発売日: 2002年9月30日(欧州)
ジャンル: ポップ、ユーロダンス、レゲエポップ、ソフトロック
概要
『Da Capo』は、Ace of Baseが2002年にリリースした4枚目のスタジオ・アルバムであり、そのタイトルが示す通り、“最初から再び”を意味するラテン語に基づくリセット的作品である。
グループとしては1998年の『Flowers』以来、実に4年ぶりとなる新作で、商業的には控えめながらも、音楽的には初期のポップ感覚と後期の内省的サウンドを融合させた集大成的内容となっている。
2000年代に突入した音楽シーンでは、R&Bやヒップホップ、トランス系が主流となっていたが、本作ではあえてAce of Baseらしい“90年代的なユーロポップの美学”を維持することにこだわり、その姿勢がコアファンには高く評価された。
このアルバムには、「Beautiful Morning」「Unspeakable」といった軽快なポップソングから、内省的で深いメッセージを秘めたバラードまで幅広く収録されており、グループの音楽的多面性が浮き彫りになっている。
プロモーションは限定的であったものの、ヨーロッパを中心に好意的な評価を受け、Ace of Baseの終章とも言える時期において、静かに力強い存在感を放つ作品となった。
全曲レビュー
1. Unspeakable
シンセポップと軽やかなレゲエ調ビートが融合した、Ace of Baseらしさ満点のリード曲。口にできない感情をテーマにした歌詞が心に残る。
2. Beautiful Morning
新しい朝、再生、希望といったポジティブなテーマをストレートに描いた楽曲。明るくキャッチーなメロディが印象的。
3. Remember the Words
内面への問いかけを主題とした中テンポのポップバラード。シンセを抑えたシンプルな構成が歌詞の力を引き立てる。
4. Da Capo
アルバムのタイトル曲にして、最も実験的なサウンド。ノスタルジアと未来が交差するような、メタ的な構造が特徴。
5. World Down Under
エキゾチックなリズムとオーストラリアを想起させる歌詞がユニーク。地理的モチーフを恋愛と重ねる手法は彼ららしい。
6. Ordinary Day
日常に潜む美しさを見つめる、ミディアムテンポの爽やかなポップチューン。ボーカルの柔らかさが心地よい。
7. Wonderful Life
原曲はBlackの1987年のヒットだが、本作ではAce of Baseらしい清涼感のあるアレンジに仕上げられている。諦観と希望が交錯する。
8. Show Me Love
クラブ調のビートに乗せて愛を問いかけるダンストラック。シンプルなフックが中毒性を生む。
9. What’s the Name of the Game
ゲーム感覚の恋愛を軽妙に描いたアップテンポ曲。ユーモアとポップセンスが融合する。
10. Change with the Light
光と変化という象徴的なテーマを扱った、内省的な歌詞のバラード。アルバム後半の静けさと対照をなす核のような存在。
11. Hey Darling
初期のAce of Baseに通じるレゲエポップ調の楽曲。甘く親しみやすいメロディラインが印象的。
12. The Juvenile
アルバムのラストを飾るにふさわしいバラード。若さと罪、無垢さと過ちといった二面性を描き、静かな余韻を残す。
総評
『Da Capo』は、Ace of Baseの成熟した姿と、その“原点回帰”の精神が静かに表現された作品である。
タイトルが示すように、彼らはこのアルバムで初期の魅力—明快なメロディ、軽やかなレゲエ・ビート、ポジティブなメッセージ—に立ち返りつつも、それを単なる懐古ではなく、深化した表現として再構築している。
その一方で、トレンドに迎合することを避けた選曲とアレンジは、当時のメインストリームに対して“逆行”するものでもあり、結果的に商業的成功にはつながりにくかった。
しかし、本作はAce of Baseの“本質”を再確認させてくれる誠実なアルバムであり、ファンにとっては宝物のような一枚となっている。
特に「Unspeakable」「Beautiful Morning」「Change with the Light」などは、彼らの楽曲の中でも過小評価されている名曲として、ぜひ再発見してほしい。
“静かなる再出発”としての『Da Capo』は、Ace of Baseというグループの最後の煌めきを閉じ込めた、記憶に残る作品なのである。
おすすめアルバム(5枚)
- Savage Garden『Affirmation』
2000年代初頭のポップバラードとして、感情表現の繊細さに共通点が多い。 - A-ha『Minor Earth Major Sky』
90年代後半〜2000年代初頭の北欧ポップの成熟例。Ace of Base同様、洗練されたサウンドが魅力。 - Dido『Life for Rent』
内省的な歌詞とポップな感性のバランスが秀逸で、本作の静かな情緒と通じる部分が多い。 - The Corrs『Borrowed Heaven』
透明感のあるメロディと家族ユニットとしての親密さがAce of Baseと重なる。 - Sophie Ellis-Bextor『Shoot from the Hip』
2000年代初頭のUKポップとして、クールさとキャッチーさを併せ持つ音作りに共通点がある。
後続作品とのつながり
『Da Capo』以降、Ace of Baseは長らく新作アルバムをリリースしていない。
実質的にこの作品が“最終章”となっており、以後はメンバーのソロ活動や再編を経て、新たな音源の発表は限定的となった。
しかし、近年では再評価の動きも強まり、彼らのカタログはサブスクやSNSを通じて新たな世代に発見されている。
『Da Capo』は、静かに幕を下ろした彼らのキャリアにおいて、控えめながらも深い愛情と芸術性が詰まった最後のスタジオ・アルバムとして、確かな存在感を放ち続けている。
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