発売日: 2023年
ジャンル: エレクトロポップ、インディートロニカ、エクスペリメンタルポップ
成熟したDIYエレクトロポップの到達点——White Townの最新アルバム
イギリスのインディーポッププロジェクト White Town（Jyoti Mishra） による2023年リリースのアルバム Deemab は、彼の長年のDIY精神を受け継ぎつつも、新たな音楽的挑戦を試みた作品 となっている。
1997年の「Your Woman」の大ヒット以降、White Town は商業的な成功よりも、独立したアーティストとしての表現を追求する道を歩み続けてきた。本作もその流れを汲みながら、シンセポップ、インディーロック、フォーク、エレクトロニカといった要素を自由に組み合わせ、シンプルながらも奥行きのあるサウンドを作り上げている。
また、アルバムタイトル Deemab はヒンディー語で「知性」や「理性」を意味し、社会的な問題意識や哲学的なテーマを織り交ぜた歌詞が特徴的 である。
全曲レビュー
1. The Logic of You
アルバムのオープニングを飾るミニマルなエレクトロポップ。シンプルなビートとシンセが心地よく、理性と感情の狭間を描いた歌詞 が印象的。
2. Robot Romance
機械的なビートと80年代風のシンセが融合した楽曲。「愛とはプログラムなのか？」という問いを投げかけるSF的な視点がユニーク。
3. If Only I Could Sleep
アコースティックギターとエレクトロニカを組み合わせたフォークポップ寄りの楽曲。不眠症や心の葛藤をテーマにした内省的な歌詞 が胸に響く。
4. Your Ghost, My Machine
White Town の過去作品を思わせるローファイなエレクトロポップ。失われた愛をデジタルな記録として保存することの意味 を問う哲学的な楽曲。
5. Deemab
タイトル曲。シンプルなピアノの旋律とエレクトロニックなサウンドスケープが広がる。知性と感情のバランスを探る詩的な歌詞が特徴。
6. Plastic Heart
ダンサブルなリズムを持つ楽曲で、シンセポップの影響が強い。偽りの感情や社会の表面的な関係性を皮肉る歌詞 が印象的。
7. The Infinite Sadness of Being Online
タイトル通り、インターネット時代の孤独と矛盾をテーマにした楽曲。シンセの浮遊感と切ないメロディが絶妙にマッチしている。
8. Interference Patterns
ポストパンク的なギターとエレクトロニカが融合した楽曲。社会やメディアの情報操作をテーマにした歌詞 が際立つ。
9. Falling Into Pixels
シンセのアルペジオが美しいエクスペリメンタルな楽曲。デジタル時代における自己の崩壊を表現したコンセプチュアルな作品。
10. Tomorrow’s Ruins
アルバムのラストを飾る、静かでメランコリックなバラード。未来への希望と絶望が交錯する歌詞 が、ピアノの旋律と共に胸を締めつける。
総評
Deemab は、White Town のキャリアの中でも最もコンセプチュアルな作品のひとつであり、エレクトロポップの枠を超え、フォークやポストパンク的な要素も取り入れた多面的なアルバム となっている。
特に、「Robot Romance」や「Your Ghost, My Machine」のようなテクノロジーと愛の関係を描いた楽曲や、「The Infinite Sadness of Being Online」のようにデジタル時代の孤独を表現した楽曲など、現代社会を鋭く批評する視点を持つ楽曲が際立っている。
また、サウンド面ではローファイなエレクトロポップを基調としながらも、シンセの使い方に進化が見られ、ミニマルで洗練されたアレンジが特徴的 である。
おすすめのリスナー:
- White Town のインディーエレクトロポップの進化を楽しみたい人
- ミニマルで哲学的なエレクトロニカが好きな人
- テクノロジーと社会の関係をテーマにした音楽に興味がある人
おすすめアルバム
1. The Notwist – Vertigo Days (2021)
エレクトロニカとポストパンクを融合させた、White Town のサウンドと近い作品。
2. Oneohtrix Point Never – Age Of (2018)
デジタル時代のアイデンティティをテーマにした実験的なエレクトロポップ。
3. Pet Shop Boys – Hotspot (2020)
テクノロジーと社会をテーマにした洗練されたシンセポップ作品。
4. Stereolab – Mars Audiac Quintet (1994)
ミニマルで哲学的なエレクトロポップを楽しめるアルバム。
5. Radiohead – A Moon Shaped Pool (2016)
電子音とアコースティックの融合、メランコリックな雰囲気が本作と共鳴する。
Deemab は、White Town の音楽的進化を象徴するアルバムであり、シンプルながらも深いテーマを持つ楽曲が並ぶ作品。現代社会の問題やデジタル時代の孤独を鋭く描きつつ、DIYエレクトロポップの美しさを最大限に引き出した一枚 となっている。
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