発売日: 2012年11月9日
ジャンル: ガレージロック、パンクロック、パワーポップ、サーフロック
概要
『¡Dos!』は、Green Dayが2012年に発表した三部作『¡Uno!』『¡Dos!』『¡Tré!』の第2弾であり、“無軌道な夜”と“酔いどれの衝動”をテーマにした、最も荒々しく猥雑な作品である。
前作『¡Uno!』が“ポップで王道なGreen Day”だったのに対し、本作は彼らのガレージ・パンク的な側面を解放した、最もローファイで反社会的な1枚だ。
『American Idiot』や『21st Century Breakdown』での構成美はここにはない。あるのは、酒と女と退廃とジョークだけである。
このアルバムは、Green Dayのサイドプロジェクト「Foxboro Hot Tubs」の延長線上とも言われ、
ロックンロール、サーフ、ブギー、スカ、70年代パンクといった雑多なスタイルの猥雑な融合が特徴。
しかし、その混沌の中にも、彼らが青春期からずっと持ち続けてきた“どうしようもなさと愛おしさ”がにじんでおり、
**“Green Day流・酩酊と崩壊の美学”**として、三部作の中で最もカルト的な支持を集めている。
全曲レビュー
1. See You Tonight
まるでビートルズのアウトテイクのような、1分弱のアコースティック・プロローグ。
この後に続くカオスな夜を予感させる、静けさとユーモアの序章。
2. Fuck Time
Foxboro Hot Tubsからの再録で、本作の狂騒を象徴するセックスアンセム。
「ファック・タイム!」というフレーズを連呼するだけの曲だが、その馬鹿さ加減が本作の美学を体現。
3. Stop When the Red Lights Flash
タフなリフと妖艶なムードのミドルテンポロック。
支配欲と暴力性がテーマで、ダーティで倒錯的な夜の香りがする。
4. Lazy Bones
疲労、焦燥、抑うつをテーマにしたダウナーな楽曲。
三部作の中でも内省的な1曲で、「目覚めたくない」というリフレインが、日常と虚無を見つめる。
5. Wild One
破滅的な恋愛を、スロウでメランコリックなメロディに乗せて歌う。
バッドガール賛歌のようでいて、実は繊細な失恋の記録。
6. Makeout Party
タイトル通りのバカ騒ぎパーティ・ソング。
グラムロックとストゥージズ的衝動が融合した、意図的に浅く作られた名曲。
7. Stray Heart
三部作中最もポップでチャーミングな曲。
「迷子の心臓」という比喩が効いており、The JamやElvis Costelloに通じるモッズポップの系譜。
8. Ashley
女性の名前を冠した疾走パンク。
復讐、怒り、愛憎の入り混じった短距離走のような曲で、『Insomniac』の頃の凶暴さが一瞬戻る。
9. Baby Eyes
ラモーンズ直系のスリーコードパンク。
子供のような無垢な眼差しと、壊れた大人の対比が生々しい。
10. Lady Cobra
実在のパンク・パフォーマーLady Cobraに捧げた変則ナンバー。
ラップ、スカ、サイケをミックスし、クラブカルチャーとパンクの融合実験として異彩を放つ。
11. Nightlife(feat. Lady Cobra)
トリップホップ風のビートとスポークンワードが絡む異端曲。
三部作中、最も分裂的で賛否両論を呼んだ問題作。アングラ感覚とナイトクラブの毒気を全面に。
12. Wow! That’s Loud
アイロニカルなタイトルとは裏腹に、構成はしっかりしている。
ノイジーでガレージロック然とした一曲で、The HivesやThe Strokes以降のガレージリバイバルに通じる感覚。
13. Amy
三部作の中でもっとも静かで美しいクロージング。
亡きAmy Winehouseへの追悼歌であり、混沌の夜が明ける瞬間の静けさと哀しみがここにある。
総評
『¡Dos!』は、Green Dayが自らの“下品さ・若さ・混沌”を全面的に解放した夜の記録である。
一聴すれば、そこにはコンセプト性も構成美もないように見える。
だが、**これは意図的な“崩壊の美学”**であり、Green Dayがこれまで触れられなかった音楽性──
ガレージ、グラム、サーフ、トラッシュ、ストリートアート的感覚を総動員した、最も“ロックンロール”な1枚なのである。
正統派のGreen Dayを求める人には混乱を与えるだろう。
だがこのアルバムを夜中に一人で通して聴いた時、あなたはきっと**Green Dayというバンドの“まだ終わっていない青春”**を感じるはずだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Foxboro Hot Tubs / Stop Drop and Roll!!!
まさに『¡Dos!』の前身。Green Dayのガレージロック衝動の源泉。 - Iggy & The Stooges / Raw Power
退廃、セックス、爆発的ローファイの究極系。『Fuck Time』に通じる衝動。 - The Hives / Tyrannosaurus Hives
タイトで攻撃的なガレージパンク。『Ashley』や『Wow! That’s Loud』の兄弟作のよう。 - The Libertines / Up the Bracket
混乱と詩情が同居するアルバム。Green Dayの崩壊美と交差する。 -
Amy Winehouse / Back to Black
『Amy』の背景として不可欠な一枚。ソウルフルな破滅と繊細さ。
制作の裏側
『¡Dos!』は、カリフォルニアのスタジオで2012年初頭にまとめて録音された三部作の中核として位置づけられており、
バンドは意図的に**“夜のアルバム”をテーマに据えた**。
そのため、ジャムセッション的なアプローチや、サイドプロジェクトで試したアイデアが多く採用されている。
アルバムジャケットは、ベーシストのマイク・ダーントのポートレート。
背景のピンクと黒が、本作の毒気とポップの奇妙な融合を象徴している。
『¡Dos!』は、**パンクロックの形を借りた“酩酊状態の自己告白”**である。
それは恥ずかしくて、間違いだらけで、でもなぜか一番リアルな瞬間を焼き付けている。
Green Dayが一度“馬鹿”に戻ることで、自分たちのルーツと未来を同時に掘り起こした作品なのだ。
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