発売日: 2017年6月16日
ジャンル: インディー・フォーク / アート・フォーク
6年ぶりにリリースされたFleet Foxesの3rdアルバムCrack-Upは、前作Helplessness Bluesでの哲学的なテーマをさらに深化させ、実験的な要素を大幅に取り入れた意欲作である。このアルバムは、アメリカの作家F. Scott Fitzgeraldのエッセイ「Crack-Up」からタイトルを取っており、個人の内的な崩壊や再生を描くリリックが、緻密で多層的なサウンドと融合している。
リーダーのRobin Pecknoldが再び中心的な役割を果たし、バンドのサウンドはより複雑で挑戦的な方向へ進化した。楽曲は長尺でダイナミックな展開を持つものが多く、断片的な構造が聴き手を引き込む。さらに、アート・フォークと呼ばれるジャンルの新境地を切り開くような構成力が際立つ。以下に全11曲を解説し、このアルバムが持つ魅力を紐解いていく。
1. I Am All That I Need / Arroyo Seco / Thumbprint Scar
アルバムの幕開けを飾る楽曲は3部構成で、静寂から始まり、徐々に複雑で力強いアレンジへと展開していく。Pecknoldの繊細なボーカルと不協和音のギターが絡み合い、アルバム全体のテーマである「内的崩壊と再生」を象徴する。
2. Cassius, –
ファンキーなリズムとアコースティックギターが織り成す楽曲。政治的なテーマを含む歌詞が特徴で、特にフランス革命を暗示する「Cassius」という名前が象徴的だ。断片的な歌詞と楽器の絡み合いが緊張感を生む。
3. – Naiads, Cassadies
前曲からシームレスに続く楽曲。流れるようなメロディとコーラスが美しく、自然や神話的なイメージが歌詞に散りばめられている。特に「Naiads」という水の妖精をテーマにした部分が印象的。
4. Kept Woman
内省的で静謐な一曲。Pecknoldの儚げなボーカルが際立ち、ピアノとストリングスが楽曲全体に繊細な彩りを加える。歌詞には抑圧された状況からの解放への願いが込められている。
5. Third of May / Ōdaigahara
アルバムの中心的な楽曲で、9分近い大作。流れるようなギターリフとPecknoldの情熱的なボーカルが織り成す壮大な展開が聴きどころ。歌詞には個人と社会の対立、友情の崩壊など複雑なテーマが込められており、アルバムのハイライトとなっている。
6. If You Need to, Keep Time on Me
シンプルなアコースティックギターの伴奏とPecknoldの優しい歌声が美しい楽曲。喪失や愛をテーマにしており、「Keep time on me」というフレーズが聴き手の心に深く響く。
7. Mearcstapa
タイトルは古英語で「境界の歩行者」を意味し、テーマは孤独と疎外感。低音の効いたベースラインと不安定なリズムが曲全体に不穏な雰囲気を与えている。
8. On Another Ocean (January / June)
ポリリズムと複雑なメロディが絡み合う楽曲。歌詞には時間や季節の移ろいが描かれており、曲の構成も変化に富んでいる。静と動の対比が鮮やかだ。
9. Fool’s Errand
シングルとしてリリースされたこの楽曲は、Fleet Foxesらしい多声のハーモニーが印象的。「Fool’s Errand(無駄な努力)」というタイトルが示す通り、報われない努力と葛藤をテーマにしている。
10. I Should See Memphis
ミニマルなアレンジが特徴で、Pecknoldのボーカルとアコースティックギターが楽曲を支える。旅や過去との和解をテーマにした歌詞が、アルバム全体のテーマに深みを加える。
11. Crack-Up
アルバムのタイトル曲で、静かに始まり、壮大なクライマックスを迎える構成が印象的。繊細なストリングスとピアノが、Pecknoldの内省的な歌詞を引き立て、アルバム全体を美しく締めくくる。
アルバム総評
Crack-Upは、Fleet Foxesの音楽的野心が結実したアルバムであり、内的な崩壊と再生という普遍的なテーマを実験的なサウンドで描いた傑作である。長尺の楽曲や複雑な構成は、前作までの比較的シンプルなフォークサウンドとは一線を画しており、より深い没入体験を提供している。Fleet Foxesの特徴である美しいハーモニーは健在でありながら、挑戦的で革新的なアプローチが全編にわたって展開されている。リスナーにとって、繰り返し聴くたびに新たな発見があるアルバムだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Helplessness Blues by Fleet Foxes
哲学的な歌詞と緻密なサウンドスケープが共通し、Crack-Upのルーツを感じられる作品。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
個人的なテーマと詩的な歌詞が共通するオルタナティブフォークの名盤。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的な歌詞と実験的なフォークサウンドが共通するアルバム。感情的な深みが魅力。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
喪失や再生をテーマにしたアルバムで、繊細なアレンジがFleet Foxesの世界観と響き合う。
Have One on Me by Joanna Newsom
長尺の楽曲と複雑な構成、叙情的なテーマが共通するアートフォークの傑作。
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