アルバムレビュー：Dream Soldier by Des’ree

アルバムレビュー

2025.06.12

発売日: 2003年3月31日（UK）
ジャンル: ソウル、ネオ・ソウル、アコースティック・ポップ、スピリチュアルR&B

概要

『Dream Soldier』は、イギリスのシンガーソングライター Des’ree（デズリー） が2003年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバムであり、
“魂の旅路”を静かに、しかし確かに描き切ったスピリチュアル・ソウルの終着点とも言える作品である。

前作『Supernatural』（1998）から5年ぶりに発表された本作は、
過去のヒットやポジティブ・アンセム的な印象から一線を画し、より内省的で、詩的で、少し影を帯びた音楽世界が広がっている。

商業的には成功とは言えず、リリースから間もなくレコード契約が終了。
以後、Des’reeは長らく表舞台から姿を消すこととなったが、
その背景にあるのは、“音楽とは何か”“言葉を届けるとは何か”という本質的な問いに真摯に向き合った結果の静けさだったとも解釈できる。

『Dream Soldier』というタイトルには、
「夢を見ることをあきらめない兵士」「心の平和のために戦う存在」という意味が込められており、
それはまさに、表現者としてのDes’ree自身を象徴する言葉である。

1. Human
アルバム冒頭を飾るミッドテンポの哲学的ポップ。
“私はただの人間、それでも信じる”という繊細な信仰が込められた、自己認識のテーマソング。
優しいピアノとストリングスが、語るようなボーカルを支える。

2. It’s Okay
誰かにそっと寄り添うようなトーンのバラード。
“不完全なままでいい”というメッセージが、心を緩めてくれる。

3. Righteous Night
夜の静けさと信仰心をテーマにしたスピリチュアル・ソウル。
Des’reeらしい“目に見えないものへの語りかけ”が続く、祈りに似た作品。

4. Cool Morning
朝の始まりを描いた、穏やかなギター・ポップ。
自然との調和、心の再生を感じさせるナンバーで、空間系のアレンジが美しい。

5. Dream Soldier
タイトル曲。戦いと再生、犠牲と希望を静かに交錯させた壮大なスローバラード。
「私は夢の中で戦う兵士」と繰り返されるラインが、内なる勇気を喚起する。

6. Why?
社会の矛盾や不平等に疑問を投げかける社会派ソング。
ピアノの単音から始まるアレンジが緊張感を生み、言葉の強さを引き立てる。

7. Doesn’t Matter
失恋や別れを“意味のないことなんてない”と肯定する静かなバラッド。
このトラックでも“語りかけるような歌唱”が、聴く者の心にそっと触れる。

8. Time
時間と記憶の交錯を描いた抽象的で詩的な一曲。
繊細なシンセサイザーと余白の多い構成が、“記憶の中を漂う感覚”を再現する。

9. Hello Friend
かつての友人に語りかけるような暖かなナンバー。
再会、和解、懐かしさといった感情がシンプルなメロディに滲む。

10. Angels
亡き人への祈りのような終曲。
アルバム全体を包み込むように、天上のコーラスと共に“あなたは今も私の中にいる”と歌う。

『Dream Soldier』は、Des’reeが音楽と人生の意味をひとつに織り上げようとした“沈黙に近い表現”の極致であり、
メディアやマーケットが求める派手さとは正反対の、“語りかける声”だけで成立する作品である。

その静けさの中にあるのは、痛み、赦し、再生、信仰、そして生きるという選択。
それはリスナーに語りかけるというよりも、一緒に呼吸を整えるような共感の音楽だ。

このアルバムが商業的に埋もれてしまったことは、
裏を返せば“最も純粋にDes’reeらしい作品”だったとも言える。

『Dream Soldier』のあと、Des’reeは長らく公の場に姿を見せなくなり、
次のアルバム『A Love Story』が発表されるのは、実に16年後の2019年である。

その長い沈黙もまた、“音楽が必要なときだけ歌う”という彼女の姿勢を物語っている。
『Dream Soldier』は、そんな彼女の“心の砦”であり、“静かなる出征の記録”でもあった。