1. 歌詞の概要
「Falling Off the Edge of the World」は、ブラック・サバスのアルバム『Mob Rules』（1981年）に収録された楽曲である。ロニー・ジェイムズ・ディオ期のサバスを象徴するダークで壮大な世界観を持ち、静謐なイントロから激しい疾走パートへと展開する劇的な構成が特徴的である。歌詞のテーマは孤独と絶望、そして世界から切り離されるような感覚であり、タイトルが示すように「世界の果てから落ちていく」という比喩によって、社会や人生からの断絶感が描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
本作が制作された1981年当時、ブラック・サバスはオジー・オズボーンの脱退を経て、ロニー・ジェイムズ・ディオを迎えた新時代を歩んでいた。『Heaven and Hell』（1980年）で復活を遂げた彼らは、続く『Mob Rules』においてさらに攻撃的で重厚なサウンドを展開する。その中でも「Falling Off the Edge of the World」は、叙事詩的な要素を強く含み、ディオのリリカルな表現力とトニー・アイオミのギターリフが見事に結びついた楽曲となっている。
アルバムの制作にはマーティン・バーチがプロデューサーとして関わっており、ディープ・パープルやレインボーで培った手腕がサウンドに反映されている。荘厳で暗黒的なイントロから疾走するヘヴィメタルに移り変わるダイナミズムは、当時のサバスが持つ新たな創造力を示すものである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（引用元: Black Sabbath – Falling Off the Edge of the World Lyrics | Genius）
I think about closing the door
扉を閉ざすことを考えている
And lately I think of it more
最近はその思いが強くなっている
I’m living well out of my time
私は自分の時代から外れ、取り残されて生きている
I feel like I’m losing my mind
心を失っていくような感覚に囚われている
この部分は、まさに「世界から切り離された孤独」を端的に描いている。時代に取り残された者の焦燥と、精神の崩壊への恐怖が、静かな言葉の中ににじみ出ている。
4. 歌詞の考察
「Falling Off the Edge of the World」は、ディオの作詞らしい寓話的表現を通して、深い絶望と孤立を描いている。主人公は「自分の時代から外れている」と感じ、世界とのつながりを失い、やがて「世界の果てから落ちていく」運命にあると歌う。これは単に個人的な孤独を表現したものではなく、社会全体から疎外される感覚や、人間存在の儚さを象徴しているとも解釈できる。
また、曲構成における緩急は、歌詞の心理描写と密接にリンクしている。冒頭の静かなアルペジオは孤独と内省を象徴し、そこから爆発するように展開するリフと疾走感は、精神の崩壊や現実からの断絶を音で表現しているように思える。ディオの力強くも悲痛な歌唱は、まるで孤独の底から叫び声を上げているかのようであり、聴き手を強烈に引き込む。
この楽曲は「Symptom of the Universe」や「Heaven and Hell」に通じるスケール感を持ちつつ、さらにディオ特有のドラマティックな叙情性が融合した作品といえる。ブラック・サバスが単なるリフ主体のヘヴィメタルから、より物語的で感情的な領域に進化していたことを示す重要な一曲である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Lonely Is the Word by Black Sabbath
『Heaven and Hell』収録。孤独をテーマにしたディオ期の代表的バラード。 - Children of the Sea by Black Sabbath
叙事詩的な展開を持つ名曲で、静と動の対比が「Falling Off the Edge of the World」と響き合う。 - Stargazer by Rainbow
ディオ在籍時の代表曲。壮大な物語性と劇的な展開は本曲と共通する。 - Beyond the Realms of Death by Judas Priest
孤独と死をテーマにした大作で、リリカルなメタルの真髄を体感できる。
6. 孤独の叙事詩としての意味
「Falling Off the Edge of the World」は、『Mob Rules』において最も内面的で叙情的な楽曲の一つであり、ディオの詞世界の核心に迫るナンバーである。壮大なサウンドの中で描かれるのは、社会や時代から切り離される恐怖、そして自分の存在が世界から零れ落ちていくような孤独である。
その歌詞と音楽が織り成す緊張感は、聴き手に「孤独とは何か」「世界に取り残されるとはどういうことか」を突きつける。ディオの歌声がまるで預言者のように響き渡り、アイオミのギターが深淵の渦を描くことで、この曲は単なるメタルソングを超えた叙事詩として成立しているのだ。
40年以上経った今でも「Falling Off the Edge of the World」は、孤独と断絶の感覚を極限まで研ぎ澄ました作品として、多くのリスナーの胸を揺さぶり続けている。
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