発売日: 2012年4月2日(UK)
ジャンル: ポップ・ロック、ダンス・ポップ、アーバン・コンテンポラリー
概要
『Dark Light』は、イギリスのポップグループ East 17 にとって約14年ぶりとなるスタジオ・アルバムであり、
グループの再編とリブートを経て、新ボーカルRobbie Craigを迎えた体制でリリースされた、“再生と模索”の記録とも言える作品である。
90年代に『Walthamstow』『Steam』などでUKチャートを席巻したEast 17は、
その後のメンバー脱退、改名(E-17)、解散、再結成と紆余曲折を経て、
本作でようやく**「East 17」という名義での完全復帰**を果たす。
タイトルの『Dark Light』は、“闇の中の光”“苦悩の中の希望”を象徴する言葉であり、
これまでの道のりを内省的に見つめながらも、新しい時代と向き合おうとする意志が込められている。
音楽性としては、かつてのヒップホップ/R&B路線とは異なり、
**ポップ・ロックやシンセ・ポップ、モダンなアーバンビートを取り入れた“大人のEast 17”**という装いで仕上げられている。
全曲レビュー
1. I Can’t Get You Off My Mind
アルバムの幕開けを飾る、力強いラブソング。
サビでのファルセットとロッキッシュなサウンドが、新体制のEast 17を印象づける。
2. I Know Where You Live
ややミステリアスなサウンドとストーリーテリング的なリリックが特徴的。
都会的で、夜の静寂と執着を感じさせるミディアム・ナンバー。
3. Black Heart
ダークでヘヴィなビートを持つ、現代的なアーバン・ポップ。
愛の痛みと冷酷さを描いた内容で、グループの新しい感情表現が見える。
4. Counting Clouds
ドラマティックなストリングスとバンドサウンドを融合させた壮大なバラード。
新メンバーRobbie Craigのボーカルが際立つ一曲。
5. Friday Night
軽快なクラブチューン。過去の「House of Love」路線を現代風にアップデートしたような、
ノスタルジーと現在の融合が楽しいダンスナンバー。
6. Trouble
ストレートなロック・ポップのアプローチ。
“トラブルメーカー”としての自嘲的ユーモアとエネルギーが詰まった一曲。
7. Broken
傷心と回復をテーマにしたパワー・バラード。
East 17のバラードラインの伝統を引き継ぎつつ、より切実で成熟した響きを持っている。
8. Dark Light
タイトル曲。静かで内省的な導入から、徐々に光を取り戻すような構成が秀逸。
サウンドとメッセージの一致が際立った、アルバムの精神的核。
9. I Just Wanna
恋の高揚感をシンプルに歌い上げるポップソング。
爽快なサビとダンサブルなリズムで、ライブ映えも期待できるナンバー。
10. Please Don’t Leave Me
切実なメッセージがストレートに響くピアノ・バラード。
“Stay Another Day”を思わせる余韻とともに、East 17の原点に帰るような楽曲。
11. I Want It All
強欲と野心、恋と現実が交錯する中毒性の高いエレクトロ・ポップ。
リフレインが癖になる作りで、後半の盛り上がりも印象的。
12. The Man Who Loved to Dance
軽快なリズムでアルバムを締めくくるパーティーチューン。
どこか郷愁を感じさせるタイトルと、最後の夜の高揚感が胸を打つ。
総評
『Dark Light』は、East 17にとってノスタルジーに逃げるのではなく、“再定義”を選んだ勇気ある再始動作である。
かつての音楽的DNAを完全には残していないものの、
新体制のEast 17が、年齢と経験を重ねたからこそ鳴らせるサウンドがここにはある。
過去のファンには意外性をもたらす一方で、
今のリスナーにも届くクオリティの高さと、**正直な“変化の受容”**が魅力となっている。
このアルバムは、East 17という名を冠した“新しいバンド”の1stアルバムなのかもしれない。
そしてその中心には、かつて“Stay Another Day”を歌った青年たちの、
今も変わらぬ“夜のなかで光を探す声”がある。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『Progress』
再結成後の成熟したサウンドを目指した、同世代バンドによる大人のポップ。 - A1『Rediscovered』
再始動後のモダン・ポップを追求したボーイズグループの好例。 - Boyzone『Brother』
大人の哀愁と絆をテーマにした、再結成後の円熟アルバム。 - Blue『Roulette』
EDM以降のポップとの融合を試みた、UKボーイバンドの現代的アプローチ。 - Westlife『Spectrum』
現代的プロダクションを採り入れたリブート型ポップの成功例。
後続作品とのつながり
『Dark Light』はEast 17の復活劇としての意味合いが強いが、
以降の活動では再びメンバーチェンジを経ながらも、グループは緩やかな形で存続。
このアルバムは、その過程での最初で最後の“完全体E-17の再挑戦”の記録とも言える。
変わりながら、名を残す──それがEast 17という存在の“暗い光”の正体なのだ。
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