’t worry, next time I’m home, I’ll still be the same
でも心配しないで 次に帰るときも、僕は僕のままだよAnd I know it’s no fun
それが楽しくないってことは分かってるWhen your first son
君の長男がGets up to no good
ロクでもないことばかりしてたらさStarts freaking out the neighborhood
そして近所をビビらせるようなことをし始めたらReally messing up
みんなの足並みを乱してるよなBut you’ll love him
それでも君は彼を愛してくれる
出典:Genius – Mac DeMarco “Freaking Out the Neighborhood”
4. 歌詞の考察
この曲のリリックは非常にシンプルだが、その中にデマルコらしい誠実さとユーモアが凝縮されている。冒頭の「Sorry mama(ごめんよ、ママ)」というフレーズから始まるこの曲は、親しい人たちへのちょっとした謝罪、そして感謝の気持ちを素直に表現した、珍しい“謝罪ポップ”である。
特筆すべきは、その謝り方の軽やかさと、真面目すぎないスタンスだ。彼は「羽目を外してしまって悪かった」と言いながらも、「次に帰るときも変わらないよ」と続ける。この語り口からは、“反省しすぎない誠実さ”が感じられる。つまり、自分を変えるわけではないが、相手の気持ちもちゃんと理解しているというバランス感覚だ。
また、「freaking out the neighborhood(近所を驚かせる)」というフレーズは、外れ者であること、異端であることをユーモラスに包み込むことで、社会的規範に対する軽やかな抵抗を象徴している。これは、ロックンロール的な反逆精神を現代の“スラック・ジェネレーション”流に再解釈したものと言えるだろう。
このように、「Freaking Out the Neighborhood」は、家庭やコミュニティという最も近しい単位の中で、型にはまらない自分をどう生きるか、どう愛されるかというテーマを、極めて自然体で描いた曲なのだ。
※歌詞引用元:Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- My Kind of Woman by Mac DeMarco
甘酸っぱいラブソングで、彼のロマンチックな一面が垣間見える。 - Salad Days by Mac DeMarco
若さと怠惰、そして過ぎ去る時間についてのメランコリックな名曲。 - First Day of My Life by Bright Eyes
不器用な愛情と人生の再出発を歌う、感情の揺らぎに満ちたバラード。 - New Slang by The Shins
青春とアイデンティティをめぐる内省的な名曲。歌詞の距離感がデマルコと近い。 -
Drunk Drivers/Killer Whales by Car Seat Headrest
無鉄砲な若者の視点から社会と自己を見つめた、知的で衝動的なロック。
6. “ゆるさ”のなかにある誠実さ——マック・デマルコ流の家族愛
「Freaking Out the Neighborhood」は、マック・デマルコというアーティストの人間性を端的に表す楽曲である。ふざけているようで誠実、軽そうで重いことを言っている。彼の音楽における“ゆるさ”とは、単なる無関心ではなく、むしろ肩肘張らずに本音を語るためのスタイルなのだ。
親に謝るというテーマは、普通であれば説教臭くなったり、感情的になりがちだが、この曲ではそれをあえてサーフロック調の軽快なビートに乗せることで、逆にメッセージが鮮明になる。「ちょっとはみ出してるけど、僕は僕だよ。気にしないで」という開き直りは、押し付けがましさのない優しさとして響いてくる。
つまり、「Freaking Out the Neighborhood」は、“ゆるく生きること”の肯定であり、同時に“愛されること”の不器用な表現なのだ。そのバランス感覚こそが、マック・デマルコというアーティストの真骨頂である。
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