発売日: 1986年8月25日
ジャンル: AOR / ロック / ファンク
「Fahrenheit」は、Totoの6枚目のスタジオアルバムで、1980年代中期の洗練されたAORサウンドを体現した作品だ。このアルバムでは、スティーブ・ルカサーがボーカルの中心を担い、新メンバーであるジョセフ・ウィリアムズ(John Williamsの息子)が初めて正式なリードボーカリストとして参加している。洗練されたプロダクションと、ソウルフルなヴォーカルアプローチが際立ち、バンドの音楽的な進化を示す一枚となっている。
本作は、彼らの伝統的なAORサウンドを維持しつつ、ジャズ、R&B、ファンクの要素を積極的に取り入れた意欲作だ。特に、「I’ll Be Over You」のようなバラードはTotoの柔らかい一面を示し、「Till the End」や「Without Your Love」ではファンクやソウルの影響が強調されている。歌詞では愛、別れ、再生といった普遍的なテーマが取り上げられ、80年代後半の都会的な音楽シーンにマッチした内容になっている。
各トラック解説
1. Till the End
ファンキーなベースラインとスムーズなサックスソロが際立つアルバムオープナー。ジョセフ・ウィリアムズの力強いボーカルが曲を引き立てており、歌詞では恋愛に対する誓いと情熱が歌われている。
2. We Can Make It Tonight
アップテンポでキャッチーなナンバー。軽快なリズムとシンセサウンドが特徴で、歌詞は愛が困難を乗り越える力を持つというポジティブなメッセージを伝えている。
3. Without Your Love
シンプルながらも感情的なバラードで、スティーブ・ルカサーがボーカルを務める。歌詞は、失恋の痛みと、失った愛への後悔を描いている。「Without your love, where would I be?」というラインが、孤独感と喪失の深さを際立たせる。
4. Can You Hear What I’m Saying
R&Bやソウルの影響が強いトラック。ジョセフ・ウィリアムズのボーカルが曲に感情的な深みを加え、メッセージ性の強い歌詞が印象に残る。
5. Fahrenheit
タイトル曲で、アルバムの中でも特にエネルギッシュなトラック。熱気と情熱をテーマにした歌詞と、ファンキーなリズムセクションがリスナーを引き込む。
6. Somewhere Tonight
メロウな雰囲気が漂う一曲。ピアノとサックスのアンサンブルがジャズの要素を強調しており、夜の静けさを想起させる。
7. Could This Be Love
切ないバラードで、スティーブ・ルカサーのボーカルが再び際立つ。愛の疑問と期待をテーマにした歌詞が、ロマンティックなトーンを強調している。
8. Lea
デヴィッド・ペイチによる美しいバラードで、アルバムの中でも特に感情的なトラック。愛する人への純粋な感謝と敬意を歌った歌詞が、ピアノとストリングスのアレンジでさらに際立つ。
9. I’ll Be Over You
アルバムの最大のヒット曲で、Totoの代表的なバラードのひとつ。愛の喪失とその後の再生をテーマにした歌詞が心に響く。マイケル・マクドナルドのバックボーカルが楽曲にさらなる深みを加えており、スティーブ・ルカサーのギターソロも繊細で美しい。
10. Don’t Stop Me Now
インストゥルメンタルトラックで、ジャズとロックの要素が融合したダイナミックな一曲。サックスとギターが交互にソロを繰り広げ、アルバムをエネルギッシュに締めくくる。
アルバム総評
「Fahrenheit」は、Totoの音楽的幅広さと進化を示した一枚だ。新メンバーであるジョセフ・ウィリアムズの加入により、ボーカルスタイルがさらに洗練され、ソウルフルで都会的なAORサウンドが強調されている。また、愛や喪失をテーマにしたバラード「I’ll Be Over You」や「Lea」は、Totoの柔らかい一面を見せる名曲として今もなお愛され続けている。ポップとジャズ、R&Bの要素が見事に融合し、80年代中期のAORサウンドの成熟を体現したアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Chicago 17 by Chicago
AORとポップスの要素を融合したアルバムで、「Fahrenheit」と同様にソウルフルな楽曲が多い。
No Jacket Required by Phil Collins
都会的なポップロックアルバムで、愛や感情的なテーマを持つバラードが共通する。
Silk Degrees by Boz Scaggs
Totoメンバーも制作に参加したアルバムで、スムーズなR&Bやポップスが楽しめる。
An Innocent Man by Billy Joel
ポップとジャズの影響を受けた作品で、「Fahrenheit」の洗練された雰囲気に近い。
Brothers in Arms by Dire Straits
緻密なプロダクションと感情的なギターワークが特徴で、Totoのファンに響く内容。
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