アルバムレビュー：Fan the Flame (Part 1) by Dead or Alive

発売日: 1990年12月13日（日本限定）
ジャンル: ユーロビート、ハイエナジー、ダンス・ポップ

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
- 関連記事:

概要

『Fan the Flame (Part 1)』は、Dead or Aliveが1990年にリリースした5枚目のスタジオ・アルバムであり、日本限定で発売された非常に特異な作品である。
バンドの人気が世界的にやや下降する一方、日本では『Youthquake』から続くダンス・ポップ路線が根強い支持を受けており、結果的にこのアルバムは“日本市場に最適化されたDead or Alive”の極致とも言える内容に仕上がっている。

プロデュースはピート・バーンズとスティーヴ・コイによって手がけられ、前作『Nude』の華やかで高速なユーロビート路線を継承しつつ、よりドラマティックでシンフォニックな展開を見せている。
また、当時のヴィジュアルもゴシック的、バロック的様式美を強めており、“音のシアター”としての側面がさらに強調された作品となっている。

リリース当時は海外展開されず、日本でのみ熱烈なファンベースを得て、現在では“知る人ぞ知る幻の名盤”として世界的にも再評価されつつある。

全曲レビュー

1. Fan the Flame

アルバムの冒頭を飾るタイトル曲で、劇的な構成と重厚なビートが印象的な一曲。
“炎をあおれ”という言葉通り、情熱や欲望、自己表現の解放がテーマになっており、ピート・バーンズのヴォーカルも非常に感情的。
サビの盛り上がりはクラブミュージックというより、もはやオペラ的。

2. Unhappy Birthday

リリース当時の代表曲であり、ポップなメロディと毒のあるリリックが対比をなす。
“誕生日おめでとう、でも幸せにはなれないわね”というブラックユーモアが効いており、バーンズのウィットと復讐心が詩に昇華されている。
ミッドテンポながらもグルーヴィーで中毒性が高い。

3. Gone 2 Long

切ないラブバラードで、愛を失った痛みと回帰願望がテーマ。
ヴォーカルは柔らかく、内省的で、従来のダンス中心のアプローチとは異なる“静の美学”が前面に出ている。
ピアノやストリングスが加わり、シンフォニックな装いを持つ。

4. Total Stranger

高速のビートとシャープなリズムが際立つハイエナジー・トラック。
“まるで知らない人みたい”という歌詞が、関係の崩壊や冷却を象徴しており、メロディはあくまでキャッチーだが、内容は辛辣。
当時の日本ディスコでも人気を博したクラブ対応曲。

5. Lucky Day

アルバムの中では比較的明るくポジティブなナンバー。
“今日は運命の日”というリリックが、運命論的でありながら祝祭的でもある。
サウンド的にはユーロビートの王道を行き、耳に残るコーラスが魅力的。

6. What Have U Done (2 Make Me Change)

恋愛における裏切りや変化の痛みを歌った、強く感情をこめたミッドテンポ・バラード。
“あなたのせいで私は変わってしまった”という悲痛な叫びを、サウンドは冷たくも美しく包み込む。
バーンズの表現力の深さが際立つトラック。

7. And Then I Met U

出会いによる感情の転換をテーマにしたダンス・チューン。
イントロから流れるようなメロディが展開され、感情の浮遊感と高揚がうまく描かれている。
後半に向けての盛り上がりが、まるで舞台のクライマックスのよう。

8. Blue Christmas

エルヴィス・プレスリーの名曲を、Dead or Alive流にカバー。
ハイエナジー調ながらも、原曲の哀愁を壊さず、どこか冷たく気高い雰囲気に仕上げている。
バーンズのゴシックなヴォーカルが新しい解釈を加えている。

総評

『Fan the Flame (Part 1)』は、Dead or Aliveがユーロビートというジャンルを自分たちの美学と融合させ、独自の“バロック・ダンス・ポップ”とも言える様式へと昇華させたアルバムである。
ここにはクラブ・ミュージックの即効性も、ポップスの親しみやすさもあるが、それ以上に強いのは“舞台芸術的な構成力”と“ピート・バーンズという唯一無二の表現者”の存在感である。

全体的には踊れる作品でありながら、感情の振幅が激しく、哀しみ、怒り、喜びが極端にデフォルメされている点が特徴的。
また、SAWとの決別を経て自らの制作チームで臨んだ本作は、アーティストとしての自立を示すと同時に、Dead or Aliveがどこまでも“他者に収まらない”存在であることを証明している。

『Fan the Flame (Part 1)』は、商業主義を離れた“純粋なDead or Alive”が最も濃密に刻まれた一枚であり、まさに熱狂的ファンの間で語り継がれるべき“炎の記録”なのである。