1. 歌詞の概要
「Cola」は、Arlo Parks（アーロ・パークス）が2018年にわずか17歳でリリースしたデビューシングルであり、その名を初めて広く世に知らしめた重要な一曲である。この楽曲は、恋愛関係の終焉と、それに伴う感情の整理をテーマとしている。別れを受け入れる過程で感じる喪失、怒り、そしてやがて訪れる静かな再生――そうした感情の移ろいが、詩的かつ抑制の効いた語り口で表現されている。
タイトルの「Cola（コーラ）」は、失われた恋人が好んでいた飲み物として登場するが、それは単なる嗜好品ではなく、記憶と感情の象徴として機能する。今も冷蔵庫に残るその飲み物を見るたびに、語り手は“もういない誰か”の存在を思い出す。しかし、その記憶はもう彼女を支配してはいない。ただ静かに、“かつてあったもの”としてそこにあるだけだ。
この曲が優れているのは、失恋という普遍的なテーマを、センチメンタルに過剰な演出をすることなく、まるで短編小説のように淡々と、美しく描き出している点にある。
2. 歌詞のバックグラウンド
Arlo Parksはロンドン南西部出身の詩人／シンガーソングライターであり、その文学的なセンスと繊細な感受性によって、デビュー当初から注目を集めていた。「Cola」は彼女が自身のベッドルームで制作したという、まさにDIYの精神に満ちた作品でありながら、その完成度の高さと情緒の深さは、成熟した表現者のそれであった。
この曲において特筆すべきは、そのミニマルなアレンジと、ほとんど囁くようなヴォーカルスタイルである。ギターのループと、空間を意識した余白のあるサウンドが、歌詞の内省的なトーンと完璧に呼応しており、聴く者を静かな物語世界へと誘う。
「Cola」は、のちに彼女のデビューアルバム『Collapsed in Sunbeams』（2021年）には収録されなかったものの、その詩情と雰囲気はアルバム全体の原型のような存在であり、Arlo Parksというアーティストの“出発点”を象徴する楽曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Leave me to my own devices
私にかまわず、そっとしておいてIt’s better when your Coca Cola eyes are out of my face
あなたの“コカ・コーラ色の瞳”が見えなくなった今の方が、きっとましだわI checked your phone and no surprises
あなたのスマホを見たけど、やっぱりねって感じShe’s grinning from ear to ear in purple lace
紫のレースを着た彼女が、満面の笑みを浮かべてたAnd I don’t want to be tough
私は、強がりたいわけじゃないBut I’ve had enough
でも、もう十分だったの
歌詞引用元：Genius Lyrics – Cola
4. 歌詞の考察
この曲では、“裏切られた恋”というテーマが、驚くほど静かに、淡々と描かれている。語り手は怒っているわけでも、泣いているわけでもない。むしろ彼女は、その関係に終止符を打つことの正しさを、どこかで理解している。そして、もう戻らないとわかっていながらも、「でもまだ冷蔵庫にコーラが残っている」という、ささやかな記憶の名残を慈しむ。
「Coca Cola eyes（コカ・コーラ色の瞳）」という詩的な表現は、甘くて刺激的で、だけどいつか気が抜けてしまう飲み物のように、恋人の印象を象徴している。華やかで魅力的だったけれど、どこか空虚で、そしてすでに終わったもの――その比喩は、Arlo Parksの比類ない言葉の感性を際立たせている。
また、「I checked your phone and no surprises」というラインには、現代的な恋愛のリアリティと、そのうえでの“諦め”のような冷静さが滲んでおり、若さ特有の痛みと成熟した視点が同居する不思議なバランスを生んでいる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Night Shift by Lucy Dacus
別れた恋人への複雑な感情を、冷静さと激情の両面から描いた秀逸なロック・バラード。 - Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
比喩に満ちた歌詞とドリーミーなサウンドで“思い出”を描く、シュールな美しさの一曲。 - Nights by Frank Ocean
恋愛と喪失、都市の夜と心の闇が交錯する、詩的で二重構造の叙情詩。 - Sofia by Clairo
思春期特有の混乱と恋心を、ポップでありながら切実なトーンで描いたインディー・ラブソング。
6. “終わってしまったけど、確かにそこにあったもの”
「Cola」は、失恋の痛みを“声高に歌い上げる”のではなく、“静かに振り返る”ことで美に昇華した楽曲である。Arlo Parksは、17歳という若さでこの深度のある表現にたどり着いたことで、多くのリスナーや批評家から“新時代のポエティック・ソウル”と称された。
この曲の魅力は、喪失に対して絶望ではなく、“記憶として受け入れる”という態度にある。失われた関係を恨まず、怒らず、ただそっと見送る。その姿勢は、同時に自分自身を癒やすための儀式でもある。
「Cola」は、恋の終わりが必ずしも“破壊”ではないことを教えてくれる。そこにあった愛を、静かに棚にしまうように――この曲は、そんな“別れの成熟したかたち”を音楽として提示している。そしてそれは、Arlo Parksという表現者の原点であり、彼女の作品が多くの人の心に響く理由でもある。
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