発売日: 1987年8月31日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ノイズポップ
The Jesus and Mary Chainの2作目となるアルバム『Darklands』は、デビュー作『Psychocandy』の激しいノイズに対する一種のアンチテーゼともいえる作品だ。前作で象徴的だったフィードバックや轟音の壁を控え、彼らはよりメロディアスで、ダークでありながらも静かな美しさを持つサウンドへとシフトした。この変化により、音楽の持つ感情表現がさらに深まっている。リード兄弟は内面的な葛藤や愛憎の念を描きながらも、シンプルで透明感のあるアプローチでその心情を響かせる。この変貌は、彼らの多面的な音楽性を示し、リスナーに別の角度からの感動をもたらす。
『Darklands』は、1980年代の陰鬱な空気感と憂いを帯びたロックの美学が見事に表現された作品で、バンドの成長と新たな方向性が感じられる。冷ややかなボーカル、控えめなノイズ、そしてどこか哀愁を漂わせるメロディラインが特徴的で、聴き手に深い余韻を残す一作となっている。
トラック解説
1. Darklands
アルバムのタイトル曲であり、しっとりとしたギターとどこか悲しげなメロディが印象的だ。歌詞には内面的な苦悩と葛藤が描かれ、ジム・リードの淡々としたボーカルがその重みを強調している。「暗い土地」というタイトルの通り、心の奥に潜む暗闇を覗き込むような感覚が得られる。
2. Deep One Perfect Morning
穏やかなギターとシンプルなドラムが美しいハーモニーを奏でる一曲。歌詞はまるで夜明けの静けさの中で見出される希望と失望の両方を表現しており、リスナーを穏やかな気持ちにさせつつもどこか切なさが漂う。
3. Happy When It Rains
キャッチーなメロディと軽快なリズムが特徴的で、アルバム中でもポップな要素が強い楽曲。タイトルが示すように、「雨の中での幸福」を歌っており、どこか皮肉めいたポジティブさが感じられる。ジムのボーカルがメロディと見事に調和し、耳に残る一曲だ。
4. Down on Me
重厚なギターと、ゆっくりとしたリズムが織り成す暗い雰囲気が印象的。歌詞には自己破壊的な衝動と孤独が滲み出ており、ジムの冷静なボーカルがそれを一層際立たせている。深い孤独感が漂い、聴き手を内省的な気持ちにさせる。
5. Nine Million Rainy Days
この曲もまた、憂いを帯びたギターが前面に出ており、終始メランコリックなムードが漂う。雨の日の終わりなき憂鬱と心の中の葛藤が表現され、ノイズが抑えられている分、メロディの美しさが際立っている。ジムの歌声が心に沁みるように響く。
6. April Skies
明るいギターリフが印象的で、アルバムの中でも比較的軽快な曲調。切ない歌詞とポップなメロディが交錯し、「失ったものへの思い」が描かれている。彼ら特有の暗いテーマがありながらも、どこか解放感も感じさせる一曲だ。
7. Fall
アルバムの中でも特にシンプルな構成だが、深いメッセージ性を持つ。淡々としたギターが繰り返され、歌詞は落ち込んだ心情を映し出している。暗闇の中で迷うような孤独感が漂い、聴き手に哀愁を感じさせる楽曲だ。
8. Cherry Came Too
ポップなメロディとリズミカルなギターが心地よい一曲。歌詞には淡い恋心や切なさが込められており、ノスタルジックな雰囲気が漂う。アルバム全体の暗さの中に一瞬の甘さをもたらし、印象的なアクセントになっている。
9. On the Wall
ノイズが控えめながらも重厚なサウンドが特徴で、独特の緊張感があるトラック。リズムがゆっくりと展開しながら、ジムのボーカルが暗く物憂げに響く。内面的な葛藤や苦悩が描かれ、曲全体が重々しい空気感を漂わせている。
10. About You
アルバムのラストを飾るこの曲は、静かで柔らかなメロディが心地よく、どこか儚さを感じさせる。歌詞には、個人の心情に寄り添うようなメッセージが込められており、アルバム全体のテーマを総括するような雰囲気がある。切なくも優しい余韻を残す一曲。
アルバム総評
『Darklands』は、The Jesus and Mary Chainが『Psychocandy』の荒々しいノイズポップから一歩離れ、よりメロディアスで内省的なスタイルへと転換した作品である。冷たくもどこか心に染み入るような音楽性が、リスナーに深い感情の旅をもたらす。暗闇の中に浮かび上がる美しさと哀愁が特徴であり、普遍的なテーマをシンプルなメロディに落とし込むことで、時代を超えて愛される作品に仕上がっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Seventeen Seconds by The Cure
シンプルでミニマルなサウンドと、冷たい感情表現が特徴。『Darklands』と同じく、陰鬱で美しいメロディが心に響き、内面の孤独感に寄り添う一枚。
Ocean Rain by Echo & the Bunnymen
メランコリックなサウンドと叙情的な歌詞が印象的で、The Jesus and Mary Chainの静かでダークな一面を好むリスナーにとっても共鳴する作品。
Disintegration by The Cure
哀愁漂うメロディと冷淡な歌詞が特徴のポストパンクの名作。ダークな雰囲気とメランコリックなサウンドが『Darklands』と共通し、内面的な感情を呼び起こす。
Treasure by Cocteau Twins
ドリーミーで神秘的なサウンドが特徴で、ノスタルジックな感情と深いメロディが聴く者を包み込む。『Darklands』同様、シンプルながらも内省的な要素が共鳴する。
Songs from the Big Chair by Tears for Fears
ポップでありながらも暗いテーマと美しいメロディが特徴。静かなメロディアスさと感情の重みが『Darklands』と共通しており、80年代の影響を色濃く感じる。
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