
発売日: 2022年1月14日
ジャンル: インディーロック、オルタナティブロック、ポストパンク
- 世界を変えようとする前に、自分を見つめ直せ——The Wombatsの円熟した5thアルバム
- 全曲レビュー
- 1. Flip Me Upside Down
- 2. This Car Drives All by Itself
- 3. If You Ever Leave, I’m Coming With You
- 4. Ready for the High
- 5. Method to the Madness
- 6. People Don’t Change People, Time Does
- 7. Everything I Love Is Going to Die
- 8. Work Is Easy, Life Is Hard
- 9. Wildfire
- 10. Don’t Poke the Bear
- 11. Worry
- 12. Fix Yourself, Not the World
- 総評
- おすすめアルバム
世界を変えようとする前に、自分を見つめ直せ——The Wombatsの円熟した5thアルバム
The Wombats の5作目となる Fix Yourself, Not the World は、これまでのインディーポップ的な軽快さと、より成熟した視点を組み合わせた作品 であり、バンドとしての進化を見せつけたアルバムとなっている。
タイトルからもわかるように、本作では 「世界の問題を変えようとする前に、自分自身を変えよう」 というテーマが強く打ち出されており、これまでのThe Wombatsの作品に見られたユーモラスで皮肉の効いた歌詞に加え、自己反省や社会的な混乱に対する深い視点が加えられている。
また、本作の制作はメンバーが別々の場所にいながらリモートで進められたという異例のプロセスを経ており、その影響が楽曲のサウンドや構成にも反映されている。ロックのエネルギーを残しつつも、ポストパンク的な要素や、エレクトロニックなアレンジも巧みに取り入れ、過去作と比べてより洗練された印象 を持つ作品となっている。
全曲レビュー
1. Flip Me Upside Down
アルバムのオープニングを飾る、パンキッシュな勢いのある楽曲。混沌とした世界の中での自己崩壊と再生をテーマにし、サウンドの勢いと歌詞のダークさが絶妙に融合している。
2. This Car Drives All by Itself
シンセサウンドとグルーヴィーなベースが特徴的なナンバー。「人生は自動運転の車のようなもの」というメタファーを使い、自分の人生のコントロールを失っていく感覚を描いている。
3. If You Ever Leave, I’m Coming With You
キャッチーなギターフックが印象的な、The Wombatsらしいポップな一曲。恋愛の執着心をテーマにした楽曲で、エネルギッシュなビートとメロディの中に、少しの不安や皮肉が混じっている。
4. Ready for the High
サイケデリックな要素を取り入れた異色の楽曲。浮遊感のあるメロディと、ドラマチックな展開が印象的。心の不安定さや、現実逃避の衝動を描いた歌詞が秀逸。
5. Method to the Madness
ミニマルなピアノのイントロから始まり、徐々に壮大なアレンジへと展開していく曲。アルバムの中でも特にエモーショナルな一曲で、「世界がどう変わっても、自分には自分なりのやり方がある」というメッセージが込められている。
6. People Don’t Change People, Time Does
ファンキーなリズムとダンサブルなギターが特徴的なナンバー。人が変わるのは他人の影響ではなく、時間の流れによるものだという皮肉な視点を持つ歌詞が印象的。
7. Everything I Love Is Going to Die
アルバムの中でも最もキャッチーでアンセミックな楽曲。人生の儚さを軽快なメロディで描くという、The Wombatsらしいコントラストが際立つ一曲。
8. Work Is Easy, Life Is Hard
ギターのカッティングとシンセの組み合わせが印象的な楽曲。「仕事はシンプルだが、生きることは複雑だ」というテーマが現代社会の矛盾をうまく表現している。
9. Wildfire
80年代ニューウェーブの影響を感じさせる、シンセポップ的なアプローチが光る楽曲。リズミカルなベースラインが特徴で、シンプルながらも中毒性が高い。
10. Don’t Poke the Bear
ポストパンク的なアグレッシブなサウンドが際立つ楽曲。タイトル通り、「不用意に問題を掘り返すな」という皮肉めいたメッセージが込められている。
11. Worry
アルバムの中で最もシリアスなトーンを持つ楽曲。「心配してもどうにもならないこと」をテーマにした、少し諦めにも似た視点を持つ歌詞が印象的。
12. Fix Yourself, Not the World
タイトルにもなっている楽曲で、アルバムの締めくくりにふさわしいナンバー。個人がまず自分を整えることが、世界を良くすることにつながるというメッセージが込められた、希望を感じさせるフィナーレ。
総評
Fix Yourself, Not the World は、The Wombats にとって 最も洗練されたアルバムのひとつ であり、過去のエネルギッシュなインディーロックから、より深みのあるサウンドと歌詞を備えた作品へと進化を遂げた。
本作では、バンドの持ち味であるキャッチーなメロディとダンサブルなビートは維持しつつも、よりポストパンク的な要素や、エレクトロニックなアレンジを取り入れ、サウンドの幅を広げている。
また、歌詞に関しても、これまでの恋愛やパーティーのテーマから一歩踏み出し、現代社会の混乱や、自己探求、人生の不条理といった、より大人びた視点が取り入れられている点が特徴的 だ。
おすすめのリスナー:
- これまでの The Wombats の作品を楽しんできた人
- Arctic Monkeys の Tranquility Base Hotel & Casino や、The Killers の Pressure Machine のような、成熟したインディーロックを求める人
- ポストパンク的なサウンドや、より深みのある歌詞を持つインディーロックが好きな人
おすすめアルバム
1. Foals – Everything Not Saved Will Be Lost Part 1 (2019)
エレクトロニックな要素を取り入れつつも、ロックのエネルギーを維持した作品。
2. The Killers – Pressure Machine (2021)
よりシリアスな視点を持つ歌詞と、洗練されたサウンドが共通している。
3. Interpol – Marauder (2018)
ポストパンクの影響が強く、The Wombats の新たなサウンドと相性が良い。
Fix Yourself, Not the World は、The Wombats のキャリアの中で最も思想的なアルバム であり、彼らの進化を感じさせる作品だ。
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